Phase.165 『恐喝 その1』(▼大谷 良継)
僕の名前は大谷良継。子供の時は、何処にでもいる子供だと思っていた。でも年齢を重ねるにつれて、自分が他の人と違う事に気づいた。
僕の家は、一戸建てだったけど別にお金持ちの家庭では無かった。普通の家。いや、正確に表現すると中の下くらいか。まあ、そんなところ。
だけど僕が小学生に入った頃に、父親が最新の携帯ゲーム機を家に持って帰ってきた。会社のパーティーかなんかでクジで当てたと言っていた。
うちは僕一人、一人っ子なのでそういう物も独り占めできる。まだ幼かった僕は、父親から早速最新携帯ゲーム機を受け取ると部屋にこもってゲームをやった。
ゲーム機には一つ、ゲームソフトがついていたのでそれをやった。それはファンタジーゲームで、当時そういうゲームショップなどの店頭でポスターが張り出されていたもので、テレビでCMを大々的にやっている程の人気のファンタジーゲームだった。
僕はそれから剣と魔法、そして魔物など登場するファンタジーゲームの虜となった。ファンタジー関連のアニメをみたり漫画やラノベを読んだり――
中学生に入学する時には、もうオタクになっていた。学校には、登校してはいたものの休憩時間や昼休みには、ゲームの攻略本なんかを持って行ってそれを読みふけっている。授業が終われば、真っすぐに帰宅して部屋に籠ってゲーム三昧。そんな子供だった。
するとまともな友達もできず、常に一人で学生生活を送る事になった。たまに女子が話しかけてきたけれど、女子とまともに話した事の無い僕はどう返事をしていいのか解らずに、無視するしかなかった。僕には二次元しかないから――そんな事を考えるようになっていた。
中学1年の夏。その辺りから、特定の女子以外にも僕の事が気になって話しかけてくる者が現れた。いや、話しかけてくるっていうのは適切ではない。ちょっかいを出してくる。まずはそんな感じだった。
学校の休憩時間。ゲームの攻略本を読みたいと思っているのに、そいつは僕のその楽しみを邪魔し始めた。
「おいおい、何見てんだ? ゲームの攻略本かよ、これは!」
「や、やめてよ市原君。そ、そんな乱暴に扱ったら破れちゃうし、カバーが外れて」
ビリリッ
「おっと、すまねー大谷。言ってるそばから破いちまった。まあ許してくれよな」
市原大那。市原は、そう言って僕から取り上げた僕の本を破いて、乱暴に机に叩きつけた。
僕はこういうのが我慢ならない。僕はオタク趣味で、自分の好きなゲームや漫画、それにアニメの円盤などを集めているけれど、本なんかは学校へ持っていく。
たまにそれを見かけたクラスメイトが見せてくれとか貸してくれとかいうが、カバーに折り目をつけたり本を開いたままうつ伏せに机に置いたっきりにしたり……
自分自身のものなら勝手にすればいいと思うけど、他人から借りたものを平気でそういう風にしてしまう神経の持ち主に、僕はわずかでも関りを持ちたくない。そういった気持ちが、知らず知らずのうちに態度に滲み出る事もある。それが余計に市原の神経を逆なでにした。
「オタク野郎」
「…………」
「おい、おめーだよ。こっち向けよ」
「……な、なに」
「てめーだって言ってんだろ、オタク野郎。いつまでもそんな破れた本の事、根に持ってんじゃねーよ」
「……僕にとっては大事なものだ」
「大事なもんだと? それならそんな大事なもんを学校に持ってくるなよ。持ってくるって事は、どうにかなっても覚悟はできてるって事だろ? それにアレだ。学校にそんな必要のないものを持ってきていいのかよ」
それを言われると何も言い返せない。本当は、市原だってもっと駄目なものを持ってきては、他の奴に見せびらかせている。バタフライナイフ。僕のこんなゲームの攻略本なんかより、教師に見つかったら大変な事になるものだ。
だけど、だれもそのことを言わない。もしも市原の癇に障ってバタフライナイフで刺されでもしたら……そう思っている者も多いけど、一番の理由は他にもあった。
市原が仲良くしているという先輩。暴走族らしくて、僕や他の者もそういう感じの人達が、市原を放課後に迎えにやってくる。校門の所まで原付でやってきているのも、何度も見ていた。
暴走族なのに、原付っていうのが引っ掛かりはするけれど、それでも茶髪にしたり金髪にしたり、反りこみを入れては乱暴に装っている姿を見ると皆怖がる。
だから、何を言われても言い返すような事は出来なかった。
「それはそーとさあ、大谷くんよー。お前さー、けっこーこういう本買ったりゲーム買ったりしてるみたいじゃん?」
「そ、そう?」
「そうだよ! 誰が見てもそうだろーがよ。つまり、金持ちってことじゃん? そうなんだろ?」
「いや、金持ちじゃないよ」
「金持ちじゃないならなんだよ!」
「え? 普通だけど」
「普通じゃねーっつってんだろーが! 金持ちでなきゃ、普通はそんな本やゲームを山ほど買ったりできねーだろが! 俺んちは大谷くんと違ってビンボーだからよ。それってとても不公平なんじゃね?」
僕の家は中の下だ。確かに仲のいい友達もできず、自分の部屋に籠ってばからりいる僕に対して親は、不憫に思って小遣いを他のクラスメイトよりも多くくれているのかもしれない。
だけど、それは家庭内の事で市原とはなんの関係も無いことだし、市原の家が貧乏とかそういう話も僕にとっては、どうでもいい事だった。
むしろ、かかわりたくない。目線をそらす。すると市原は「おい、てめえ!」っと言って胸倉を掴んできた。
「ひいっ!!」
「シカトすんじゃねーよ!」
「ぼ、僕にいったいなんだって言うんだ?」
「あ? そんなん決まってんだろ? 余裕のあるものが、余裕のないものに手を差し伸べるもんだろーがよ。お前、金持ってんだから少し俺に貸してくれよ。いいだろ?」
教室で堂々とカツアゲ被害にあった。
ここで断ればきっと殴られる。一度殴られればこういう奴は、それを皮切りにことある事に殴ったり蹴ったりしてくる。それが解っていた。
僕は他のクラスメイトが注目する中、市原に堂々とカツアゲをされて、そして奴の目を見て睨み返す事もせず、そっとズボンの後ろのポケットに入っている財布に手を伸ばした。




