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Phase.127 『荒地に湖 その1』



 佐竹さん達がいた場所から、俺達は拠点の方へ引き返していた。調査も兼ねて、ほんの少しだけど行きとは違ったルートを通って戻る。


 すると翔太が何かを見つけて、いきなり走りだして近くにあった丘に登った。何事かと俺達も後を続く。


 翔太が指した先――なんとそこには、大きな湖が広がっていた。はしゃぐ翔太。


「ヒャッハーー!! こいつはすげえや!! 見ろ、馬鹿でかい池だぞ!!」

「おい、これは池じゃない。湖だ」


 間違いを訂正すると、翔太は「そうだった」と言って頭をポリポリと掻いた。まったく……どう見ても池って規模じゃないだろう。翔太が言ったように馬鹿でかすぎる。


 今俺達は高台の丘にいて、湖はそこから見下ろすように眺めている。しかも湖周辺は、荒野というか荒地が広がっていて、草木があまり生えておらず見渡しも良好で湖の大きさがしっかりと解った。


 後ろからトモマサが顔を出してきた。


「どうだ? なんか面白いもんでも見つかったか? なんならちょっと下りてみて湖の近くまで行ってみるか」


 鈴森、北上さん、小貫さんの顔を窺う。和希は、翔太と同じく身体を乗り出して今にも湖に向けて丘を滑り落ちていきそうな状態でいた。


 もしかしたらあそこに、危険な魔物がいるかもしれない。そんな気持ちよりも遥かに、好奇心の方が勝ってしまっているのだろう。


「そうだな。調査してみてもいいかもしれないけれど、また次回ここへ来た時の方がいいかもしれない」


 言った途端、翔太が声をあげる。


「ええーー!? そんなーー。なんでだよ、ユキー」

「え、だって何がいるか解らないだろ。あれ見てみろよ」


 遠くの方を指さす。湖の向こう岸。その辺りに無数の水牛のような生き物の群れがいて、湖の水を飲んでいた。


「あれも多分魔物じゃないか。湖を調べる為に下まで降りて行って、あれが一斉に迫ってきたらどうする? 1匹でも強そうなのに群れだぞ。あんなのにこんな所で追っかけられたら、一瞬で全滅するぞ」

「そん時はそん時だよ。危険は回避しないといけないけれど、逃げてばかりでも前に進まないだろ。それにあれが襲ってきても、こっちにはトモマサがいるもんね。なあ、トモマサ」

「ああ、そうだぜ! あんな牛野郎、突っ込んできても両角掴んじまえば、簡単に転がしてしまえるぜ」

「はっはーー! 流石はトモマサだ!」


 拳を合わせる翔太とトモマサ。


「それじゃお前とトモマサで行ってみてこいよ」

「え、ユキーは? もしかして俺達をおいて、先に帰っちまうなんて言い出すんじゃないだろうな。頼むからそんな寂しい事言わないでくれよ。後生だから」

「ここで待っているよ。ここで待って、上からお前たちを見ている。佐竹さん達のいた場所で回収した荷物もあるからな。それを持って、ここを下りて行って危険かもしれない湖を調べるというのもアレだろ。だから荷物は全部俺が見てるから、行くなら武器だけ持って身軽になって行けよ。幸い、ここからだと湖全体が見渡せるしな」

「おおーー、そういう事か。解った。でもユキーも見に行きたくないのか?」


 翔太の言葉を聞いてもう一度湖に目をやる。周囲にはポツンポツンと枯れた草木が生えていて、他にはいくつか大きな岩。そして更に気になったのは、水牛みたいなのの群れがいる対岸の方だけど、そっちに大きな岩がいくつも寄り集まっている場所があって、そこに洞窟のようなものが見えた。


「誰かが荷物を見てないとだろ? それに何かあった時に、待機している者がいれば直ぐに助けにいける。だから翔太とトモマサで行ってこい」

「ぼ、僕も行っていいですか?」


 和希だった。彼もかなり好奇心旺盛で、普通の人よりも探求心も強くあるように見えた。


 行かせるのは危険かもしれないけれど、翔太とトモマサも一緒だし……危険と言えばこの『異世界(アストリア)』自体が危険な世界だし、まあいいかな。


「ああ、行っていいよ。だけど何か危険を感じたらすぐに、こちらに戻ってくるんだ」

「はい、解りました!」


 翔太とトモマサは、もう丘を滑るように下りていっている。和希も荷物をここに置くと、慌てて翔太達の後を追っていった。


「鈴森は行かなくていいのか?」

「はあ? なぜそう思う?」

「だって、そういうの好きだろ? 翔太も行ってしまったしな」

「行きたいか行きたくないかで答えると、行きたい。だがな、俺はお前に借りがあるからな」

「借り? あの時の賭けの話か? あんなのは、チャラだぞ。鈴森に信じてもらう為に言った事だよ」

「それはありがたいが、そうすると俺の気が済まん! だから考えた。お前が我ら『勇者連合(ブレイブアライアンス)』のリーダーだというなら、そのクランメンバーである俺はリーダーであるお前を守るとな! フッ、それが俺の仕事だ」


 鈴森はそう言って湖の方へ向き直ると、大きく手を翳した。


 うーーん、恥ずかしい。傍で鈴森との話を聞いてクスクスと笑っている北上さんと小貫さんの視線がブスブスと突き刺さって恥ずかしい。『勇者連合(ブレイブアライアンス)』ってクラン名も中二病全開で恥ずかしいし……今にして思えば、色々と恥ずかしい。


 でも……鈴森のような頼もしい仲間がいてくれて、俺はとても嬉しいと思ったのも事実だ。


 あと……名乗るのは恥ずかしいけど、本当はどうなんだと聞かれれば『勇者連合(ブレイブアライアンス)』というクラン名は、やっぱりちょっとかっこよくていい感じだと思っているのが、俺の本音だったりする。

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