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Phase.134 『増えたコケトリス』



 森路エリアを抜けて、スタートエリアに移動した。すると早速、和希の言っていたコケトリスを見た。パっと数えてみると8羽もいる。こんなに……


「あーー、椎名さん! コケトリス、凄いよね」

「北上さん」

「いつの間に入ったんだろうって、海と話していたんだけど、どうやらシノっちがやったみたいだよ」


 シノっち? 三条さんの事か……


「ええ!! 三条さんが!? さ、三条さんってあのまだそんなに話をしてもいないけど、大人しそうな女の子だよね」

「うん、そうだよ。因みにそこにいる。おおーーーい、シノっち!」


 北上さんが声をあげると、自分のテントの前でゴソゴソと何かしていた三条さんがこちらを振り返った。こっちにおいでよと北上さんがサインをすると、三条さんはこちらに歩いてきた。


「三条さん、お疲れ様」

「あっ、お疲れ様ですリーダーさん」


 リーダー……さん? まあ、間違ってはいないけれど。三条さんってこんな子だったのか。


「シノっちが、コケトリスを拠点内に入れたんだよね」

「は、はい。入れました。成田さん達と拠点を拡張する為に森で作業していたら、コケトリスを目にしました。全部で8羽でした」

「は、8羽」

「はい」


 っていう事は、あの未玖に懐いているコケトリスを合わせると現在この拠点内には、9羽のコケトリスがいるのか。


「あ、あの……もしかして余計な事をしてしまったのでしょうか? 私……盗み聞きとかじゃないんですけど、リーダーさんと未玖ちゃんがコケトリスを増やしたいねって話しているのを聞いたので……報告するのを忘れてしまっていましたけど、もし余計な事をしたようでしたら捕まえたコケトリスを全部……」

「いやいや、ありがとう! 確かに増やしたくて探していたんだ。だから嬉しいよ」

「それなら良かったです」

「でもどうやって三条さんはコケトリスを8羽も捕まえたのかな? ここにいる1羽だって俺は、捕まえる事ができなくて、未玖が捕まえてくれたんだ。そんな奴を一人で8羽もだなんて」

「い、いえ。棒をもってちょっと追いかけたら、直ぐコケトリスは逃げました。だからその後を追って上手く誘導して……有刺鉄線を張る予定の場所に追い込んで、内側に入れたら有刺鉄線を張る。それだけの事でした」


 なんとまあ、そういう手もあったのか。まるでなんて言うか、湖とかで魚を獲る時のテクニックのように思える。だけどあのコケトリスを一気に捕まえるというだけなら、とても理にかなった方法だ。


「どうする未玖? 世話するコケトリスが9羽に増えたぞ」

「え? え? どうしましょう。でも、それだけいれば今度こそ卵を食べられるかもしれませんね」

「卵?」


 俺は未玖と翔太と3人で一緒に考えていた、ささやかな計画を北上さんと三条さんに話した。コケトリスの肉は鶏肉として食用にもできるらしいけど、何より俺達はその卵を使って目玉焼きや卵焼き、スクランブルエッグなどにして食べてみたいと話していた。


「でもわたし一人で大丈夫でしょうか?」

「大丈夫、大丈夫。俺も翔太も手伝う予定だし、北上さんと三条さんも手伝ってくれるよね?」

「もちろーーん!! 未玖ちゃんと一緒にコケトリスの卵を見つけたい! もちろんお世話もするよ!」

「私も是非お手伝いさせて欲しいです。私、ゲームとかそういうのでも、あまり戦うのとかそういうのは得意じゃなくて、調合とかそういうのずっとやってたり、街とか村とか歩き回って宝箱とかアイテム探ししたりそういうのばかりやってて……だからリアルというか『異世界(アストリア)』でも、魔物とかと戦ったりするのはぜんぜん自信がないんだけど、ファンタジー世界は好きで……だから未玖ちゃんのやっているようなコケトリスの世話や畑仕事とかそういうのを手伝いたいです」



 あれ? 実は三条さんも、よく喋る方なのか。



「あ、はい! わたしも美幸さんや三条さんと一緒にできたら嬉しいです」


 女の子3人で手を取り合う。すると北上さんが言った。


「私ももう三条さんの事、シノっちって言っているし、下の名前で呼んであげたほうがいいんじゃないかな。親しみを込めてね」

「え? いいですか、三条さん?」

「はい、志乃でもシノっちでも呼んでくれたら嬉しいです」

「じゃ、じゃあ志乃さん」

「はい、未玖ちゃん」


 和やかな空気が漂っていた。女の子同士の友情っていうのもいいものだなと思う。そう思うと、余計に翔太と鈴森のいる川エリアは、すさんでそうで行きたくないなー。まあ冗談だけど。


 暫く未玖と北上さん、それに三条さんで仲良く話していたので、俺は一人で丸太小屋の方へと歩いた。


 煙。見ると直ぐ近くにタープを張っている場所がある。その下で、大井さんと小貫さんと不死宮さんが焚火を熾していた。そして何か準備をしている。


「大井さん、小貫さん。それは晩御飯の準備?」

「あれ、椎名さん。そうだよ。もう夜だしお腹が減ったから、晩御飯を作ろうかなって思って。小貫さんと鬼灯もそうだし、美幸も志乃も一緒に食べるって言ってたから、これからご飯でも炊いてクリームシチューを作ろうかなって思って」

「クリームシチューか! いいねえ、凄い美味しそう」

「そうでしょ。他の皆は、各々で自由に食事するみたいだけど……もし良かったら椎名さんや未玖ちゃんも私達と一緒に食べない?」

「ああ、それじゃお言葉に甘えてお邪魔しようかな。でもその前にもう少し、拠点内を見回ってからになるかな。それでもいい?」

「解ったわ。じゃあ、椎名さんと未玖ちゃんの分も作って用意しておくわね」


 小貫さんと、不死宮さんにも挨拶した。小貫さんは、あんなことがあったからちょっと心配だったけど、今は上手くやっているし楽しそうだ。


 佐竹さん達の事を考えると、友人で同僚だった小貫さんの張り裂けそうな気持は解る。だけど少しずつでも元気を取り戻してくれているのなら、この上ない事だと思った。


 今は、俺達が仲間なのだから。

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