Phase.145 『女子会』
雨が本降りになってきた。ザーーッと激しい雨音。
「未玖―――!! 未玖―――!!」
俺は、未玖を探してずぶ濡れになりながらも拠点内を走り回っていた。特に用事があるわけではないんだけれど、この激しい雨。大丈夫かなと思って探していた。
川へリアに行くと、相変わらず翔太達のテントがあった。木が生い茂っている分、マシかなと思ったけれどあまり意味がない。
太平洋戦争の映画で、東南アジアとかその辺りにスコールのような激しい雨がひたすらに降っているというシーンがあったのを思い出した。それ位、激しい雨がここにも降っている。
テントや、その近くに張ったタープの下に翔太や鈴森、それに和希や最上さんがいた。
「最上さんもここにいたんだ!」
「ああ、椎名君。自己紹介で言わせてもらったけれど、ぼかあ釣りが趣味でね。大好きなんだ。それでこの拠点内に魚もいて釣りができる川があるっていう夢のような場所の話を聞いたからね。早速見に来てみたんだけど……」
「この雨だからね」
「うーーん、仕方がない。でもここ、凄く気にいったよ」
「じゃあもっと、気に入るかもれないな。実はこの川には、魚の他にマキガイっていう食用にできる貝や、蟹とか海老もいるから。探せばもっと色々水生生物がいると思うし」
「ほんとかい!! それは楽しみだなー!!」
「明日、もとの世界へ一旦戻るつもりだから、その時に釣り道具一式を持ってくるよ」
「うわーー!! 楽しみになってきた! ありがとう椎名君!! その代わり、僕も色々と協力できる事を頑張るからね。なんでも遠慮なく言ってよ」
スマホが無くなったのに、なんて明るい人だろうと思った。
嘆いていても仕方がない。どうせなら、前向きにやれることをやるしかない。そう思って理解していても、なかなかそう言う風に行動できるものでもない。明らかに最上さんは俺より年上だけど、それだけじゃなくて大人なんだなと思った。
俺は川の方や、ゴブリンの足跡のあった森の方をじっと見ている翔太と鈴森にも声をかけた。
「この雨だから、今日はもう拠点の外には出ない方がいいだろう。翔太と鈴森は、今日はずっとここにいるのか?」
「うーーん、そうねえ。モガさん、この川エリア気に入っちゃったから、今日ここにずっといたいって言ってるし。誰かがここにいてくれんなら、そろそろ美幸ちゃんや海ちゃんの所へ行こうかなーって思ってるけどーー」
まあ、誰でも気さくに話しかける事ができるのが翔太のいい所なんだけど、もう最上さんの事をモガさんとか言っているのか。
「けど?」
「でもすげー雨だからな。川が増水しないかちょっと心配なんだよな。今のところ、そんな気配はねーけど。わからんだろ?」
「確かに解らん」
川を見ると、凄い勢いで水が流れている。これだけの大雨だから当たり前って言えば当たり前なんだけど……正直、川が増水するかもって事を見落としていた。やっぱりたまに翔太は核をつく。
今度は鈴森が言った。
「それで椎名。お前は何しているんだよ」
「え? 俺? 俺はちょっと未玖を探している。拠点内にいるとは言え、この大雨だからな。ちゃんと誰かと一緒にいて安全かどうか確認しておこうと思ってな」
「相変わらず過保護だな。未玖ならスタートエリアにいるだろう」
「そうなんだ。それじゃ、これから行ってみる」
行こうとすると、鈴森が俺を呼び留める。
「まて、椎名」
「なに?」
「長野って爺さんな」
「長野って爺さんじゃなくて、長野さんな。俺達よりも、大先輩だしこの『異世界』でもそうだろ? 敬意を払え。お前ならできるだろ?」
「ああ、とうぜんだ。とうぜんできる。その……長野さんだがな、今も草原エリアにいるのか?」
銃の事だと思った。鈴森は長野さんが持っていた銃の事を聞きたがっている。でもそれは俺も同じこと。ここは、もといた世界とは完全に別の異世界。銃を所持していても、何も悪いことはない。むしろ魔物から身を守るためにあった方がどれほど心強いか。
鈴森だけでなく、俺も長野さんと再会する事ができれば銃の事はもう一度聞いてみようと思っていた。どうやって手に入れたのか。だから鈴森が長野さんを気にする理由も直ぐに解った。
「多分、いるんじゃないかな。いるって言っていたし。でも、この大雨だからどうかは解らない。なんていっても、草原エリアは木とか雨よけになるようなものはないからな」
「そうか、じゃあ行ってみよう。未玖を探すなら、一緒に行ってやるから、椎名も俺と一緒に長野さんに会いに行ってみろ!」
「行ってみろって、お前の用事だろ? まったく。まあ、いいや。それじゃ行くか」
翔太と最上さんと和希を川エリアに残して、俺は鈴森と一緒にスタートエリアに未玖を探しに行った。
雨の中、ズブズブになりながらも鈴森と、森を歩いて拓けた場所に出る。丸太小屋や井戸のあるスタートエリア。
未玖はいるのだろうかと、辺りを見ていると鈴森が指をさした。その先には大きなテント。近づいてみると、北上さんや大井さん、それに三条さんに不死宮さんに出羽さんに宇羅さんまでいた。
テントに近づいて中を覗き込むと、一番奥には未玖の姿もあった。もしかして、女子会!? 最初に俺に気づいた北上さんが言った。
「いや、これはそのあのーー。新しく私達の仲間になった景子リンとうららの歓迎会だから!! アハハハ」
見るとテントの中は本当に女子だけで集まっている。しかもジュースやお菓子があって、宇羅さんに至っては、さっきまでギターを弾いていたようだった。
「ほ、ほら。働くにしても、今日はこの通り大雨だし……駄目?」
だ、駄目と言われても、北上さんのこの甘えるような上目遣いで迫られたりなんかしたら……弱い。しかも全員が俺に注目している。
「い、いや、別にいいよ。この通り大雨だからね。皆大丈夫かなと思って、見回っていただけだ。皆、自由に過ごしてくれ」
『やったーーー』
「流石、椎名さん」
「だけど、絶対に拠点からは出ないこと。この雨だから、それはないと思うけど絶対に柵を越えて外には出ないのように。拠点内なら、自由に移動してもいいから」
『はーーーい、解りました』
未玖だけがちょっと困った表情で俺を見ていた。いいんじゃないか、たまには女子だけでも楽しむのも。
「もういいのか?」
「ああ、未玖は皆といるから安全だ。それじゃ長野さんの所へ行こう」
俺と鈴森は長野さんがいるだろう草原エリアへと移動した。




