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Phase.122 『小貫捜索 その2』



 池の近くに大きな木が生えていた。その下に小貫さんはいた。何か懺悔でもしているかのように、蹲っている。


「小貫さん……」

「うう……ううう……」


 泣いているように見えた。俺は小貫さんに近づくと、ゆっくりと手を伸ばして小貫さんの肩にその手を置いた。


「小貫さん、俺です。椎名です。大丈夫?」

「……ううう……大丈夫じゃあない」


 俺は軽く息を吐くと、ゆっくりと小貫さんの隣に腰を下ろした。


「大丈夫であるはずがない。小貫さんの仲間は……あんな事になってしまった」

「……ああ」

「佐竹さん達とは、あの時だけの出会いだったし知り合って間もないけど、小屋を作るのや柵を補強したりするのを手伝ってもらった。木の伐採作業もだ」

「ああ」

「いい人達だった。冒険の旅を続けると言って、あの日、拠点を旅立ってしまったけれど、佐竹さん達に目的が無ければ仲間に誘いたかった」

「ああ、誘っていたら……今頃は生きていたかもしれない」


 小貫さんの声は、まだ震えていた。俺だって、翔太や未玖を失うような事があったら平然としていられるか解らない。小貫さんにとって、佐竹さんや戸村さんに須田さんは、俺と翔太の関係のようなものだろう。


 俺は小貫さんの背中を摩り、その後にポンと軽く叩いた。


「そろそろ行こう。皆、待っているしここは危険だ」

「……ああ、解っている。迷惑をかけてすまないな。落ち着いた、もう大丈夫だ」


 小貫さんは、涙を流していたのか目を何度もこすると、こちらを向いて何度か頷いた。そして立ち上がった。


「椎名さん、ありがとう」

「いえ、皆もまだ待っている。佐竹さん達の事は、凄く残念だ。だけど小貫さんは今、一人な訳じゃない。まだ俺達がいる。俺達は小貫さんの事を仲間だと思っているし、小貫さんも俺達の事をそう思って欲しい」

「……スマホを失った。もう、もとの世界へは帰れない……」

「それを言うなら、未玖もそうだ。小貫さんは未玖に年齢を聞いたか? 11歳だ」

「11歳……」

「そんな幼い子供が、もとの世界へ帰る事もできず、この世界で生きようと頑張っている。大人の俺達がそれに負けていたら、未玖にきっと笑われる。それに、俺達は危険な世界だと知ったうえで望んできた。こうなる事は、覚悟をするべきだったんだ。でもだからと言って、悲しみや怒り、不安が無いわけじゃない。だから……一緒に頑張ろう」

「……そうだな、その通りだ。未玖ちゃんに負けていられないしな」


 上手く言えなかったけれど、やっと笑った。どうであれ、これで小貫さんは落ち着いてくれた。


「それはそうと、椎名さん。なぜそんなに汚れている? 泥だらけだし、濡れている」

「ああ、それはあれ」


 池の方を指さした。


「小貫さんを追ってきて、丘を越えた所で転がって池に落ちた。もう散々だよ。これから何処かへ勝手に駆けだしていく時は、もう少しちゃんと道になっている所を走ってくれ」

「解った」


 軽いジョーク。小貫さんと笑い合う。


 俺も立ち上がって、顔や服についた泥を払うと、皆が待っている場所に戻る事にした。


 しかし小貫さんと共に来た方へ戻ろうとした途端、近くで奇声が聞こえた。


「ギャギャーーーー!!」


 聞き覚えがある。確かに聞き覚えがある声。恐る恐る小貫さんと振り返ると、草場から3匹のゴブリンが姿を現した。


「ゴ、ゴブリン!!」

「椎名さん、どうする? 戦うか、それとも逃げるか!?」


 ゴブリン達はそれぞれに武器を持っている。2匹は棍棒、もう1匹は槍だった。どうするったってどうしよう。


 ゴブリンは、背丈も小さく弱いイメージだった。だけど、実際には俺が思っていたものとは結構違っていた。


 未玖と初めて出会った時には、未玖を1匹のゴブリンが追い回していた。しかもその足は、かなり俊敏なものだった。そしていざ対決すると、とても強く格闘した俺は殺されると思った。


「ギャギャギャ!!」


 ゴブリン達は、こっちが迷っているなんてお構いなしに、武器を構えながらも草場から飛び出して威圧してきた。そして距離を詰めてくる。


「椎名さん!!」

「ああ、2対3だけど、ここで対決しよう!! 剣を抜け!!」

「わ、解った!!」


 ゴブリン達が迫ってくると、俺と小貫さんは逃げる事をやめて剣を抜いた。するとゴブリン達は警戒する素振りを見せる。そして3匹のうち、2匹が左右から俺達の後ろに回り込もうとしてきた。


「小貫さん! こいつら、俺達を囲んで三方向から攻撃しようとしている!」

「ああ、解ってる!! それで、どうする?」

「まず目の前の奴を一気に片付ける!! いくぞおお!!」


 ギャギャーーーーッ!!


 棍棒を持っている2匹が俺達の左右に回った時だった。俺と小貫さんは正面に残った槍を持つゴブリンに向かって、同時に突進した。


「小貫さん!! 槍は俺に任せて!!」


 ゴブリンは槍の穂先をこちらに向けてきた。しかし俺を狙えばいいのか、小貫さんを狙えばいいのか迷いがある様子。それこそが狙い。


 だけど、もしも槍で腹でも突き刺されようなものなら、佐竹さん達のように俺もここで死ぬかもしれないと思った。あの虎の子のポーションも、持ってきてはいない。


「うわあああ!!」


 ガアアンッ!!


 ゴブリンは小貫さんを狙った。伸びてくる槍。両手で剣を握り、素早く力いっぱいに振り下ろしてゴブリンの突いてきた槍を叩き落とした。それとほぼ同時に、小貫さんが剣でゴブリンの身体を突き刺す。


「だりゃあああああ!!」


 後方から慌てて棍棒を手に持つ2匹のゴブリンが迫ってきているのを感じた。だけどもうこの仲間のゴブリンは、助けられない。小貫さんがゴブリンの腹に突き刺した剣を引き抜くと、続けて俺はそのゴブリンの首を狙って剣を振り下ろした。


「ギャアアッ!!」


 ザクッ!! ブシューー。


 刃がゴブリンの首に深々と突き刺さると、鮮血が噴き出してゴブリンは仰向けに倒れる。これで2対2に持ち込める。


 俺と小貫さんは、すかさず振り返って真後ろまで接近してきていた残る2匹のゴブリンと打ち合った。

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