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Phase.167 『恐喝 その3』



 放課後、下校途中に駅の近くにあるコンビニに立ち寄った。


 ATMの前。コンビニには、市原とその取り巻きの池田と山尻もついて入ってきたが、肉まんやらアイスやらを購入すると、外に出てそのまま座り込んだ。そして買ったものを食べながらも、こちらを見ている。


 今日に限って、運悪くキャッシュカードを持ち歩いている。だけどこのまま逃げたら、その後市原達に何をされるか解らない。これは……仕方がない。

 

 ATMの前で突っ立って、何度もそう自分に言い聞かせていると、コンビニの窓ガラスをドンドンと市原が叩いた。目をやると、早くしろと3人共こちらを睨んでいる。そして市原達はおもむろに、ポケットから煙草を取り出すと、ライターで火をつけてふかし始めた。


 下校途中な上に、制服も着ているのに……そう思うだけで声には出さない。


 キャッシュカードを取り出すと、それをATMに差し込む。画面をタッチして……20万円を引き出した。


 小遣いやお年玉、誕生日とかそういうのでもらったお金。それといらなくなったものをネットオークションで売ったりしてできたお金を、全てこれに貯金している。


 ガラス窓の外を見ると、近くによって見ていた山尻が僕の引き出した20万という札束を見て、「おおーー」っというリアクションをしてみせた。それに反応して、立ち上がる市原と池田。


 嫌だ! 嫌だ嫌だ! これは僕の金なのに、なぜいつもいつもいつもいつもずっと、僕を事あるごとに虐めるような奴らにあげなくちゃいけないんだ!! 大恩があるならまだしも、やっぱり納得がいかない。


 もうこのままコンビニを出て市原達に20万、現金を渡すだけだった。それで、機嫌を取る事ができる。殴られもしない。


 だけど、いざ20万円という大金を引き出して手に握ると、僕はどうしても納得がいかなくなった。やっぱり、こんなのおかしい。納得がいかない。何よりこんな大金を渡してしまえば、もう後には引けなくなるだろうと悟った。


 まず断言できる事は、この20万は間違いなく返ってこない。


 市原達は、この金が降って湧いて出た金のように、パアっと使ってしまうだろう。それにこれで味をしめてまた何度もたかってくるし、こんな金額ポンと渡してしまったら、このことを目の前の3人は、誰にでもペラペラと話しまわるに違いない。そうしたら、池田や山尻のように、話した事もないような奴からもたかられるだろう。


 僕だって20万なんて渡したら、貯金もかなり減ってしまうし、渡す金が無いってなったら虐めもエスカレートする。


 教師や警察に行っても無駄。警察は基本的に何かあってからじゃないと動いてくれないし、奴らがそれを知れば、もっともっと虐めは酷くなる。そもそも反省したり会心したりするような奴らじゃないのは、何年も見てきて知っている。


 何かあれば制裁を加えて対処する。それしかできない奴らなんだ。


「…………嫌だ。どちらにしても絶望するなら、よりマシな方を僕は選ぶ」


 気が付くとそう呟いていた。


 市原達が、まだかまだかと、早く出てきて金を渡せとまたコンビニのガラスを叩いた。だけど、入ってはこない。なぜなら煙草をふかしているからだ。


 いくら市原達でも、煙草に火をつけたままコンビニに入ってくるという暴挙にはでれないようだった。つまりこの金は、僕が外へ持って出なければ……


 だけどそうすると市原達は、僕を外に連れ出しに店内に入ってはくるだろう。


 ……でも、逆に言えばあの煙草を吸い終わるまでは猶予がある。頭の中で、葛藤が続く。


 なら――


 僕は窓ガラスを軽く叩く。するとそんな事をした僕の事を、市原達は何事かと驚いて見た。奴らの眉間には、皺がよっていて如何にもイラついている様子。僕がさっさとしないからだ。


 僕は市原達の注目を集めると、コンビニの奥の方を何度か指さした。そう、トイレに行かせてくれと言ったのだ。市原はそれを見て、ペッと唾を吐き捨てると、仲間と一緒にまたその場に座りこんで煙草の続きを味わい始めた。


 よ、よし! これで、僕に対する注意は軽くなった。


 僕は引き出した20万をぎゅっと折り曲げると、強引にポケットに突っ込み、持っていたカバンに腕を通して肩の方まで遠してリュックのように背負った。


 そして目の前の商品棚の裏手に回り、市原達から一時的に姿を隠して、トイレに行ったと見せかけた。よし、覚悟を決めろ! 同じ絶望が待っているなら、どちらを選ぶか! 


 タイミングを見計らい、レジの前を猛ダッシュで駆け抜けて、コンビニを飛び出す。そのまま市原達の方を振り返りもせず、勢いよく走り抜けた。


「おい!! あいつ逃げたぞ、市原!!」

「なにいいい!! おい待てこら、大谷!! 今すぐ待たねーと、ぶっ殺すからなああああ!!」


 やった!! やってしまった!! もう引き返す事はできない。僕は全速力で市原達から走って逃げた。当然市原達は、吸っていた煙草をその辺に放り捨てると、全力で走って追いかけてきた。


 ま、まずい!! 煙草なんか吸ってろくに運動なんかもしていない不良なのに、僕の方が足が遅いし動悸も激しい。


 僕は典型的なオタクで、運動も苦手なんだ。だけど捕まるわけにはいかない。ここで逃げ切ったとしても明日、また何をされるかも解らないけど、兎に角僕は、今は逃げ延びる事を決めたんだ。


「待てって言ってんだろおおがよおお!! 大谷!! てめえ、絶対泣かすからなああ!!」

「待て、こら!! クソヤロウがああ!!」

「おい! 金よこせ!!」


 追って来る!! 市原も池田も山尻も、追って来る。鬼の形相で追って来る!!


 走って走って、僕は駅近くの商店街へと逃げ込んだ。


 ここなら人目があって……とも思ったけれど、市原達は、そんなのもう関係ないとばかりに、そのまま僕を捕まえる為に商店街へ追ってきた。

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