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Phase.133 『拠点拡張 その4』



 森路(もりみち)エリア。今、俺と未玖が歩いている場所だけど、女神像のある草原エリアと丸太小屋や井戸のあるスタートエリアを結ぶ森――そこをそう名付けた。


 ホーーホーーッ


 ククククククク……


 夜の森の中。何処からか、獣か鳥かもしくは魔物かは解らないけど、不気味な鳴き声が聞こえてくる。周囲を懐中電灯で照らして回るが、何が潜んでいるのかは解らない。俺の手を握る未玖の手に、力が入るのを感じた。


「怖いか? 未玖」

「は、はい。こ、怖いです。で、でもゆきひろさんがいるので安心してます」

「あはは、俺じゃ頼りないだろ? それなら鈴森とかトモマサの方が絶対安心感が違うと思うけど」

「孫一さんもトモマサさんも凄く頼りになります……でも、いつもわたしの事を心配してくれて、助けに来てくれるのは、ゆきひろさんだから……だからわたしにとって、一番頼りになって信頼できる人はゆきひろさんです」


 暗くてよく顔が見えないけれど、未玖は照れているようだった。


 しかしなんていい子だろう。こんな事を言われるなんて、気を緩めたら泣いてしまいそうだ。俺には一応妹が一人いるけれど、まったく尊敬されていないし嫌われている。


 未玖みたいな妹がいてくれたなら、俺はもっと真っ当になっていたかもしれないな。なんて、自分勝手な事を思う。


「でもあれだな。今日一日かけて未玖や成田さん達が頑張って、杭を何本も打って有刺鉄線を張り巡らせてくれたお陰で以前よりも安心していられるよ。言うならばここは森の中ではあるけれど、もはや俺達の拠点内だからな」

「は、はい。そうですね」


 それでもやっぱり怖いらしい。確かに木の上には得体の知れないものが何かいるみたいだし、佐竹さん達を襲った軽自動車並みのでかさのブルボアなんかもここへ突撃してきたら有刺鉄線だけじゃとても防ぐことなんてできないだろう。

 

 これを地盤に少しずつ守りを強化していくしかない。


「あれ? 椎名さんに未玖さんじゃないですか!」


 いきなりの声にビクッとして振り返る。未玖の手が、更に俺の手を締め上げた。いてて。


「か、和希か。なんだ? こんな所でどうしたんだ?」

「え? どうしたって……一応ここは僕達の拠点内でしょ」


 言われてみればそうだった。一応、俺達が安全としている所。自由に行動していいとしている所でもある。


「ほら、あそこ! 松倉さんもいますよ! おおーーーい!」


 和希が指した方を見ると、光が揺れている、向こうで松倉君が懐中電灯を振ってこちらに挨拶してくれているんだと解った。


「それで、こんな所で何をしているんだ? 単なる好奇心で聞いているんだけど」

「ああ。松倉さんは成田さんと同じ作業をしていますよ。この森路エリアに配置している有刺鉄線を補強して強化しているみたいですよ。地味な作業ですけど、やり出したらなかなか夢中になってしまうって」

「そうなんだ。松倉君とはまだあまり会話していないけど、彼もかなり頼りになるみたいだ。それで和希は? いい加減教えてくれよ」

「え? あ、はい。僕はちょっと動植物の生態調査ですかね。それと異世界においての研究」

「なるほど。今は拠点も広がって、拠点内に森や川、草原まであるもんな」

「はい。これはいいですよ。そう言えば椎名さん達がここで飼っているコケトリスって1羽ですよね。さっき何羽かこの森路エリアで彷徨っているのを見ましたよ」


 え? 何羽か? 色々と衝撃的な事があってまだ頭の中の整理もできていない。だからすっかりとコケトリスの事を忘れていたけど……数が増えている? 未玖の顔を見ると、ブンブンと顔を横に振っている。


「もしかしたらというか、おそらくそれしかないですけど、僕達が出かけている間に成田さん達が拠点を広げている作業中に入り込んだんじゃないですか?」


 未玖の顔を見る。


「そうかな?」

「そ、その可能性はあると思います。一応有刺鉄線を張る時に、ゴブリンやウルフやスライムなんかの脅威になる魔物が入り込まないか注意はしていましたけど……それでも人手が十分だった訳じゃないので和希君が言ったように、わたし達が見てない所で入り込んだのかもしれないです」

「そ、そうか。入り込んだのがコケトリスだけだったら問題はないけど……また定期的に見回っておこう」

「はい……」

「それで、和希は今晩はずっとここに?」

「そうですね。見てください。単なる雑草の類だとは思いますが、こういう変わった植物も生えてますしね。虫などもいますし、木の上には変な鳥か何かいます。拠点の内側ならそれ程怖くも無いし、近くには松倉さんがいますから、僕はもう少しここで色々と調べたりしたいと思います」

「そうか。じゃあ何かあったら、言ってくれ」

「はい、ありがとうございます。そう言えばあの湖で見つけた、キルケラトドゥスっていう魚の魔物の卵ですけど、水草ごとペットボトルに入れてスタートエリアの方に置いてます」

「へえ、そうなんだ。じゃあ後で見せてもらうよ」

「とりあえず丸太小屋のウッドデッキの所に置いたんですけど、邪魔になるようならまた後で何処かへ移動させますから」


 俺と未玖は和希に解ったと言って、今度はスタートエリアの方へと向かった。森路エリアを後にする時にもう一度振り返ってみると、和希も松倉君も夢中になって自分のやりたいことをやっていた。


 なんだか少しずつだけど、俺達の拠点がいい雰囲気になっている感じがした。

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