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Phase.120 『ゾンビ知識』



 もうそれは、戸村さんでは無かった。


 念の為、【鑑定】で戸村さんを調べてみると人間でも戸村さんでも無く、そこにはゾンビと記されていた。やはり……


 なぜ戸村さんがゾンビになって襲ってきたのか――こんな悍ましい姿になってしまったのかは解らない。だけどブルボアに襲われ殺されて、それから何かがあってゾンビになってしまったのは間違いがない。


「ユキ。ちょっとこっち来て見てくれ」


 トモマサだった。ユキって呼ぶのは翔太位のもの、まあ正確にはユキーって翔太は呼んでくるけど……それでもトモマサとは互いに椎名さんと坪井さんから、親しい感じで呼び始めた所だったので、少し照れ臭い気持ちになった。


「なんだ? 何か見つけた?」

「いや、死体なんだけどよ」


 小貫さんは仲間である佐竹さん達の変わり果てた姿を目にして、茫然としている。翔太や和希も、真っ青な顔をしている。


 だけど北上さんに鈴森、トモマサなんかは多少顔を引きつらせているものの、わりかし大丈夫な顔をしていた。他でもない、俺もそうだった。


「その……戸村って男以外は、調べてみたが動かない。ゾンビにはなっていないようだ。じゃあなぜ戸村って男だけ、ゾンビになっていたんだろうな?」


 その疑問は俺も思っている。


 鈴森が、佐竹さん達に近づいてひとしきり調べると、トモマサの疑問に対して意見を言った。


「3人ともブルボアに殺されている。その後に、ゾンビ化したんだろうが、現時点ではゾンビ化した理由についてはまだ謎だ。更なる調査が必要になるな」

「それでなんで、この男だけゾンビなんだ?」


 トモマサはそう言って、戸村だったものをつついた。すると北上さんがトモマサを軽く叩いて、向こうで茫然としている小貫さんに目を向けた。トモマサは、北上さんが言わんとしている事に気づくと、頭を何回か下げて反省していると態度に見せた。


 現役プロレスラーだし、身体も大きくて筋肉も凄い。見た目も迫力があるので、北上さんに叩かれた事で怒るかもしれないと思って、翔太と一緒にドキっとしたんだけど、トモマサは俺達が思っていたよりも、もっとちゃんとした男だったようだ。


 戸村さんの屍をもう一度見た後、鈴森が続けて説明した。


「簡単に整理するとこうだ。3人の死因はブルボアだ。小貫さんが言うには、軽自動車並みのでかさだって言っているが、兎に角そいつだ。そしてそのあと、殺された3人のうち戸村さんだけがゾンビ化した訳だ。それはなぜか? これに関しては、理由は明確。椎名が戸村さんだったゾンビを倒した事と関係がある」

「つまり……なんだ? もっとはっきりと言ってくれ。俺はゾンビ映画とか見ねーから、死体が動く位の常識しか知らねーんだよ」

「ゾンビは動く死体だ。でもその動く死体が今は、椎名によって本当に死んだ。もう動かないだろう。つまりゾンビの弱点は脳みそだ」

「脳みそ!? 嘘だろ?」


 正直言ってその事実に驚いたのは、トモマサだけだった。オタクである俺を含める他の皆は、ピクリともしない。ゾンビの弱点が脳ミソだなんて、当然と言ってもいいくらいに当たり前の知識だった。


「佐竹さん、須田さんの遺体は戸村さんよりも酷い。ハイエナやでかいカラスに啄まれたのもあると思うが、その前にブルボアに潰されて喰われ、大きく脳を破損している。だから脳みそが無事だった戸村さんだけゾンビになった訳だ」

「なんだとお!? そ、そんな!! でもそれじゃあなんで!!」

「だからゾンビ化の原因は、知らん! もっと情報を集めねえと真実は解らん」

「で、でも映画とかゲームやってんなら、なんかゾンビになるルールとかそういう知識あるだろ?」

「推測はできるが、断定できん。やはり調べてみないと解らない。それに」


 鈴森はそこで言葉を止めて俺の方を見た。俺には鈴森の考えている事が解った。


 つまり俺達はこの世界に自分達が楽しめて安心して暮らせる拠点を作った訳だけど、実際は安全ではない。『異世界(アストリア)』がどんな形をしていて、どんな世界かも解らないし数多くの魔物だっている。


 その魔物だって全てを見た訳でもないし、俺達の拠点の近くにどんな危険な魔物が潜んでいるかとかも全てを把握していない。


 ゴブリンにウルフ、スライムにサーベルタイガー、ブルボア。そしてそこにゾンビが加わった。


 『異世界(アストリア)』にゾンビが存在し、転生者がゾンビに代わる事を知った今、俺達は拠点オブザデッドにならないように、十分に警戒しなければならない。対策を立てないと駄目だと、鈴森は目で言っていた。


 翔太が言った。


「そ、それでどうするんだ? このままそのブルボアを探して周囲を探索って訳じゃないんだろ? 佐竹さん達がこんなに無残にもやられちまってるんだ。もっと俺達も準備しないと、同じように殺されるぞ。少なくとも、こんな所でうろうろしているのも危険だろ?」

「確かにそうだな。とりあえずもう十分だろう。どうなったらゾンビになるのかは、解らない。例えば映画などでポピュラーな……別のゾンビに噛まれたらゾンビになってしまうというパターン。それだったら、ゾっとするけど。まあ兎に角、用心はしておくに越したことはないから、できるだけ佐竹さん達の死体には触れずに彼らを埋葬してやろう。それで佐竹さん達の荷物を回収して、俺達の拠点へ戻ろう」

「そうだな。拠点に残っている皆にも、ゾンビの存在を知らせてやらないといけないしな」


 話がまとまった。持ってきていた組み立て式スコップを取り出すと、それで近くの地面に穴を掘った。そして佐竹さん達をそこへ埋葬した。屍はほぼ肉片と言ってもいいくらいに変わり果てていて、埋葬するのは特に大変ではなかった。


 埋めた場所に石を積んで、墓にする。その前で、両手を合した。


 佐竹さん、戸村さん、須田さん。皆、いい人だった。拠点作りを手伝ってくれた。一緒にバーベキューをして酒を飲んで宴を楽しんだ。


 ……死んでしまったなんて、未だに信じられない。


 『異世界(アストリア)』に来ている時点で、覚悟はできていただろ? なんてとても言えなかった。

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