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Phase.150 『ゴブリン その2』



「どうするんだ、ユキーー」


 この『異世界(アストリア)』であったゴブリンは、どれも凶暴で恐ろしいと思った。そのゴブリン共が、直ぐにでも俺達の拠点を襲撃しようとしている。今にして思えば、鈴森はずっとこうなる事を、なんとなく感じていて警戒していたのかもしれない。


 いや、『異世界(アストリア)』は美しい世界だけどその実態は、魔物と危険で溢れている。この世界で暮らすという事は、同時に魔物の危険にさらされるという事。それを覚悟するのは、当然の事。


「俺達が急いでこの場所から、食料やらなんやら全て投げ出して今すぐ逃げ出せば、逃げ切れるかもしれない。だけどそうすれば、未玖達はどうなる? ここにる小貫さんや最上さん、桧垣さんもそうだけどスマホが無くて、女神像からもとの世界へ転移できない【喪失者(ロストパーソン)】の人達を、見捨てる事になる」


 この場にいる全員が、はっとした。


「だから今この場ではっきりと宣言する。俺は未玖達を見捨てて、もとの世界へ自分だけ避難するという事は決してしない。それなら一緒にこの世界で運命を共にする」

「ユキーー」

「椎名さん……」

「だからと言って、死ぬ気なんてない。死ぬのは怖いし、死にたくなんてない! そんなのごめんだ!! だけど、この場所を失うのもごめんだ!!」


 この場所は、もはや俺達にとってこの異世界では必須。最上さんが呟くように言った。


「ここは素晴らしい拠点だ。守られている。ここがもしなくなったら、もとの世界へ戻れない僕らはまた危険にさらされる。できれば僕らも、この場所を守り抜きたい」

「もちろんだ!! ゴブリンなんかにこの場所は渡さない。この場所は、俺達『勇者連合(ブレイブアライアンス)』のものだ! そうだろ?」


 こんなセリフを平然と吐く俺ではなかった。もちろん、『異世界(アストリア)』に来るまでの俺は――


 面倒くさい事や、面倒ごとになりそうなことはなるだけ避けていた。そう言った事に背を向けて、なるだけかかわらないようにしていた。それでよかったんだ。


 毎日、食べる為にやりがいがあるわけでもない仕事をし、家に帰ったら大好きなアニメや映画を見て、ゲームをする。その繰り返しで良かった。


 だけど俺は変わった。『異世界(アストリア)』に来てから、変わったんだ。


 ゲームのような世界なんてあるわけがない。もし本当に、そんな世界があって行けるなら、俺はその世界でやりたい事をやる。本当にあるんだったらって話だけど、あるなら俺はいまだかつてない本気を出して生きる。口だけ番長でない事を、何より自分自身に証明したい。


 そんな根拠の無いことを思って生きていた。でもファンタジーのような世界なんてあるわけがないから、好きな事を言って思って自分を慰めていたのかもしれない。


 だけど、異世界は本当にあった。


 ……人生は泣いても笑っても、一回のみ。上京してから10年以上、気が付けば31歳だ。俺はありもしないと高をくくって好き勝手思ってきたのに、いざそれがあると解ったらまた理由を後付けして文句を言って自分を慰めて……


 そんなのは、もう嫌なんだ!! 俺は、もとの世界の日本って国じゃ順応できなかったけれど、『異世界(アストリア)』じゃ順応してみせる。今度こそ本当だ! そう強く思った。


 言葉にはしていない。だけど、その気持ちが俺からあふれているのか、翔太が……北上さんが……鈴森が……皆が俺を見つめていた。そしてその目には、闘志という名のメラメラとした炎が見える。


「嫌なものは逃げてもいいし、隠れていてもいい。だけど、一緒に戦って欲しいって言うのが俺の本音だ」


 皆、頷く。翔太が言った。


「俺達のリーダーはユキーだろ。ユキーについていくぜ。その結果どうなろうと、それは俺達個人の責任だ。もちろん、ユキーに何かあってもユキーの責任だけどな。アハハ。でも、ユキーの言葉に異論はないぜ!」

「サンキューな、翔太! 皆もありがとう!」


 最上さんは、相変わらず心配そうな顔をしている。だけど手にはナイフを持っていた。つまり最上さんも一緒に戦ってくれるということ。


「そ、それでどうするんだ椎名さん。ぼかあ、あまり戦いは得意ではないよ。釣りなら自信はあるんだけどね」


 皆……心の底では怖いはずなのに、最上さんのモガミジョークに笑う。俺は腕時計を皆に向けて言った。


「とりあえず、今は16時だ。雨も弱まる気配が無いし、いつもより暗くも感じる。もうあと数十分もすれば更に辺りは暗くなるだろう。奴らはその時を狙って仕掛けてくる。しかもあの数だ。確実に、今日仕掛けてくる」


 トモマサが指をボキボキと鳴らした。


「それならどうする? 今から暗くなるまでのわずかな時間で、守りを固めるか?」

「守りは当然固める。でも、それは念のためであって、俺達は打って出ようと思う。普段襲撃していても、襲撃されなれてなさそうだしな、ゴブリンは」

「へえ、そうか。良かった、それなら俺の得意分野だ」


 本当にトモマサは、心強いなと思う。


「北上さん、小貫さん、最上さん、団頃坂さんはここにいて防御を固めてくれ。翔太、鈴森、トモマサ、桧垣さんは、俺と一緒に森に隠れているゴブリンを殲滅しに打って出よう」

『おおーーー』


 『異世界(アストリア)』に来てからは、遭遇する魔物に襲われてばかりだった。だが今回は、俺達が襲い掛かる番だ。


 心が恐怖に支配されないように、思い切り自分に気合を入れ直し 入魂って対物 した。




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