Phase.151 『ゴブリン その3』
川をじゃばじゃばと越えて、張り巡らせている有刺鉄線の外へと出た。
俺は腰に剣とナイフを装備し、手にはお手製の槍を持った。
翔太は剣、そして鈴森は改造エアガン。ボウガンを持ってきているのなら、そっちの方が殺傷能力は高いのではと思ったが、鈴森の判断だ。ゴブリン相手なら、改造エアガンの方が有効だと判断したらしい。
トモマサは、両手に斧を持っていた。もともと丸太小屋にあった斧。物置にあったものを全て、俺が表に出した。そこから使えそうなものを選んで、持ってきたみたいだが……身体の大きく筋肉質のトモマサがそれを両手に持って身構えている姿を見ると、まさにバーサーカーだった。
桧垣さんはナイフを持って、俺の後ろにピタリとついた。
有刺鉄線、拠点の内側には北上さん、小貫さん、最上さん、団頃坂さんを残す。
俺は、全員に身を低くするように指示を出すとゴブリン共が潜んでいると思われる方を向いて、よく観察した。たまに辺りの草が揺れる。隠れているゴブリンが移動しているんだ。
俺一人だった時や未玖と二人だけだった時は、怖くて怖くて仕方が無かったし、どうしようもなく心細かった。だけど今は、こんなにも心強い仲間がいる。やっとこの世界のゴブリンとも普通にやり合える気がした。鈴森が俺に近づいてきた。
「このまま正面から攻撃するつもりなら、俺は右側から回る。その方がより効果的だ」
確かにその通りだ。流石、ミリオタ。だからなんだと聞かれれば困るけど、戦術にも詳しいだろうという俺の勝手なイメージ。
「解った、それじゃ行ってくれ。反対側からも誰かいかせる。その方が更にいいだろ?」
鈴森は、ニヤリと笑みを浮かべると頷いた。そして姿勢を低くしたまま、ゴブリンが潜んでいる方を向いて右側に大きく迂回してしていった。
それを見送ると、翔太とトモマサに鈴森と同様に左側から行ってくれと合図を送る。
正面から豪快に行きたかったからなのか、トモマサは少し口をとがらせる。でも翔太を追って、左側に回り込んでいった。よし、これでいい。軽く振り返ると桧垣さんの顔があった。
「これから戦闘になると思うけど、大丈夫だよね」
「任せてくれ。自己紹介したけど、俺は空手家ッスからね! こう見えても一応、武道家の端くれなんで、覚悟決めてやりますよ!」
「そうだった。勢新流空手の二段だっけ? 有段者って事は黒帯か。そりゃ心強いよ」
「ちゃ、ちゃんと覚えておいてくれたんスね。椎名さん」
「男なら、結構格闘技好きだったりするだろ? 俺も昔、好きで色々見てた時期があって知っているんだ。俺自身は格闘技経験ゼロだけどね」
「それでも嬉しいッスわ。椎名さん、俺の事……堅吾って呼んでもらっていいッスか?」
「解った、いいよ」
「あと、椎名さんの事、幸廣さんって呼んでいいッスか。俺の方が年下だと思うんスけど、これから仲間なんで親しみを込めた呼び方で呼びたいんスよ」
「ああ、なんでもいいよ。それじゃ行こうか、十分気をつけろよ堅吾。いくら強くたって刃物で刺されれば血も出るし、死ぬ場合もあるんだからな」
「押忍!」
鈴森が右側から、翔太とトモマサが左側から森の中を進んでいくのを確認すると、俺も堅吾と共に草木に紛れながらも前進した。
相変わらずの強い雨。森の中だし、辺りもかなり暗くはなってきているけど、視界の悪さは互いに条件は同じだ。
ガサガサッ
翔太の方から音がした。何かあったのか見ると、トモマサが二本の斧で草場に隠れていたゴブリンを早速1匹仕留めていた。
翔太は、トモマサが倒したゴブリンに近づいて息の根が止まっているか調べる。俺の方を向いて大丈夫だと合図したので、俺は再び周囲を警戒しながらゆっくりと前進した。
やっぱりゴブリンだった。ゴブリンは集団とか複数でいる場合が多く、それで攻撃対象を見つけると群れで襲ってくる。しかもずる賢く、槍や棍棒など武器も豊富に使うので、かなり危険な魔物だ。北上さんの話では、しかも執拗に襲って来るという。
俺達の拠点は、ゴブリンの群れにバレてしまった。この場所を手放さないと決めた俺達は、ゴブリンと悉くやり合うしかない。
目の前に何かがザザザっと駆けていくのが見えた。ゴブリンに違いない。
「堅吾! 前にいるぞ、気をつけろ」
「お、押忍!」
ギャギャーーッ!!
いきなりのゴブリンの奇声に驚いた。身構えて正面を見ると、目の前に4匹ものゴブリンが迫ってきている。辺りは暗く、草木が多い。森の中、何処からゴブリンが飛び出してくるか解らない。
「うおおおお!!」
「せやああっ!!」
槍を思い切り突き出して、襲ってくるゴブリンの胸を貫いた。その間に、堅吾は襲い掛かってくるゴブリンの顔面に空手仕込みの破壊力のある蹴りを入れると、残る2匹のゴブリンをナイフで突いたあと正拳突きを叩きこんで仕留めていた。
堅吾の正拳突きをまともに喰らったゴブリンの顔は悲惨だった。顔面は陥没し、牙は折れて目玉も少し飛び出していた。
「ゴブリンどもがああああ!! かかってこーーい!!」
こちらが戦闘になったのを皮切りに、翔太の方もゴブリンに戦闘開始し始めた。その証拠にトモマサの雄叫びが森に響き渡った。
「幸廣さん」
「ああ、凄いな堅吾の空手は。俺が1匹倒している間に3匹だもんな。このまま一気に殲滅しよう」
「押忍! 解りました!」
こちらは、精鋭だ。これならゴブリンなんて、ものの数ではないと思った。




