Phase.157 『三鷹 その2』
仕事を終えて、夕方。職場がある高円寺から翔太、北上さん、大井さんと共に中央線で三鷹駅まで向かう。
三鷹駅の南口改札を出た所で、待ち合わせしていた鈴森と長野さんと合流。6人揃った所で、長野さんの案内であるお店に向かった。
そう、銃が手に入るという場所。そこは店だという。っていう事は、もしかしてガンショップ?
アメリカとか海外ならまだしも、三鷹にガンショップなんてあるのかと思った。例え猟師の為の、狩猟ショップだったとしても、こんな住宅地にあるのだろうかと思う。
そう、長野さんに連れられている場所は、普通の住宅地だった。おそらく方角から言って、井之頭公園の方へと歩いている。
でも駅までは、歩かないだろう。なぜなら井之頭公園に行くなら、吉祥寺駅で降りた方がいいからだ。吉祥寺駅なら高円寺から4駅。三鷹より、1駅近い。
鈴森が「本当に大丈夫か」と言いたげな感じで翔太を突つき、突かれた翔太が長野さんに言った。
「長野さん、ちょっと質問していいッスかね?」
「ああ、いいよ」
「本当にこんな所に、ガンショップ……じゃーなくて、そのーー店はあるんすか」
「はっはっは。住宅地だからね。でもだからこそ、こっそりと商売するならいい場所だと思わないか?」
「うーん、そうなんですかねー」
「直に解るよ。ほら、ここからもう見える。あの建物が目的地だ」
コンクリートの壁に囲まれた、四角い建物。入口には車が二台止められていて、自転車も駐輪してあった。どうみても、誰かが住んでいる普通の家。
庭には綺麗な花が植えられていて、玄関には蛙の置物がいくつも設置されている。そして表札には、『九条』。
翔太に続いて、今度は俺が長野さんに聞いてみた。
「九条さんっていう人なんですか? でもここは普通の住宅ですよね。もしかして、ここの九条さんの自宅で取引……というか、商売されているんですか?」
「まあ自宅と言えば自宅なんだけどね。でも儂らがお邪魔するのは、店の方じゃよ」
長野さんはそう言って階段を指した。あれ、庭の方を見ると、地下へ降りる階段がある。庭には綺麗な花が沢山植えられているけど、それで隠れて地下への入口があるのに気づけなかった。
「店は地下なんだ。皆、気を付けて階段を降りてくれ」
地下への階段もその周りの壁も、コンクリートだった。一面コンクリートの建物。
階段を下まで降りると、扉がある。その扉を開けて中に入ると、そこは確かに店になっていた。
クラシックな感じのまるで、如何にも喫茶店……もしくはBarと言った感じの店。そしてそんな店の雰囲気にマッチした洒落たBGMと、しっかりと空調が効いていて涼しい空間。
俺達の拠点は、当然ながらエアコンなんてないから夜は寒いし天気の良い昼間は、汗が止まらない位暑い日もある。
もしも小屋内にエアコンを設置できれば、更なる快適な異世界ライフができるのになと思う。だけど、その前にやらなくてはならないことが山積みだ。
全員店に入ると、カウンターの奥から如何にもって感じの髭を蓄えた男が現れた。エプロンをしているので、この人が店主なのだろう。つまり、九条さんって事か。
「いらっしゃいませ。ほう、これは珍しい。あんたが誰かつれて、俺の店に来るなんてな。しかも、大勢だ」
「ああ、大勢で押しかけてすまない。それじゃあ、皆座って何か飲み物でもなんでも好きなものを注文してくれ。ここは儂がご馳走しよう」
「やったやったやったあああ!! ありがとう長野さん、丁度俺、腹減ってたんだよねー!!」
「こら、翔太!! お前なー、遠慮って言葉をしらないのか!!」
「はっはっは! いいよいいよ。今日はいいんだ。椎名君。君も好きなものを注文するといい」
「は、はい。ありがとうございます、長野さん」
店内には、他に客は見当たらなった。
俺と長野さんと鈴森で、カウンター席に座った。カウンター近くのテーブル席に翔太、そして北上さんと大井さんが座る。
そしてまずは注文をした。メニューを見ると、色々と食事もできるようで、ドリンクメニューの方もソフトドリンクからアルコールまで豊富だ。
北上さんや大井さんは飲み物の他に、ケーキをパスタや注文していて、翔太に関してはステーキとハンバーグっていう恐ろしい強欲に取りつかれたような注文の仕方をしていた。
因みに俺は、アイスコーヒーを注文。腹はそれなりに減ってはいたけど、心の何処かで早く『異世界』へ戻って、落ち着いてから食事をしたいと思っていた。
「それで、このお兄さんたちは長野さんとどういう繋がりなんだ? もうあんたは、退職しているだろうし……まさか社交ダンスのサークル仲間って訳でもないんだろ?」
「はっはっは。そんな訳ないだろう。儂の事は九条、あんたもよく知っているだろ。生い先短く、この世界で何もない儂には、『異世界』しかない」
「なるほど、つまり『異世界』で知り合った仲間か……」
「そうだ。それで、ここへ来た理由なんだが、いつもと同じで銃を売ってもらいたい。ここにいる者達の事は、儂が保証する。銃を売っても問題のない者達だ」
「ふむ」
この店の店主、九条さんはぐるっと店内にいる俺達の顔を見回した。
「あんたが仲間を作るだけでも雹が降ってきそうなのに、ここへ連れてくるなんてな。いいだろう、取引してもいい」
「すまない、ありがとう」
「それでリーダーは長野さん、あんたか?」
長野さんは微笑んで、俺の方を向いた。
「儂ではない。この子が儂らのリーダーじゃ。彼と今後、取引してもらえたら嬉しい」
長野さんの言葉に全員が俺に注目の目を向けた。俺は思わず緊張してしまって、ゴクリと唾を呑み込んだ。




