表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/470

Phase.149 『ゴブリン その1』



 成田さんのテントで暫く雨宿りしながら雑談していると、ザーザー降っている中をビショビショに濡れながらも和希がこちらに走ってきた。顔がこわばっているので、何か良くないことが起きたんじゃないかと思った。


「椎名さん!! あっ、成田さんも!」

「何かあったのか?」


 和希は息を切らしながら俺達が雨宿りしているテントに入り込むと、少し取り乱した様子で言った。


「はあ、はあ……秋山さんと鈴森さんが、直ぐに川エリアに来て下さいって!!」

「翔太と鈴森が!?」

「森の中に気配を感じるって……明らかに複数の気配が、この拠点に近づいてきているって伝えれば解るからって……」


 森の中に気配――しかも複数の気配。翔太達が気にしているのは、あの巨大な蚊、ハンターバグじゃない。きっとゴブリンの方だ。成田さんが言った。


「椎名さん、川エリアの方で何かあったのかな」

「ああ、あったんだろう。おそらくゴブリンだと思う」

「ゴ、ゴブリン!?」


 その名を聞いて、驚く成田さん。


 成田さんは全体を見通したりとか、何かを作ったりとかそういうのは、得意な感じがするけれど正直戦闘にはあまり向いていないという感じがした。俺も人の事は言えないけれど、鈴森やトモマサのような戦闘タイプではない。


「どうしたーー!! 何か、面白い事でもあったのかーーー!!」


 噂はしていないけれど、思った途端目の前にトモマサが姿を現したので、驚いてしまった。


「ゴブリンだ。ゴブリンが襲撃してくるかもしれない」

「なんだとーー!? そりゃ、面白い!!」

「面白くなんてない。ここは以前、俺と未玖だけで過ごしていた時にも一度襲われている。その時は2匹だけだったけど、それでも俺は死にかけた。用心した方がいい」


 成田さんと和希が、ゴクリと唾を呑み込んだ。トモマサは相変わらず笑みを浮かべている。


 もとの世界じゃトモマサみたいな男を、ヤバい奴だと思っていたかもしれないけれど、正直この『異世界(アストリア)』では心強く思える。


「よし、和希はこの事を皆に知らせてくれ。でも全員で川エリアに集まる必要はないし、そんな事をしても危険だ。もしも陽動だとしたら、別の場所から拠点を襲われるしな」

「わ、解りました」

「成田さんは、向こうのテントにいる長野さんにこの事を話して、このまま二人でこの草原エリアに留まって警戒をして欲しい。それでもしも、ここにゴブリンや魔物が侵入してくるような事があったら、一人では決して当たらずに他の者に声をかけて複数で対処してくれ。それで大変な事になるようだったら、知らせにきてくれ」

「解った!」

「よし、それじゃ行こうトモマサ!」

「うしゃー、戦闘になったら俺に任せろよ!」

「それは頼りにしているけど、あまりとらわれるなよ。ゴブリンなら刃物も持っているかもしれないし、危険だぞ」

「あーー? そんなの関係ねえ! ぶっ潰すだけだ。だいたいユキ、お前は昨日一緒に外へ出た時に、ゴブリンと戦っただろ? だからそういう顔がしてられるんだ。俺だって戦いてーよ!」


 うう……確かにそうだった。俺はゴブリンと戦った。魔物と戦いたくて仕様がないトモマサからしてみれば、やっぱり俺の事をズルいと思うのも当然だろう。


 川エリアに到着すると、翔太や鈴森、最上さんに桧垣さん、北上さんが武器を手に取り物々しい感じで俺の到着を待っていた。俺はまず、北上さんの名を呼んだ。未玖の事が気になったからだ。


「北上さん!」

「未玖ちゃんでしょ。心配しなくても大丈夫だよ。他の女子と一緒にスタートエリアにいるし、海がついててくれているから。因みに勝君は、森路エリアを見張っててくれているし、他の皆も警戒してそれぞれ拠点を守ってくれているよ」

「良かった、流石は北上さんだ。ありがとう」


 未玖は、他の女子と一緒なのか。それにスタートエリアなら万一の事があったとしても丸太小屋に避難できるし、大井さんもいてくれているならまず心配はないだろう。それでも問題があるようなら、誰かこちらに駆けてくるはず。


 翔太が近づいて来て言った。


「ユキーー。あそこ、あそこ見てくれ! 何かいるだろ?」


 川を越えて、その先にある有刺鉄線の更にその向こう。午前中に調査してうろついていた森の奥。そこには沢山の草場が生い茂っていて、そこにいくつもの動く影を見つけた。隠れてこちらの様子を窺っているようだけど、確実にそいつらはいる。


「ゴブリンかな?」

「ゴブリンだな。間違いないと思う」


 俺の言葉に、翔太は少し怪訝な顔をした。


「間違いないと思う?」

「ああ、そうだよ。俺にはあの隠れている奴らがゴブリンには見える。だけどもしかしたら、そうじゃないかもしれないし……翔太もファンタジー系のゲームをしこたまプレイしていたから解るだろ? ゴブリン系の魔物かもしれない。兎に角、油断をしてはいけない」

「なるほど、そういう事か」


 後ろから誰かが近づいてくる気配がしたので、振り返った。すると。小貫さんと団頃坂さんだった。


「大丈夫か、椎名さん」

「解らない。だけど奴らに俺達の拠点はもうバレてしまっているし、きっと目をつけられている。そうだよね、北上さん」


 北上さんは俺の質問に頷いて、答えた。


「うん、そうね。この拠点はもうあのゴブリン達に目をつけられている。こうなってしまったら、ゴブリン達はあの手この手で私達を襲ってくる」

「対応策は?」

「以前、私と海がいた『幻想旅団(げんそうりょだん)』が、キャンプしている時にゴブリンの群れに襲われた事があったけど、逃げるしかなかった。テントも荷物も置いて、その場所から遠く逃げた」


 なるほど。ここから見えるだけでも、軽く10匹以上はいそうだ。これは大変な事になってきたと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ