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Phase.148 『成田さんテント』



「例えばそのお店に俺達を連れて行ってもらえませんか?」

「それはいいが……椎名君と鈴森君は東京だっけ?」

「はい。でも別にその近郊であれば、何処へでも行きます」


 長野さんはまた煙草を吸うと、煙を吐き出し少し考える仕草をした。


「解った。それじゃあ今度、案内しよう。だが言っておくが、最初に言った銃の取引をしていくれる者との取引もそうじゃが、その運営側の店の商品は更に高額じゃぞ」

「そ、そうなんですか。で、でも一応そこへ行ってみて見るだけで終わるって選択肢もありですよね」


 長野さんは、きょとんとした後に、ワハハと笑って「もちろんだとも」と言って大笑いした。


 俺と鈴森は、ついに銃を入手する為の方法を長野さんから入手する事ができた。あとは、そこへ行ってみるだけだけど……いつにするかは、また予定を立てないと。


 鈴森をチラリと見ると、俺を真っすぐな目で見つめていた。ああ、これは今すぐにでも行きたいって目だ。


「それじゃ長野さん、明日でもいいですか?」

「あ、明日?」

「そうです。明日からまた平日なので仕事なんですけど、とりあえず明日仕事が終わってから、そのお店に連れて行ってもらえませんか? 長野さんのお知り合いの人の方は、平日だとその人がいる居場所まで夜中歩いていかないといけないという事になってしまうので、休日の時にでもお願いしたいです」

「なるほど、いいとも。それじゃ、明日一緒に行ってみよう」


 鈴森もやっと納得した顔をした。


 ふう……銃か。銃が手に入れば、ゴブリンだって怖くはない。


 俺達はマグカップに入った残りの珈琲を飲み干すと、長野さんにお礼を言ってテントを飛び出した。


 相変わらずの雨。暖かい焚火の熱と、長野さんとの会話をしている間にやっと少し乾いてきたと思った服だったけれど、再びビシャビシャに雨で濡れてしまった。


「鈴森、そういう事だ。明日は一緒に行くだろ?」

「ああ、もちろんだ!! ついていく!!」

「よし! それじゃあ、銃の件はこれで一旦終わり! 鈴森はこれからどうする? まだ夕方にはなっていないけど」

「ああ、俺は一旦川エリアに戻る!! 森で見ただろ、あの有刺鉄線で隔てた向こうには、巨大蚊の化物の他に、ゴブリン共が潜んでこちらを窺っている!! 俺は警戒を続けている!!」

「解った、それじゃ頼む」


 鈴森と別れる。すると彼は雨の中、川へリアの方へ草原を駆けて行った。


 俺も未玖達のいるスタートエリアの方へ行こうかなと思ったが、この雨の中ずっと草原地帯で作業を続けている成田さんの姿が目に入ったので、彼にも声をかけていこうと思った。


「成田さん!!」

「おお、椎名さん!! どうしたんだ、こんなザーザー雨降る中、こんな所まで」

「成田さんこそ! こんな豪雨の中ずっと作業しているじゃないですか!!」


 雨がさっきよりも激しくなってきている気がした。肌に打ち付けられる雨も凄いし、何より雨の音で声がはっきりと聞き取りにくい。


 もとの世界でも梅雨の季節や、夏の台風の時期なんかにたまに凄まじい雨の日はあるけれど。


 成田さんが、向こうにチョイチョイと指をさした。その方を見ると、成田さんのテントがある。一旦そこへ入ろうという事だろう。


 座り込んで作業をしていた成田さんは立ち上がると、自分のテントまで走った。俺もその後を追いかけてテントのタープの下に入った。少し離れた場所、大きなテントの下でこちらの様子を見ている長野さんと目が合った。大丈夫ですと手を振ると、振り返してくれた。


「はい、タオル。沢山持ってきているから、遠慮なく使って。どうせまた雨に濡れるだろうけど、それでもね」

「ありがとう、じゃあ遠慮なく」


 俺は成田さんからタオルを受け取ると、それで顔や腕など雨水が滴っている個所を拭いた。それにしてももう、ズブズブだ。


「そう言えば」

「え?」

「そう言えば、女性の人が言っていた事だけど……トイレを作れって」


 あー。そう言えばそうだった。仲間も増えてきているし、いつまでも丸太小屋のトイレ一つじゃ駄目だとは思っていた。


 特に、女の子たちは男女ともに共同でトイレを使うのに抵抗がある。まあお互いにそれはあると思うけど、そう言えば完成させていなかったことを思い出す。


「そう言えばそうなんだ。丸太小屋のトイレ一つってのもね。人数も増えて来たし、それぞれのエリアに男女それぞれでトイレを作りたいと思ってはいるし、そういえば北上さん達に作ると約束した。あとついでに、風呂も増やそうかなって思って」

「風呂って?」


 俺は成田さんに翔太がドラム缶風呂を未玖の為に作った事を話した。あれはそのまま設置してあって、スタートエリアに行けば、今でもドラム缶に水を張って火を炊けば風呂に入れる事を話した。成田さんはその話を聞くと、腕組みして唸った。


「ううーーーん。それは面白いな」

「お、面白い?」

「よし、決めた! 椎名さん! その各エリアのトイレ作りと風呂作りの件、僕に任せてもらってもいいかな?」

「え? そ、それは別にいいけど……でも一人じゃ大変だ」

「大丈夫、できるって」

「大丈夫も何も一人じゃ大変すぎるし、時間もかかるよ。それなら、他に誰か声をかけて手伝ってもらえばいいよ。なんなら俺も手伝うし」

「……うーーん、そうだな」

「成田さんがこういう作業好きだって解ったけれど、それでも一人じゃ時間がかかるし、トイレなんて早く完成させた方がいいだろ? それに成田さんには他にもお願いしたい事があるし」

「嬉しい事を言ってくれるね。必要とさせているっていうのは、とても嬉しい事だからね。解った、リーダーのいう通りにするよ」


 成田さんとそう言って笑い合うと、暫く彼のテントで雨宿りをした。でも雨は、いつまで経ってもなかなか弱まる気配がなかった。

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