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Phase.119 『戸村さん』



 佐竹さん達のいた場所。そこに群がっていたハイエナ共は殲滅し、大きなカラスも全て追っ払った。そして周囲が安全かどうか、翔太と鈴森が警戒して見て回る。


 トモマサはそこらの大きな石に腰をかけて、煙草を一服し始めた。一仕事終えたって感じだろう。そう思える程の活躍だった。


 北上さんと河北君は、倒したハイエナに近づくと拾った枝で死骸をつついたりし始めた。その行為について北上さんは、魔石を探しているんだろうと解るけれど河北君については、いったい何をしているのかなと思い声をかけた。


「河北君も魔石を探している?」

「え? いいえ、違います……って訳でもないですけど」

「どういう事?」

「魔石があったら折角なので欲しいですけど、それよりもこの足が六本も……六足(ろくそく)ハイエナでしたっけ?」

「ああ、【鑑定】でそう表示されていた」

「六足ハイエナって魔物は初めて見るので、ちょっと色々と調べてみたいと思いまして」


 河北君はそう言って、かけていた眼鏡をクイっと持ち上げた。如何にも、そういう調査とか研究とかが好きそうな顔をしているなと思った。トモマサを見て、一目で殴り合いとか喧嘩が好きそうだと解るのと同じだと思う。


「確かに俺も初めて見る魔物だな。俺達のいた世界じゃ、足が6本もある哺乳類なんていないものな」

「そうですよね! ああーー、僕らの拠点にこの死骸を一体でも持って帰れたらなー。もっと調べて研究できるのになー」


 え? マジで!? こんな得体の知れない、しかも結構怖いシルエットをしていると思うんだけど、それを拠点に持って帰るなんて本気で言っているのかと驚いてしまった。


 本当に嫌とかじゃなくて、ちょっと驚いただけなんだけど、河北君ははっと何かを察した表情をした。


「す、すみません、ごめんなさい!! 僕らの拠点なんか言ってしまって!! 椎名さんの拠点でしたね。アハハ」

「いや、それは違うよ。もう河北君も俺達の仲間だろ。俺達はクランを結成したし、君はそのメンバーだ。だから僕らの拠点って思ってくれて間違いはないよ」

「ええ! か、感激だな! ありがとうございます、椎名さん!!」


 六足ハイエナを持って帰るとかそういうのを聞いたときは、ドキッとしたけれどなかなか面白い子だな。


「あの……椎名さん」

「え? はい」

「あの、その……僕も仲間だって言うんでしたら、和希(かずき)って呼んでもらっていいですか?」

「え? 和希」

「うわー、うわー。ありがとうございます」


 本当に変わった……っていうか、面白い子だな。


 そんな和やかな会話を和希としていると、いきなり悲鳴が聞こえた。


「ひ、ひいいいい!!」


 小貫さんの悲鳴!? 俺達は全員、小貫さんの方を振り返った。すると小貫さんは尻餅をついて、必死に後ずさって何かから逃げる素振りを見せていた。


 俺達全員そんな小貫さんを見て、まだハイエナの生き残りがいるのではと思った。しかし違った。小貫さんの視線の先には、上半身だけになった戸村さんがいたのだ。


 しかも戸村さんは、動いていた。小貫さんを恨めしいようなそんな目で一点に見つめ、身体をゆっくりと這いずり苦しそうな呻き声をあげながらも小貫さんへ迫る。


「うううう……うあああああ……」

「ひ、ひいいい!! やめろ、やめてくれ戸村!!」


 世にも恐ろしいその信じられない地獄のような光景に俺達は、言葉を失った。


「ううううう……」


 戸村さんの目は、とても濁っており意識もまともではないように見て取れた。そして何より異常だと思ったのは、上半身しかない上に内臓も飛び出してしまっているのに生きている事。いや……生きていないのかもしれない。


 戸村さんは両手を伸ばし、恐怖で腰を抜かして必死に逃げる小貫さんを追い詰めて、足を掴もうとしていた。


 更には歯をガチガチとさせ、その仕草は小貫さんに噛みつこうとしている。それで俺達は戸村さんがどうなってしまったのか、察した。


 ――――戸村さんはもう死んでいる。そしてゾンビ化してしまっている。


「うわあああ!! ゾ、ゾンビだ!!」


 翔太が声を上げた。それで皆一斉に動いた。


 俺は剣を握ると、それで小貫さんのもとへ行き小貫さんを齧ろうとしている戸村さんだったものを刺した。


 ゲームや映画なんかじゃ、定番のモンスターのゾンビ。人間を見ると、何処までも追ってきて噛みつこうとする。そしてゾンビに噛まれると、噛まれた者は次第に具合が悪くなり死に至る。その後は、ゾンビになり復活する。


 戸村さんは間違いなくゾンビになっていた。なぜなったのか? 俺のゲームや映画で知っている知識のものと同一なのか? それはまだ解らないけれど、下半身が無くなって内臓が飛び出していても、呻きながら襲い掛かる姿はもうゾンビ以外の何者でもない。そしてここまで身体が破損していても動くなら、俺の知っているゾンビの知識同様に脳を破壊するしかないと思った。


 だからひたすらに恐怖して動けなくなっている小貫さんの前に立つと、俺は持っていた剣を強く握り戸村さんの頭部へと突き刺した。


 戸村さんは、既にブルボアに殺されていた。そして、どうしてか解らないけれどゾンビ化している。つまりもう……戸村さんは戸村さんではなかった。


 そして俺はこれまでにないくらいに、最悪な気持ちになった。

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