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Phase.130 『拠点拡張 その1』



「おおーーーい!! ようやく帰ってきたかーー!! 皆、無事だったかあああ!!」


 成田さんだった。いや、その周りには未玖もいるし、大井さん、不死宮さん、松倉君、三条さんのお留守番チームの全員がいた。


 何やらせわしなく作業をしているが、それがなんの作業か見て一発で理解できた。


 そう! 成田さん達は、俺達が外へ出ている間にもせっせと作業を重ね、俺達の拠点――敷地を大幅に広げていた。


 いつもの俺達がもとの世界とこっちの世界を行き来する為に使用している女神像、その辺りを含めて大きくぐるーーーっと有刺鉄線が張り巡らされている。草原地帯のこの区画自体が、もう俺達の生活エリアという事になる。つまりもっと解りやすくいうと、領地拡大。


 これには翔太やトモマサも目を丸くして、周囲を見回して声をあげている。俺は成田さんに駆け寄った。


「これは凄いな!! 凄いよ!! もしかしてここ一帯まで有刺鉄線で囲んでいるのか!?」


 頷く成田さん。その後ろで未玖達も笑っている。成田さんは、拠点のある方を指さした。


「見てくれ。有刺鉄線は、丸太小屋とかテントとかある方から、森を通ってこちらまで伸びてきているだろ。なんとか留守番チーム総動員で、椎名さん達が出発してからずっとこの作業を続けていた」

「な、なんだって!?」

「ははは。でもこれでかなりの領地拡大ができた。転移してきてから拠点への移動と、女神像へと戻る時に魔物に襲われるかもしれないという心配。それらの問題を、これである程度解消できたと思う。これでウルフとかそういう魔物は、拠点内に簡単には侵入できないだろう。だけど、更に改良するつもりだ。この辺り全て、後々有刺鉄線だけでなく丸太小屋のある居住エリアのように柵を作って、この辺りも全て囲んでいく予定だ」

「こ、これは流石に脱帽だな。凄い、凄いよ成田さん」


 いつも転移する時、してくる時にあった不安。


 特に平日は仕事が終わってからここへ転移してくるから、この場所から拠点まで懐中電灯を片手に周囲を照らし、魔物の気配に怯えながらも丸太小屋のある方へと歩いていた。


 だけどこの成田さん達が作り上げてくれたバリケードがあれば、それらはかなり解消される。杭を打ち、固定して有刺鉄線を張ってくれたお陰で、まるで安心感が違う。正直言って、雲泥の差だ。


 成田さんは更に続けた。


「因みにこの張り巡らせている有刺鉄線を見て、何か他に感じないかな」

「え? 他に? 他にって……」


 隣で俺と同じく、周囲を見回して驚いていた北上さんが答えた。


「三角形になっている……有刺鉄線が私達の拠点まで張ってあるって言っていたけど、片側……こっち側の有刺鉄線が拠点の方というか、あっちの森の中というか……更に向こうまで張ってあるみたい。空から見たら、三角形に近い形になっているんじゃないのかな、これ」


 北上さんがそう言うと、成田さんはニタリと笑った。そして何か言おうとした所で、後ろから未玖が嬉しそうに言った。


「こ、これアレなんですよ!! わたし達の拠点の北側にも大きく張ったんですよ。だからわたし達が安心して暮らせる敷地内に、森とあのゆきひろさんとお魚を獲ったりした川の場所も入っているんです」


 えええ!! なんだって!? そんな所まで拠点を広げたって!! 


 これには流石に驚きを隠せなった。


「未玖ちゃんーー、僕が説明していたのにーー」

「え? あっ! わたしったら! すいません、すません!!」

「ははは、冗談冗談。未玖ちゃんだって頑張ってくれたからね。誰が説明しても構わない。まあ、そういう事なんだ。まだ完璧じゃないけど、今日一日で有刺鉄線の作業は終わらせるつもりだよ」


 自由にできる領土が増えるというのは、一見いい風には思えるけれど……本当に大丈夫なんだろうかとも思う。


 成田さんが女神像、この辺りまで安全に行き来ができるようにエリアを広げてくれるという事を聞いてはいたけど、正直森の方まで広げているとは思わなかった。


 しかも川まで入っているとなると……


「成田さん」

「ん? なんだい?」

「森の方なんだけど、今未玖が言ったように川の辺りまで有刺鉄線を配置したんだよね」

「そうだよ。ちゃんと作業中は魔物を警戒した。大井さんには、常にコンパウントボウで警備してもらっていたし、作業も手早く済ませたつもりだ。有刺鉄線さえ張ってテリトリーを作ってしまえば、あとからだって補強とか拡張ができるからね」

「そうだね、ありがとう。俺達の領地が物凄く広がった事について、凄く感謝しているよ。皆も喜んでいる。だけど確認しておきたいんだ。その有刺鉄線を配置しているのは、川の手前まで? それとも――」

「川の向こう側に配置したよ。そうすれば、いつでも僕達の敷地内で魚と戯れる事ができるだろ? 釣りに行くのだって、これからは魔物にビクビクしながらでなくても行けるし、好きな時に水浴びをだってできる」


 なるほど――確かに成田さんの言っている事はとても魅力的だった。でも気になる所はある。あの森は結構危険な場所だ。丸太小屋のある拓けた場所でさえ、俺と未玖はゴブリンに襲撃された。


 川の向こう側は、未玖がゴブリンに追いかけまわされていた場所。北上さんは、ゴブリン達は巣を作るとも言っていた。頻繁に現れるところを見ると、近くにその巣があるのかもしれない。


 鈴森が俺の肩を叩いた。その後ろには北上さん。二人とも同じ意見のようだった。


「どうする?」

「いや、折角こんなに広げてくれたんだ。今更、縮小する気はないな。何かいい方法を考えようとは思ってはいるけれど」

「それなら今日から俺は、そっちの川のある森の方でテントを張って住む」

「え? それはいいけど……」

「何か問題があるか? もともとこの辺りが俺達のテリトリーになったら、俺は草原地帯で住むつもりだった。だけど森の方がヤバそうだからな。ヤバイ方が楽しめそうだし、そっちに行ってやる」

「い、いや、でも……」

「とりあえず、テントを畳んで森の方へ荷物も運んで引っ越しだ。何か用事があれば遠慮せず来てくれ」


 鈴森はそう言って、さっさと拠点北側の森の方へ行ってしまった。適当でいい加減な感じに見えて鈴森はちゃんと解っている。


 今、俺達は皆ここへ集まってきてしまっている。丸太小屋の方なんかは、誰も人がいなくて無警戒だ。拠点は柵と有刺鉄線が囲んだるだけ。


 だから鈴森は、急いで森の方へ様子を見に行ってくれたんだと思った。領地が広がるという事は、守らなくてはならない範囲も広がるということ。


 しかし……


 鈴森は翔太が言ったように、とても頼りになる男というのは間違いがないようだ。その証拠に、俺も翔太や未玖同様に、鈴森の事をとても信頼し始めていた。

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