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Phase.166 『恐喝 その2』



 高校入学。その頃僕は、誰から見ても解りやすい虐められっ子になっていた。


 中学卒業と共に、やっとあの市原大那(いちはらだいな)から離れる事ができる。そう思っていたのに、同じ高校に入学する羽目になってしまった。


 中一の時に起きた教室でのカツアゲ騒動。あれから僕は、気が弱く誰にでもちょっと凄まれると、悪くもないのに謝り、お金を渡すヘタレとして烙印を押されていた。


 少し考えればあの事件で注目され、叩かれるのは市原のはずなのに……だけど現実はそうではなかった。虐めをする者は責められず、虐められている者がカッコ悪いと蔑まれる。とても理不尽な世界。


 それからの中学三年間は本当に地獄だった。市原や、市原と仲良くしている奴らは、僕を見つけては蹴る殴るで、理由は「ムカつく」という意味不明で簡単なもの。そして二言目には、「金をよこせ」「援助してくれ」など言って来る。


 もう耐えられなくて中学二年の後半から三年の間は、ほとんど不登校になっていた。それで部屋に籠ってゲームゲームゲーム。漫画やアニメなど……それが僕の青春の全て。


 登校するように説得する事を諦めた親が、学校に行かなくてもいいから少しは外に出て、散歩でもしてくればと言うので、たまには家を出てはネカフェに行ってまたゲームをした。


 世の中の人達の声が、全て俺には雑音に聞こえ始めていた。それが僕の青春の終わりであり、そして新たなる始まりだったのかもしれない。


 中学三年最後、親は僕に高校へ進学してほしいと言った。僕はそれを聞いて首を横に振ろうとしたが、その時たまたまテレビ番組でニートとかそういうのの特集を見て、このままただ落ちていくのは両親に申し訳ないと思えた。だから高校へは行く事にした。


 それに高校へ行けばまた一からやりなおせる。そう軽く考えていた時期があった。


 ゲームやアニメばかりに(うつつ)を抜かしていた僕の学力では、高校への進学は難しかった。それでも行くと決めてから、必死になった。それでギリギリ合格できた高校。


 僕の行く学区では最低の高校だけど、これで散々心配させていた親へ少しは、安心させる事ができるのかなって思った。


 高校からは一新。そう思っていただけに、僕と同じ高校に、あの市原が通う事を知って絶望した。市原は直ぐに僕の事を、他のクラスメイトに話した。奴は便利なATMだと。


 学区最低の高校という事もあって、市原のような如何にも悪そうな連中、もしくは僕のようなやる気のない勉強のできないどうしようもない連中だらけの学校。


 僕は直ぐに親の仇のように目を付けられ、話したこともない奴から金をとられたり、蹴られたり殴られた。浴びせられる罵声も散々だった。


 僕は、次第に生きること自体の希望を失っていった。そしてまるで人の身体に取り付いて血を吸うヒルなどに市原が見えた。


 市原はきっと一生僕に取り付いて、僕から養分を吸い続けていく。そうやって生きている生き物。


 両親は悲しむかもしれない。だけど、僕は……生きていく事がとてもつらくなってきていた。


 この世界に僕は愛されていない。僕が生きていけるとしたら……そんな世界はないけれど、僕が大好きなファンタジーの世界。異世界だけだと思った。夢物語、そんなもの無いとは解っているけど、あればいいなと思う。


 その世界なら僕ももう一度、本気を出して精一杯生きたい。そんな事が現実に起きたら、どれ程幸せだろうか。神様がもしもいて、そんな願いをかなえてくれるなら死んでもかまわないと本気で思った。


 そんな現実離れした夢物語でも考えないと、毎日の苦しみには到底耐えることができないと思った。


 生きる希望を失くし始めたある日、教室の外の廊下でまた市原が絡んできた。高校になって既に子分ができたのか、市原と同じ顔をした如何にも不良といった感じの奴が、話した事はおろか目も合わせた事もないのに市原と同じ顔、同じ目をして僕を睨んできた。


「よーよー。ちょっといいか、大谷」

「な、なに?」

「実はよー、至急金が必要になっちまってよー、困ってんのよ」

「……いくら?」

「お、ノリいいじゃねえか。援助してくれる? 実はちょーーっち言い出しにくい額なんだけどさ。それでも俺を助けてくれるよな? 20万なんだけどさ」

「に、20万!?」

「お前、それ位持ってんだろ? 山ほどゲームとかそーいうのに金使ってんのは知ってんだからよー。今日、学校から帰る時に一緒に金下ろしに行こうぜ」

「そ、そんな」

「言っとくが、絶対逃げんなよ。逃げたら、明日から更に地獄モードになるからよ。生きていく事が地獄モードだ。解るよな」


 市原はそう言って、僕の背中をバシバシっと痛みを感じる位に叩くと、向こうへ行ってしまった。


 僕は……僕はどうすればいい。いつもみたいに、黙って金を渡すのか? いや、20万なんて大金。冗談じゃない。だけど渡さなければきっと僕は、市原に殺されてしまう。


 今まで以上に虐められて、生きていくのがつらいと思う位に追い詰められる。だから殺される。


 もうどうしていいか解らない。教師に言っても結果は同じ。市原の言う地獄モードになる。


 親……ううん、僕の親は駄目だ。僕と同じく気も強くないし、こういうトラブルを嫌う。どうにもならない。じゃあ警察……それも駄目だろう。


 ストレスでおかしくなりそうになっていると、市原が待つ放課後になっていた。

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