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Phase.137 『夢の草原生活』



 ――――翌朝、日曜日。


 テントの中で目が覚めた。時計を見ると、まだ5時にもなっていなかった。こっちに来るようになってから、本当に田舎暮らしみたいな早起きになってしまった。


 隣を見ると深々と毛布を被った未玖が、横になって可愛い寝息を立てていた。そう言えば、昨日の夜は一緒に寝たいって言ったから……頭をポリポリとかく。


 まだ気持ちよさそうに眠る未玖を起こさないように、ゆっくりと身体を起こして、出入口のファスナーを降ろしてテントの外へと這い出した。


 すると、何処までも続いているかのような大草原が目に飛び込んできた。


 そう、昨日は結局翔太と鈴森のいる川エリアに行った後、小貫さんと共に大井さん達がいるスタートエリアに行って一緒に晩御飯を食べた。それから草原エリアに戻って、そこでテントを張って眠ったんだった。


 理由は、単純。『異世界(アストリア)』にやってきて、まずお目にかかる女神像。それがポツンとある広大な草原地帯。


 いつもは、ウルフの群れやスライムの出現を恐れて、一気に拠点まで脇目もふらず急いで向かっていたけれど、いつかこの広大な草原地帯で身体を大の字にしてゆっくりと雄大に眠ってみたかった。いつかそうしてみたい。


 でもその夢を、成田さん達が頑張って有刺鉄線を張り巡らして拠点を拡張して叶えてくれた。だから昨日は、この草原で寝てみようと思ってテントを張ったのだ。


 その時に、未玖も一緒に草原で眠ってみたいと言ったので、まあ同じテントでなら大丈夫かと思っていいよと答えた。草原エリアで昨日眠っていたのは、俺達意外に成田さんとトモマサもいたみたいだし。


 草原を見回すと、周囲にテントが二つ見える。あれが成田さんとトモマサのテントだろう。


 まだ早朝だからと思っていたけど、空を見上げるとかなり曇っていた。今にも雨が降りそうな天気。『異世界(アストリア)』に転移してきてからは、ずっと雨には遭遇しなかったので、今日雨が降るとすれば初体験になる。


 ふーーーー。


 ナイフや剣を吊ったベルトを装着する。そして未玖が横になっているテントのファスナーを閉じると、草原をてくてくと歩き始めた。やっぱりここが拠点内なんて、なんか変な感じ。


 二つ見えるテントのうち、その片方に人影が見える。あれは――――近づいて声をかけた。


「成田さん、おはようございます」

「ああ、驚いた! 椎名さん! おはようございます」


 顔を合わせると成田さんはにこりと笑った。


「椎名さんも昨日は草原エリアでテントを張って眠ったんだね」

「ええ、未玖も一緒に寝るって言ったから……今もテントの中で眠っているよ」

「ははは、そうなんだ。まあ椎名さんと一緒なら心配ないだろう。一応僕もいるし、友将(ともまさ)君もいるしね」


 成田さんはそう言って、トモマサのいるテントを指さした。


「それはそうと、こんなに早く起きて気合が入っているね。これから、何かするのかい?」

「ああ、ちょっと気になる事があるから、鈴森と調査に出かけようかなって思ってるけど」

「気になる事? そう言えば佐竹さん……小貫さんの仲間達の遺体を埋葬しに昨日行ってきたみたいだけど、ゴブリンやら魚の化物やら遭遇して危なかったそうじゃないか。しかも小貫さんの仲間の一人が、ゾンビになっていたって聞いたけど」


 俺は頷いて、もう一度昨日あった事を成田さんに説明した。一応昨日のうちに、ここにいる仲間全員には話して伝えているけど、成田さんにはもう一度話しておきたかった。


「実は、鈴森が森で気配がするみたいな事を言っていた。それがゴブリンなのか、小貫さん達を追ってきたブルボアなのかは解らないけれど、昨日も川エリアでひたすら暗闇が広がる森の中を見つめてそう言っていた。北上さんは、ゴブリンは油断ならない魔物だと言っていたし、何度も襲われている事から俺はゴブリンが俺達の存在に気付いて、この拠点を調べているんじゃないかって思っている」

「ふむ。なるほど……それなら、もっと拠点の防備を強化するしかないな。警戒も強めないと」

「だから調べる。でも今日は、それ程拠点から離れないつもりだよ。川エリアのちょっと先、拠点の周辺を調査するつもりだ」

「そうか、それなら万が一何かあっても、拠点までは逃げやすいね。もしくは、助けも直ぐに呼べる」


 成田さんと会話しながらも、なんとなく草原に目をやる。すると草原エリアをコケトリス達がトコトコと歩いていた。こんな早くから起きて、餌でも探しているのだろうか。


「それで成田さんの今日の予定は?」

「僕? 僕は今日もこの拠点の防備を強化する作業に勤めているよ。もちろん椎名さんのように、冒険もしたいけれどね。でもこういう作業というか、工作みたいなものも大好きなんだ。だから嫌々じゃないし、それなりに楽しんでやっているから気にしないでくれ」

「こんな事を聞くのはルール違反な気がするから、少しでもあれだったら答えなくていいんだけど……成田さんって大工さん? もしくは、工務店とかそういう」

「ははは、違う違う。もとの世界での職業は印刷会社に勤めているよ。でもこの『異世界(アストリア)』じゃ、さながら錬金術師かな」


 二人で大笑いする。


 そうか、成田さんは印刷会社に勤めているのか。俺はデータ入力の会社に勤めている。当然だけど皆、もう一つの生活と姿がある。人の事は言えないけれど、やっぱりギャップがあったりするんだなって思った。


 ……いや、トモマサはまんまだな。現役のプロレスラーらしいけど、パッとガタイを見て間違いなく格闘家だとは思っていた。

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