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Phase.136 『様子を見ている』



 暗闇の森の中。鈴森は真剣な眼差しで、闇を探っていた。


 翔太は未玖が持ってきた虫刺されの薬を身体に塗り込むと、なんだか元気を取り戻してきて、そのまま焚火を囲んで未玖と小貫さんとお喋りをしていた。


 一方の俺は、ひたすら闇と見合っている鈴森の事が気になっている。


「ちょっと鈴森の所に行ってくる」

「おう、りょーかい」

「は、はい」


 翔太達からは、直ぐ目の届く場所。だけど川を飛び越えなければならなかった。


 しっかりと足元を懐中電灯で照らすと、一番幅の短い場所を思い切って飛び越えた。そのまま有刺鉄線近くにいる鈴森の所まで行く。


「何か気になるのか?」

「……ああ、ずっと気になっている」

「え? 怖いな。何がだ?」


 鈴森は一度大きく呼吸をすると、俺の方を見て言った。


「椎名。お前は仕事があるから平日いないだろ」

「ああ」

「いくらニートだと言っても、俺にももとの世界での暮らしがあるからよ。たまに様子見て帰ったりしてるけどよ、未玖もこの拠点も心配だからよ。だから、だいたいはこっちにいんだよ」


 それには凄く感謝していた。ちょっとチクっとする物言いをする時もあるけれど、翔太が言った事に誤りはなかった。鈴森はとても信頼出来て頼りになる男だ。


「ありがとうな、鈴森。お前がこっちにいてくれるから、未玖の事もこの拠点の事も安心できる」

「そうかい、それなら良かった」

「ああ」


 再び森一面に広がる暗闇に目を向ける鈴森。


「それで?」

「なにが?」

「それで、何をそんなに気にしているんだ? さっきからずっと、森の中を見渡しているだろ?」

「ああ、その事か。ずっとっつーか、少し前からだけどな。なんか、ずっと何か嫌な気分がしてんだよ」

「嫌な気分って?」

「怖がらせるつもりじゃねーけどよ、解りやすく言うと、森の中に何かいやがるな」


 森の中に何かいやがる? それは、その言葉の通り森の中に何かがいるって事だろ? 耳を澄ませなくても暗闇広がる森の中からは、獣や虫の声が聞こえてくる。狼の遠吠え。キリキリという昆虫の羽音。梟のような鳴き声が木の上からする。


「それならあたりに沢山いるだろうな」

「そういじゃないって! 何かヤバイもの……そう何かヤバイものが森の中で潜んでいて、こちらの様子を窺っている。そんな感じだ」

「なんだそれ、ひょっとして怖がらせようとしているのか?」

「怖がった方がいい。俺はマジだぜ」


 鈴森の表情は、至って真剣だった。森の中に何か恐ろしいものがいて、こちらの様子を窺っている。そういう事か。


「じゃあ、鈴森はそれがなんだと思う?」

「あ? そうだな……想像のつく所じゃ、ゴブリン」


 この辺りでは、ゴブリンに襲われた。未玖が追いかけられていた場所もこの辺りだった。ゴブリンには、丸太小屋も強襲された。佐竹さん達を埋葬し、荷物を回収しに行った時も襲われた。


 この『異世界(アストリア)』、少なくとも今俺達のいる場所の周辺にはゴブリンが生息している。そして動きが人間に近い分、最も脅威な存在だと言えるだろう。俺も警戒は、続けているつもりだ。


「北上さんが言っていたけど、ゴブリンは巣を作るらしい」

「じゃあ、その巣を見つけて焼き払った方がいいな」


 や、焼き払うって……


「爆弾作るのには知識が必要だけどよ、火炎瓶なら強力な上に簡単に作れるんだぜ」

「ぶ、物騒だな」

「物騒? ここは得体の知れない異世界で、辺りには魔物がわんさか徘徊しているんだぜ。物騒なんて思わねえけどな」


 ……言われてみると、確かにその通りだ。


「すまん、そうだったな。鈴森のいう通りだった」

「…………」

「それで、どうすればいい?」

「ゴブリンの駆除か? ゴブリンって俺が言ったのを真に受けているようだけど、そうかもしれねえって言っているだけで、何かは確認してみねーと解らねーよ。もしかしたら、椎名の知り合いを襲って殺した、例のブルボアかもしれないしな。この拠点は小貫がいる。っていう事は、その子供の親が仇を討ちに来る。軽自動車並みの、馬鹿でかいブルボアがやってくるっていう可能性もあるわけだからな」

「確かにな。でも鈴森は、ゴブリンの気配が闇の中からするって言ってただろ?」

「……だから多分な。何か得体の知れないもんに、ずっと見られている気がする。俺はゴブリンだと思っているがな。既に椎名は何度かゴブリンと戦闘しているんだろ? ゴブリンは群れでいる。しかもずる賢く、冷酷残忍だ。じっと暗闇で隠れて、こちらの様子を見ているんじゃないか?」

「なるほど、じゃあ確かめてみるか?」

「どうやって? これからか?」

「いや、夜は危険だし、そこが森の中なら尚更だ。だから明日だ。明日は日曜だし、俺も翔太も仕事は休みだしここにいる。明日、一緒にこの辺りをちょっと調査してみないか? 何か見つかるかもしれない」


 そう提案すると、鈴森がニヤリと笑った。


「それは面白そうだ。いいぜ、是非やりたい」

「それじゃ明日、午前中から調べてみよう」


 頷く鈴森。話もし終えた所で、翔太達のもとへ戻ろうとした。すると鈴森が俺を呼び止めた。


「椎名!」

「なんだ?」

「前に銃があると言っていたな」

「俺は持っていない。長野さんっていう、銃を所持していた人と出会ったって言ったんだよ」

「そうか」

「なぜ聞く?」

「銃があればこの拠点は、もっとちゃんと守れる。それに例の佐竹達を襲ったブルボア。そいつは間違いなく銃とか強力な武器がないと勝てない。伝説の剣でもあれば別だがな」

「解ってるよ。それも考えよう。長野さんについては、またここに来ると言っていた。ここへきてくれたら、今度こそ仲間に誘いたいし、銃の入手経路についても聞こうと思っているよ」

「頼む。改造エアガンじゃ、魔物に対して太刀打ちできない。せいぜいゴブリン程度だな、やれんのは」


 ゴブリンをやれるのかよ!! 


 そう言えば、鈴森が使用している改造エアガン。本物の銃と比べたらあれだけど、それでもかなりの威力があったなと思いだした。


 例えば人間相手に使えば、怪我を負わせられる。飛んでる鳥を撃てば、きっとその鳥は落下してくる。それくらいの威力はあった。

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