Phase.124 『拠点へ帰ろう』
翔太、鈴森、北上さん、トモマサ、和希――そして小貫さん。皆、無事。
確認が取れた所で、俺達は未玖達が待つ自分達の拠点へ引き返す事にした。でもただ引き返すだけではない。
拠点を出て外の世界へ出たのは、佐竹さん達の埋葬と荷物を取りにきた為だった。だけど当然、別の思惑もある。できるだけ、色々と辺りを調査しながら戻る。
俺は一度だけ森のもっと奥深く、未玖が寝泊まりしていた洞穴まで一度だけ行ってみただけで、これまでは女神像の辺りの草原地帯と、拠点の周囲とその近くの森しか行動をしていなかった。
なぜならこの世界が、とても危険な世界だと解ったからだ。もといた世界は、温暖化や環境汚染などでどんどん毒されていっている。だけどこの世界は、とても美しい。緑が豊富に広がり、空気も綺麗で星も凄くよく見える。そして沢山の動植物。
でもそれに比例して、危険な魔物も数多くいるのだ。俺が出会っている魔物なんて、きっとその1パーセントにも満たないかもしれない。これだけ自然が広がる広大な世界なら、絶対に沢山の種類の魔物が生息しているはずだからだ。
だからこそ、俺は用心して基本的に拠点でのみ過ごしてきた。十分な準備と備えができるまでは用心をする。
俺は、自分でもかなり用心深い性格だと思っている。でもそれは同時に、この危険な世界では最も適合している性格なんじゃないかとも思っている。
でも今回は、佐竹さん達の埋葬などで、思いきってここまでやってくる事になった。そのついでに例の佐竹さん達を襲ったブルボアの手がかりや調査、色々な事が解ればいいなと思っていたけど……ゴブリンとも遭遇してしまった。
更にはゾンビまで……ブルボアに殺された戸村さんが、ゾンビになっていたのだ。
なぜ戸村さんはゾンビになったのか? この世界においては、ゾンビはどういったものなのか? それもちゃんと調べておかないといけない。
もしも映画とかと同じで、噛まれたら噛まれた者もゾンビになるみたいな事になるなら、それは一大事だ。ゴブリンやブルボアも脅威だけど、今後はゾンビに対する備えもしなくてはいけなくなる。
……俺と未玖と翔太だけだったが、北上さんや大井さん、それに鈴森が仲間に入って今では、成田さん達も俺達のクランに加わった。だけどやる事がまだまだ山積みで落ち着かない。
少しでも落ち着ければ、釣竿と弁当とビールでも持って、未玖と近くのあの川に釣りでも行こうと思っていたんだけどな。考える事が多い。
「よし、それじゃどうする? 佐竹さん達も埋葬したし、荷物も回収したし、もう戻るか」
翔太が俺の腕を突っついてきて言った。トモマサが続ける。
「ぜんっぜん! 暴れ足りねーぜええ!! 絶対ユキについてくりゃあ、もっと暴れられると思ったのによー!!」
「何事もないのが一番だ。安全第一。だろ?」
「そんなこと言って、ユキはゴブリンと楽しんだんだろーが! 俺もバトルする気で来てみたのによ!」
「か、かなりビビってたし……た、楽しんではないけどな。トモマサには、もっと重要な所で活躍してもらうから力は温存していてくれ」
そう言ってトモマサの肩をポンポンと叩いた。トモマサは不服そうにしているけど、現役プロレスラーだというし、攻撃的な性格はちょっとアレかもしれないけれど仲間でいてくれるのは、心底心強く思う。
「それじゃあ皆、拠点に戻ろう。でも来たルートとは、少しだけずらして辺りを少しでも調査しながら帰ろう。例のでかいブルボアや、ゴブリンやゾンビ……ゾンビに至っては初めて見るし、映画のようにもし出くわして噛みつかれたら大変な事になるかもしれない。だから十分注意して進むんだ」
「噛まれたらどうなるんだよ」
「ゾンビに噛まれたら、次第に具合が悪くなって死ぬ。そしてゾンビになって復活する」
トモマサの質問に対して、鈴森がさらっと簡潔に答えた。それが余計に、恐ろしく思えた。
だけど戸村さんはゾンビと化していた。誰も噛まれる事はなかったけれど、もし噛まれたら映画と同じような事になるとしたら……俺達は恐怖して怯えるくらいでないと危険だ。鈴森もそう思って、そう思わせるように答えたのかもしれない。
「兎に角、一度拠点へ戻る。戻る途中も、折角遠出してきているので無駄にしない。移動しながらも周囲を警戒し、何か気になるものがないか注意しながら行こう」
「はーーい」
「わかった」
「了解」
「おう!」
後ろからついてくる小貫さん。もう大丈夫そうだ。いや、まだ完全には立ち直っていないだろう。それが普通だと思う。佐竹さん達は残念だったけど、今は俺達が小貫さんの仲間だ。俺達とこの先拠点で生活していけば、きっと時間が徐々に解決してくれるだろう。
「椎名さーーん!」
和希の声。目をやると、少し先で蹲って何やら草場を覗き込んでいる。皆も振り返ったが、大丈夫だから――すぐ後を追いかけるからと合図した。そして和希のもとへ駆け寄る。
「どうした和希。何か見つけた?」
「うん、これ見て! きっとこれ薬草か何かだよね」
和希の目線の先、そこには形の変わった草がいくつも生えていた。俺と未玖が一緒に見つけて拠点に持ち帰り、薬草畑を作ったものがキュアハーブという名の薬草。シソの葉によく似ている。
和希が今見つけた草は、ミントのような草とちょっと変わった形の二種類の草だった。確かに何と言うか、そういう気配はある。薬草かもしれない。
「ねえ、椎名さん。椎名さんの【鑑定】で調べてもらえないですか? きっとこれ、薬草だと思うんですけど」
和希のスマホは【鑑定】を入れてもらってないんだ――一瞬そう言おうと思ったけれど、そう言えば10万円もするんだっけ。
「いいよ、早速調べてみよう。でも見たらさっと、根元から採取して拠点へもって帰ろう」
「はい」
二人で、薬草を持ち帰る事にした。




