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Phase.144 『いてもらいたい人』



「ちょっとズルいですけど、もう一つ条件があったりして」


 長野さんに言った。今度は、シリアスな感じではなくちょっとふざけた感じでだった。でも条件は呑んでほしいと切に思っている。


「何かね?」

「以前言った事ですけど、長野さんにも俺達のクランの仲間になって欲しいです」

「う……その話か……」

「でも俺は長野さんの頼みを聞きましたよ。どうですか? 長野さんが俺達の仲間になってくれてここにいてくれれば、未玖も喜ぶし」

「しかしな、儂は残り少ない人生をこの夢のような世界で冒険したいとな……」

「すればいい。すればいいじゃないですか。それは俺達の仲間になっても、それはできるんじゃないですか」


 この際だから押せるだけ押してみた。長野さんは、本当に頼りになる人だった。しかも2年もこの『異世界(アストリア)』で冒険の旅を続けている大ベテランだった。色々と教わることも多そうだし、頼りにもなる。一緒にいたいと思った。だからもっと押す。


「お願いします。俺だけでなく、未玖の為に!!」

「み、未玖ちゃんを出すのは流石にズルいんじゃないかね」

「なら、未玖を呼びましょうか?」

「うーん、解った解った。君には負けたよ。それじゃ暫く椎名君と共に行動をしよう。この拠点に住まわせてくれ」


 やった!! 暫くはって言ったけど、とりあえず説得はできた訳だ。


「それじゃ、この場所をベースにするという事で了承してくれ」

「っていうと?」

「自由に外へは出たい。ここを拠点にするが、儂が探索にでかけたいと思ったら、行かせてほしい」

「解りました、いいですよ。でもいきなり長野さんがいなくなると皆心配するので、出る時は誰かに言ってからにしてください。これは全員に言っているルールです」

「わかった、そうしよう」

「お願いします」


 こうしてまた新たに、長野さんを加える6人の仲間が加わった。


 早速全員に、新たな仲間達を紹介して回る。それから拠点内にいるコケトリスは飼っているから虐めないでくれと伝え、取り過ぎなければログアップの実やレッドベリーなども勝手に食べて言いと伝えた。


 もちろん、井戸の使用も自由。だけど丸太小屋に関しては、俺と未玖の荷物が沢山あるのでどうしても入りたければ了解を得てからにしてくれと言った。


 でもこれは常識かな。例えば誰かのテントや小屋へ入るなら、ちゃんと了解を得るものだし。


 ただ、緊急時は別だ。魔物が襲ってきたりした時、丈夫で強度の高い丸太小屋は安全な砦となる。だからその時は、躊躇することなく逃げ込んでもらう。


 最上さんは釣りに加えて、どうやら畑仕事に凄く興味があるらしく、早速未玖や不死宮さんや三条さんと何やら畑に関する事で色々と会話をしていた。


 うん、しかしこの場所も賑やかになってきたな。


 持ちつ持たれつという言葉があるけれど、この人数で協力しあえるのは強い。俺や翔太や北上さんや大井さんが仕事の時でも、ここには鈴森や小貫さんの他に常時6人が加えていてくれるという事。留守の間もこれだけいれば、かなり安心感も高まってくる。


 雨。傘を持ってきていたので、それを差しながらも拠点内をうろうろと歩き回っていた。これからの事、そして新たな仲間達が増えたけれど、皆どうしているか見てみたかったから。


 草原エリアに来ると、成田さんとトモマサのテントの他に、もう一つ見た事のある大きなテントが立っていた。なる程、長野さんはこっちで住むんだ。


 近づいくと、長野さんがいた。大きなタープ付きのテント、その下でバーナーを置いてお湯を沸かしている。近くには茶色の粉末の入った、マグカップ。


「おや、椎名君。どうだ? 君も珈琲を飲むかね?」

「はい、頂きます」


 にっこり笑う長野さん。そして珈琲を入れてくれたので、長野さんのテントの下へお邪魔して珈琲を頂いた。雨が少し強くなる。


「草原エリアにテントを張ったんですね」

「ああ、そうだな。前回は丸太小屋の方……えっとスタートエリアだっけ。そこに張らせてもらったな」

「ええ。でもどうしてここにですか? 丸太小屋の方は、森の真ん中で守られていて一番住みやすいと思いますけど」

「理由はあるんだ。ここは草原地帯だから拓けていて気持ちがいいし、今日は生憎の雨だが晴れれば夜は星空が最高だろう。それに女神像が直ぐそこにあるから、何か足りないものがあればサッと行って帰ってこられる」


 長野さんのその理由に笑ってしまう。


「それと気になった事があってな」

「何ですか?」

「椎名君は、この女神像がある草原地帯の一帯も拠点にしただろ?」

「ええ、まあ成田さん達がやってくれました」

「この女神像は知っての通り、この『異世界(アストリア)』ともとの世界を繋ぐ転移装置みたいなものだ」

「そうですね。まだ拠点が丸太小屋周辺しかなかった時は、ここから丸太小屋までの距離が恐怖でした。魔物に襲われないかって……でも今は拠点内にいても、もとの世界へ転移できる」

「確かにそうだ。しかし思うんだが、この女神像……椎名君と椎名君の仲間だけが使用していると思っているが、他に使用していたものがいたとすればどうだろう?」

「え?」


 思ってもいなかった事を言われた。


 そう言われてみればそうだ。知りうる限り、仲間以外がこの女神像を使っているのを俺は見たことがない。


 でも俺は『異世界(アストリア)』に来るようになって1カ月も経っていない。もしも俺達意外の誰かが、この女神像を以前に使っていた可能性だって十分にある。


 もしそうだったとして、その人がまたこの『異世界(アストリア)』にやってくるようなことがあれば……その人は、俺達の拠点内――つまりこの草原エリアに現れるという事。


 だから……だから長野さんは、見張る為にこの草原エリアにテントを張ったのか。


「儂はこの『異世界(アストリア)』を2年も旅してまわった。その間、危険な魔物には何度も遭遇した。話した通り、死に物狂いでもとの世界へ戻るなり、救急車で運ばれた事もあった。だから魔物の危険性を知っている。でも同時に怖い人間も知っている。『異世界(アストリア)』には、儂らがいた日本の法律なんてものも警察もない。旅する中で、椎名君達みたいないい人達にも多くあったが、悪人とされるものにもあった。だから念のため、ここで暫く女神像を見張ろうと考えた訳だ」


 やっぱり長野さんは凄い。この『異世界(アストリア)』での経験が俺とは違うと思った。確かにこの『異世界(アストリア)』には法律も警察もいない。転移してきている人全てがいい人だとも限らない。


 もしそう言った者達と遭遇した場合、どうすればいいか対処法をいくつか考えておいた方がいいのかもしれない。


 うーーん、これから長野さん達にはこの場所がゴブリンに目をつけられている事や、佐竹さん達を襲ったブルボアがやってくるかもしれないという事など話さなくてはならない。

 

 やる事がいっぱいで、明日からまた週初めで仕事が始まるのにどうしようと思って頭を抱えた。

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