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Phase.155 『ゴブリン その7』



 草原エリアに到着すると、長野さんと成田さんがゴブリンを相手に戦っていた。


 ゴブリンは10匹程いる。そしてその周辺の草原には、何匹ものゴブリンの死体が転がっていた。


 ……たった二人で、こんなに倒したのか。


 ダーーーン!


 再び聞こえる銃声。有刺鉄線越しに、長野さんは散弾銃を構えて撃ち、成田さんもハンドガンを手に持っていた。きっと緊急事態という事で、成田さんは長野さんから銃を借りたのだろう。


 俺と翔太と大井さんは、急いで長野さんのもとへ駆けていき、一緒になって強襲してくるゴブリンを応戦した。


「椎名君! 来てくれたか!」

「ええ、二人とも無事で良かった。このまま一気に倒してしまいましょう!!」

「うむ、そうだな」


 有刺鉄線に迫ってくるゴブリンは、俺と翔太で対応した。そして長野さん、成田さん、大井さんの弓という強力な遠距離攻撃で倒していく。最後の一匹を倒し終えると、成田さんはその場に項垂れるようにして転がった。


「ハアーーー、なんとか勝つことができた。殺されるかもと思って、生きた心地がしない! だけど、流石に疲れた。暫くは立てないよ」

「これで全部ですかね、もう襲ってはこないですかね」

「解らん。解らんが、かなりの数のゴブリンだからな。これだけ痛い目に合えば普通は警戒して簡単には襲ってはこないとは思うが……しかし何といっても、ずる賢いゴブリンじゃからな。一言には何も言えんわい」


 長野さんはそう言って、周囲を見渡して生き残っているゴブリンの姿が無いことを確認すると、転がっている成田さんのもとへ近づいていき、彼からハンドガンを回収した。


 それを見てやっぱり、銃は長野さんが成田さんに一時的に貸していたものだと解った。


 翔太も、成田さんと同様にその場に転がった。安堵の転がりとでもいうべきだろうか。長野さんは、有刺鉄線に近づくと、辺りに無数に転がるゴブリンを見ながら言った。


「それで……これからどうするんじゃ? 椎名君」

「……とりあえず、全員集合って訳にもいかないので、それぞれで各エリアの警戒を強化するしかないですかね。まずは、またパトロール隊を編成して、異常がないか拠点の周囲を巡回して見て回る。あとは、やはり防備だと思います。有刺鉄線があるだけでも、かなり助かりましたけどやっぱりちゃんとした柵、できる事なら壁的なものも欲しいです」


 転がったまま聞いていた成田さんが、身体を起こした。


「それなら僕に任せて欲しいね。もともと有刺鉄線を張り巡らせるっていうのは、椎名さんが言い出した事だし僕はそれに賛成して、それを僕が中心になって拠点の周囲に張り巡らせる作業をしてきたけど……やっぱりこれは、足掛かりに過ぎないと思っていたからね。壮絶な戦いだったから、ちょっと珈琲の一杯でも飲ませてもらってからにして欲しいけど、今日からでも壁造りの作業に入るよ」

「頼んでもいいのかな」

「好きでやるんだから、いいんだよ」


 翔太が首を傾げる。


「でもそんなに簡単に壁なんて作る事ができるのか?」


 成田さんはニヤリと笑った。


「できるさー。強度を気にしなければベニヤ板とかあるし、トタン板だってある。もちろん重量やコストも凄いことになるから、使用するなら通常のトタンと木で組んだ柵の配置がいいかなとは思っているけれどね。でもコスト度外視でその気になれば、ステンレスや鉄板なんかも配置すればかなり強固にはなる。また時間はかかるけど、ブロックやコンクリだって売っているしね。もとの世界とは女神像がある限り行ったりきたりはできるんだ。なんだってやれるよ」

「な、なるほどな。ブロックとコンクリかー。確かにコンクリートの壁なんて作れたら、もうゴブリン程度じゃ簡単に、中へは侵入してこられないよな」


 俺は溜息をついて翔太に言った。


「言っておくが俺達の拠点をまるっと全て、コンクリートの壁で囲むなんてなると、とんでもない作業になるぞ。それにブロックやセメントなんかもその量を買うと、経費もかなりのものになる。例えば丸太小屋の付近だけをコンクリートの壁にするだけでも、とても大変な作業になるはずだ。これまでのように有刺鉄線や、一つ一つ作って設置していく柵のようにはいかないと思う」

「やっぱりそうかー。うーーん、なかなか難しいな」


 成田さんは、ハハハと笑う。


「まあ、それでも気長にやるさ。拠点を一周囲めなかったとしても、壁を作った場所には壁があるわけだからね。そこは、安全になる。徐々に広げていけばいいんじゃないかな。まあ、僕一人ではかなり時間もかかるとおもうけど」

「それなら、言ってくれれば俺も手伝うし翔太も手伝う」

「おーー! 俺も壁造りを、手伝うぜ!」

「いや、椎名さんはリーダーだからね。他にやらなくちゃいけないことがあるだろうし、他に手の空いている人に手伝ってもらうよ」


 確かにその方がありがたい。とりあえず、もう一度川エリアの方に行って完全にゴブリンを撃退できたか見に行ってこないといけない。

 

 俺はここにいる全員に向けて言った。


「俺……翔太や大井さんもそうだけど、明日からまた日中は仕事だ。夜は長野さんとその銃の件でちょっと行くところがあるし。少しでも仕事を早く終わらせて、ここには戻っては来たいけど……でも、銃が手に入ればもっとこの場所を守りやすくなると思う」


 全員、頷いていた。


「だから襲撃してきたゴブリンを全て倒したのか、まだ潜伏してこの場所を襲撃する機会を窺っている奴がいないか、これから周囲を見て回ろうと思う。成田さんと長野さんは、このままここにいて欲しい。翔太と大井さんは、俺についてきてくれ」


 こうして俺は再び森路エリアからスタートエリア、そして川エリアと順に見て回った。襲撃してきたゴブリンを全て、倒したかどうか。それをまずは確かめたかった。

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