Phase.160 『九条とツルギ』
とりあえず今日の所は、皆にさっと意見を聞いて決める事にした。銃を入手する方法はこれで一つ知った訳だし、それだけでも上出来だろう。
まあでも、仮に今日ここで決断して、銃を購入するにしても俺は持ち合わせがない。
「翔太はどうする?」
「ううーーん。そりゃ欲しいけどさ。欲しいけど……俺は保留かな。かなり高額な買い物だし、銃一つ買うのにこれ……車が買えちゃうよね。万年金欠の俺にはちょっとチビシーなあ」
「だよなー、俺もだよ」
「まあそんな訳で、俺は保留。佐竹さん達からもらった剣もようやく使い慣れてきたし、俺は異世界なら異世界らしくもっと剣を使いこなせるようになりたいからな」
翔太のその言葉にドキリとして、その通りだと共感してしまった。
『異世界』は、ファンタジ―世界だ。ワイバーン、翼竜やゾンビなんかも俺は見た。魔法だって、アルミラージの角の粉末の効果というものの力を見た。それは不浄なものを瞬く間に浄化し、植物の種なんかを、一瞬にして急激に成長させるまさに魔法のようなもの。
だから、ドキリとして思った。銃は物凄く強力な武器だ。だけどあの異世界には、まだまだ俺達の知らない魔物や魔法のような力があるに違いない。銃だけに頼っていたら、それが通用しない何かだってあるのではないだろうか。
例えば……例えば、とても恐ろしい魔物がいたとする。そいつは、伝説の剣のような特別な武器でしか倒せないとする。そうなれば、銃なんて役には立たなくなるのではないか。
剣術など一切身に着けず、強力な銃しか頼りにしていなければそんな事に直面した時に、大変な事になるのではないか。そんな事を考えてしまってのドキリでもあった。
やっぱり、翔太はたまに核を突く。銃は正直欲しいし絶対あった方がいいけど、剣で戦えるという事もきっと大事。だから拠点に戻ったら、また俺も剣の稽古をしようと思った。
「鈴森は? 鈴森は買うのか?」
「買う」
即答だった。いや、解ってはいたけど。
「だが……買いたいけど、高すぎて買えない。正直、ニートにはきつすぎる出費だ。でも欲しい」
唸り続ける鈴森。ずっと銃を手に入れたがっていた。
出せる金があれば、俺も協力してもいいかもしないとも思う。
だって鈴森の武装が強化されれば、それは拠点の安全にもつながるという事。剣なども上手に使えるようになった上で、銃という武器もある。それが、現時点で最も理想だろうと思う。だけど俺の安月給ではどうにもならない。
「北上さんと、大井さんはどうする?」
唸り続けている鈴森をよそに北上さん達にも質問した。すると北上さんと大井さんも即答だった。
「私達もとりあえず保留かな。ね、海もそうでしょ?」
「うん、私もそう思う。銃の利点ってやっぱり飛び道具っていう遠距離攻撃ができる事だと思うんだけど、私達にはそれに代わる強力な武器があるしね。当面は今のままでいいと思う。でも宝くじが当たったりとか、そんな事まずないと思うけど……多額の臨時収入があって余裕ができたら護身用としても欲しいかな」
「うん、なるほど」
鈴森以外は、とりあえず銃はまだいいかなって所か。まあ値段が値段だからな。もっとリーズナブルなら皆、購入したかもしれないけれど、仕方のない事だ。今日の所はこれで良しとして、そろそろおいとましよう。そう思った所で、店の奥から音がした。
誰かいる?
目を向けると、そこに一人の女の子が現れた。ゴスロリの可愛らしい女の子。北上さんと翔太が、声をあげる。
「え? 他にお客さんがいたの?」
「め、めっちゃ可愛い子じゃないか!!」
「おい、初対面でいきなりいうセリフじゃないだろ」
翔太に突っ込む。すると九条さんが笑った。
「すまん、実はお前たちがここにやってくる前に、先客がいたんだ。奥の部屋であって、話をしていたんだけどな」
「ごめんなさい、ちょっと話が聞こえたものだから」
女の子は静かな声でそう答えた。ど、どこかで会ったような気もするけど……それはないか。じゃあなぜ、そんな事を思ってしまったのだろう。
少し考えてみると、答えが解った。
そうだ、秋葉原にあるメイドカフェ『アストリア』。そこにいるマドカさんとよく雰囲気が似ている。メイドとゴスロリって違いはあるけれど、何か雰囲気やたたずまいのようなものが似ていると思った。
九条さんは、手招きしてカウンター席にその子を座らせた。
「すまんな、でもツルギが出てきたって事は……」
ツルギ? この女の子の名前か?
「初めまして。ツルギと申します。あなた方が使っている転移アプリ、それを取り扱っているお店の関係者と言えばよろしいでしょうか?」
「ええええ!! マ、マドカさんの!!」
「ミ、ミケさんの!!」
え? ミケ?
翔太が放った名前と、北上さんが放った名前。それは違っていた。そう言えば聞いてなかったけれど、もしかして北上さんと大井さんは俺や翔太、鈴森のように秋葉原で転移アプリを入れてもらったんじゃないのか?
でも、話がこんがらがるから、とりあえずそれは、一旦今は置いておいた。
「そうです。実は我々が提供させて頂いている転移アプリに関して、新しいサービスが導入されることになっておりまして――それがなんと今日からなのです。そのお話を今日は、こちらにいらっしゃる九条さんにお伝えしに参りましたが、そこへ偶然あなた方がいらっしゃったという訳です」
「そ、そうなんだ。そ、それで、そのサービスというのは?」
「気になりますか? フフ、気になりますよね。そのサービスですが、きっと今のあなた方にとってとても魅力的なサービスになると思います。本日21時サービス開始ですので、もうどなたにこのお話をしても問題がありませんから、ついうっかり。差し出がましいとは思いつつも、お声をかけさせていただきました」
「そ、それでその肝心の、サービスっていうのはいったい?」
秋葉原にあるメイドカフェ、『アストリア』にいるマドカさんにとても雰囲気が似たツルギさん。
突如俺達の前に姿を現した彼女が、いきなりとっておき話をし始める。その気になるサービスの内容は、いったい……
それについて質問すると、彼女は俺達が予想通り話に食い付いた事に対して、その美しい顔に笑みを浮かべた。




