Phase.129 『荒野の湖 その3』
「ユキーー!! 怖かったよおおおお!!」
丘を全力で駆けあがってくる、翔太とトモマサと和希。抱き付こうとしてくる翔太をサッとかわした後、【鑑定】で調べた魔物の事を皆に伝えた。
「和希、気をつけてくれ。もう少しであの化物魚の餌になっていた所だぞ!!」
「つ、つい夢中になってしまって。『異世界』に来てから、これ程大きな湖を見るのは初めてでしたし、見るからに何かいそうだったのでつい……すいません。翔太さん、友将さん……すいませんでした。お二人がいなかったら僕は今頃、さっきのビートバッファローと同じ目にあっていたと思います。ごめんなさい」
「いいって、いいって! 誰もあんな怪物が、いきなり湖から飛び出してくるなんて思ってもいなかった。でも、次は気をつけろよな」
「お前もだ」
「いて」
翔太の肩をコツンと叩く。そして全員また丘の上に揃ったところでもう一度、ここから湖を見渡した。
「とりあえず、今日はここまでだな。えたいが知れなさすぎる湖だし、あそこ……向こうにある岩が重なって入口になっている所……洞窟のようなところも気になる」
「でも冒険せずには、おれんだろ? めちゃ気になるよなー」
「それはもちろん。だけどさっき和希が死にかけただろ? 佐竹さん達も残念だった。俺達のいる異世界は物凄く魅力的な世界だけどそれと同等な位に、危険な場所だ。もっと準備してから、もしくは一気にとは考えずに、少しずつ調査していくつもりで歩を進めよう」
「相変わらず、心配性だなー」
俺と翔太の会話にクスっと軽く笑って鈴森が言った。
「だがリーダーには、それくらいな性格がもってこいだ」
小貫さんと北上さんも頷いてくれた。
さて、そろそろ行こうか。拠点で未玖達が俺達の帰りを心配しているかもしれない。そう思って、そろそろ戻ろうと言おうとすると、トモマサが何かに気づいて和希に言った。
「おい、和希。お前それ何持ってんだ?」
え? 見ると、確かに和希は手に何かビラビラしたものを持っている。ビラビラとして濃い緑色。植物? っていうか、海藻のようなもの。
「ああ! そう言えばそうだった! これはあの湖に浮いていた……というか、生えていた水草です。これに手を伸ばした時に襲われて、慌てて逃げたから持ってきてしまったみたいですね。ははは」
「おいおいおい。しかもなんだか茶色い粒粒ついてねーか、気持ち悪いなああ!!」
「え? あっ、本当だ。これきっと卵だよ!! なんの卵だろ?」
はっとした。まさか……
「お、、おい、ユキーー」
翔太も気づいたようだった。早速和希の取ってきたそれを【鑑定】で調べてみる。するとその粒粒はキルケラトドゥスの卵だった。
北上さんが皆が思った事を代弁してくれた。
「キルケラトドゥスって……さっき和希君を襲ったメガケラトドゥスとは、違うんだね」
「違うけど、仲間みたいだな。相変わらず情報が少ないけど説明を読む限りでは、キルケラトドゥスの大型版みたいなのがメガケラトドゥスみたいだ。どちらにしても、こいつはさっき見た奴よりは小さいだろうけど、危険な魔物であることには違いがないかな」
危険なやつ。そう告げると和希は、必死な顔をした。
「ね、ねえ!! 危険って事は解るけど、これ拠点に持って帰っちゃだめですか? ちゃんと責任をもって管理するし……何より調べてみたい。僕はそういう研究とか観察とかするのが好きなんだけど、きっとそれは皆の為にもなると思うんです! 駄目ですか?」
うーーん、どうしよう。翔太と北上さんの顔を見る。二人とも俺と同じで、どう返事をするべきか迷っている様子。
トモマサは完全にあの魚の魔物を気持ち悪いと嫌がっているので、小貫さんに聞いてみた。小貫さんならここにいるだれより、魔物の恐ろしさを解っている。
「まあ知ることは武器になる。幸い卵だし、しっかりと管理して、いらなくなったらちゃんと燃やすかなんかして処分するっていうのであれば、いいんじゃないだろうか」
「ですよね。なら和希、ちゃんと責任もって管理するっていうのなら、持って帰ってもいいよ。それで新たに何か解ったら、俺にも教えて欲しい」
「ありがとうございます、もちろんですよ!! やったーー!!」
ザックを降ろすと、ビニール袋を取り出してそこへ飲み水を入れて和希に渡した。すると和希はお礼を言って、そこへその粒粒の卵のついた水草を中へ入れた。
因みになぜ飲み水を使用したかっていうと、少なくとも今直ぐにまた丘をおりて、あの湖でビニール袋に水を汲むなんて勇気は俺にはないからだった。
さて、そろそろ移動しないと。色々あったけど、また歩き出す。自分達の拠点へと戻る為に歩く。
途中で例のブルボアもそうだけど、ゴブリンやらウルフやら危険な魔物と遭遇しないように、周囲を警戒して歩いた。
歩いていて思ったけれど、こちら側のエリア……まだそんなに辺りを歩いてないじゃんって言われれば返す言葉もないんだけれど、未玖や長野さんと出会った北西エリアよりも草原や荒野が広がっていて、見通しがいいなと思った。
よくあの時俺は、未玖と二人だけでジャングルみたいな森の中を、未玖の寝泊りしていた洞穴まで歩いて行ったなと思う。思い出しただけでも、無謀この上ないと今更ながらにゾッとする。
お宝を見つけた和希は、嬉しそうにしている。翔太とトモマサは北上さんに何か話しかけていて、鈴森は一人周囲を異常に警戒してくれている。
俺は小貫さんとお喋りしながら、そんな感じで歩いていると、いつの間にかいつもの草原地帯へと戻ってくる事ができた。
帰ってきた! 無事帰ってくる事ができた!
女神像のあるいつもの草原地帯を見て、少し感動してしまう。だけどあるものが目に飛び込んできた。俺達はそれを見て、驚きの声をあげた。




