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Phase.132 『拠点拡張 その3』



 草原エリアには、まだポツンと女神像があるだけ。いや、テントもある。


 誰のテントかなと眺めると、その向こうでまだ拠点を囲む有刺鉄線の補修を黙々と続けている成田さんの後姿が見えた。


 未玖と一緒に成田さんへ近づいていく。


「精が出るね。でも休み休みやらないと、疲れないかな?」

「え? ああ、椎名さんと未玖ちゃんか。なんかやり始めたら楽しくなってきてね。もう少し頑張ろうと思う」

「何処まで?」

「とりあえず、ゴブリンやウルフが簡単に侵入してこれない位には……かな。そしてスタートエリアと同様に、柵で囲む」

「それって、かなり大変じゃないか?」

「大変だけど、やりがいはあるよ。この有刺鉄線だって、椎名さんが持ってきてくれた分じゃとても足りなかった。だから僕と松倉君で、こっちともとの世界を何度も転移往復して、持ってきた。ネット注文で頼まなくても自宅の近くにホームセンターがあるからね。大量に購入するからって、安くもしてもらったしいらない台車ももらったよ」


 成田さんのテントの横に台車が確かにある。使い古した年季の入った台車だ。


 翔太がドラム缶を乗せて持ってきたのを含めると、今この拠点には台車が二台もあるのかな。


 兎に角、なぜこれほどまで広げた拠点をぐるっと囲める程の有刺鉄線があったのかも謎が解けた。俺が持ってきた量じゃとても足りないはずだから、謎に思っていたのだ。


「今度は、トタンとかそういうのも持ってくるつもりだから、そしたら丈夫で高さもある柵が簡単にこの辺にも配置できるよ」

「それはいいな。この辺は、ウルフの群れがよく現れるし、守りを十分にしておきたい」

「ははは、期待に沿えるよう頑張ってみるよ。任せてくれ」

「それで成田さんは、今日はもうここにいるの? テントを移動させてきている所を見ると、少なくとも今日はここで寝るつもりなんだよね?」

「ああ、薪も持ってきたから、後で焚火場所も作る。僕専用の焚火場所だ、ははは。良かったら椎名さんも今晩はここで寝てみるのはどうかな? 大草原のど真ん中で星空を見ながら眠るなんて、最高だよ」


 確かにそうかもしれない。それはとても魅力的な話だと思った。


「そうだな。ちょっと考えてみるよ」


 そう言って成田さんのもとを後にしようとした。すると未玖が成田さんに声をかけた。


「あ、あの……」

「ん? なにかな?」

「ト、トタンとかベニヤ板を持ってきてくれると言っていましたよね」

「ああ、他にもブロックとかセメントとか色々と考えてはいるけど?」


 ブロックにセメント? 成田さんはそんな事まで考えていたのか。もとの世界での事まで皆には聞いてはいないけど、もしかして成田さんは工務店とか建築関係の仕事をしている人かもしれないと思った。


「あの……ここの草原エリアなんですが、とても広大なので、これからここに畑を作ってみようかなって思っているんです」

「ほう、それは面白いね。いいと思うよ」

「そ、それで……ここに小屋みたいなものがあればと思って……ベニヤ板とかそういうのがあれば、森で伐採して作るよりも簡単に作れるんじゃないかと思って」

「ああ、なるほど。いいよ。それじゃそれ用の小屋を、僕が作ろう。畑と未玖ちゃんの為に」

「え? いいんですか?」

「もちろん。それで、他には?」

「え?」

「他にもあるんじゃないのかな?」

「は、畑を作るのに、水がいるんですけど……井戸はスタートエリアにしかないですし、川エリアまで行って戻ってきてもいいんですけど、何種類か畑を作るとなると水もそれだけ必要になりますし、運ぶのも結構大変だから何かいいアイデアがあると助かるなと思って……」

「ふむ。確かにそうだね。解った、考えてみるよ」

「あ、ありがとうございます! 成田さん!」

「報酬は、育てた野菜とかそういうのをもらえればいいからね」

 

 成田さんはそう言って笑うと、未玖も笑った。


 成田さんもとてもいい人だと思った。もちろん、トモマサや他の皆もそうだけど。


 次は森路エリアに移動する。森に入る手前の所で、沢山の荷物を持つトモマサとすれ違う。


「あれ? 引っ越し?」

「おう、ユキか。拠点もかなり広くなったしな。森路エリアにでもと思ったけど、そっちは先約がいてな。一緒にいても良かったんだが、草原エリアの方がヤバそうだろ?」

「ヤ、ヤバいってどうヤバいんだ?」

「他の魔物はどうか知らねーが、女神像のある草原地帯にはウルフの群れがよく現れるだろ。遠吠えみたいなのも聞こえる。成田さんが今日は草原エリアに寝泊りするって言っていたけど、一人でってのはちと安心できねーしな。だから俺様も今日は草原エリアにいようかなと思ってな。それになんだか新しい住みかって新鮮でムズムズするだろ? な? はっはーー!」


 そう言ってトモマサは俺の背中をバシバシと叩いた。痛い痛い。でもトモマサもちゃんと考えてくれているんだなと思うと嬉しくなってくる。


 ワハハハと豪快に笑いながら、トモマサは草原エリアへ歩いて行った。きっとあの大量に持っている荷物は、酒とつまみなんだろうな。


 気づくと、辺りはもう暗くなり始めていた。次に向かう予定のスタートエリア。そこへ行く時に通る、森路エリアに足を踏み入れえると、周囲はすっかりと暗くなっていた。


 森の中だから、夜は暗くて当然なんだけど……いつも平日は夜に仕事が終わって、こっちへ転移してくる。そしてこの真っ暗な不気味な森を、急ぎ足で抜けて丸太小屋の方へと駆け抜ける。魔物に襲われないようにって、祈りながら……


 でも今は、この場所も俺達の拠点内になった。そう思うと、安心というのりはなんだかいつもかなり感じが変わって、不思議というか変な感じがした。


 だけど、いくらもうここは拠点内になったと言っても森は森。


 森の中は暗くてよく辺りが見えないので、俺は未玖の手を握ると懐中電灯を取り出して、辺りを照らし出しながら先へと進んだ。

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