Phase.118 『初調査 その4』
佐竹さん達4人が休憩していた場所――そこは悲惨な事になっていた。
北上さんには、刺激がちょっとキツいと思って先に言っておいたけど、彼女は大丈夫だと言って現場を目の当たりにした。河北君は、そのまま走り出した先で、吐いていた。
そうだ。現場には佐竹さん達の死体が転がっていた。しかも内臓は引きずり出され、目も当てられない光景だった。しかも死体には、大きな毒々しいカラスと足が6本もある生き物が群がっていた。
「ユキー! 魔物だ! 魔物が佐竹さん達の死体に群がっていやがる!! ううう、駄目だ、見ていると吐きそうだ」
「我慢しろ。お前は俺達『勇者連合』の主力だろ! 俺だって我慢しているんだぞ。それより何か魔物がいる。警戒しろ」
俺だって我慢している……と言ったけど、本当の事を言うと、少しこの世界に慣れ始めてきている自分に驚いていた。
佐竹さん達が亡くなった事、無残な姿にされてしまった事は凄くショックだ。だけど今の俺は、その現実を受け入れられた。
吐きそうと言えば、この『異世界』に来てまだ間もない時に、草原地帯でウルフの群れに襲われた時の事。あの時の方が、そうだった。
このまま狼共の餌になる、殺されてしまうという恐怖で吐きそうだった。それが今は、いくらか耐えられる。強くなった? いや、慣れてきたという事だろう。
ウウウウウ……ガウガウ……
ハイエナのようだけど……やっぱり魔物だろう。足が6本もあるハイエナなんて、俺達の世界では存在しない。そんな哺乳類を見た事もない。
ハイエナは口の周りを真っ赤にして、ブルボアが既に喰い散らかした佐竹さん達の死体を漁っていた。
腰に吊っている剣をゆっくりと抜くと、仲間に再び視線と共に合図を送る。翔太は剣を抜き、鈴森はお手製の改造エアガンを取り出して構えた。
しかし足が6本のハイエナなんて……魔物なのだろうけど、脅威度が全く解らない。それでパっと見た感じ8匹もいる。カラスは問題ないとしても……あっ、そうだ!
スマホの存在を思い出し、サッと取り出して構える。カメラを向けると、【鑑定】を使った。
名前:六足ハイエナ
種類:魔物
説明:6本足のハイエナ。死肉を貪るが、集団でいる時は獲物を襲ったりもする。その肉は臭く、味も良くないので食用には向かない。
…………またなんとまあザックリとした……
翔太が顔を近づけてきた。ハイエナ共に気づかれないように小声で話す。
「どうだユキー、鑑定能力? 何か解ったか?」
「ああ、6本足のハイエナだという事は解った」
「見たまんまじゃねーーか!!!!」
緊迫した状況下で少しでも身体が思う通りに動くようにと、ちょっとジョークをお見舞いしたつもりだったが、翔太はそれに対して思い切り大声をあげて突っ込んでしまった。
佐竹さん達に群がっていた大きなカラスと、六足ハイエナが一斉にこちらを振り向く。こ、これは参った。不意打ちを喰らわすつもりが、そうでなくなってしまった。でも、やることは同じだ。
翔太はやってしまったって顔をしていたので、代わりに鈴森とトモマサに合図を送る。すると身を屈めて草場からハイエナ共に接近していた鈴森は、一気に姿を現して改造エアガンをハイエナ共に向けて撃った。
バシュバシュバシュバシュ
「うおおおおお!! 全部この俺が、すり潰してやるぜ!!」
トモマサが両手に斧を持って、ハイエナに突撃した。俺と翔太も剣を抜いて、トモマサの後ろにつく。
グルウウウウウウ!!
俺達の姿を捉えたハイエナ共は、逃げずにこちらに向かって身を屈めて威圧してきた。どうやらこのまま尻尾を丸めて引くつもりはないようだ。
「うおおおおお!!」
グルウウウウウ!!」
「だりゃああああ!!」
俺も翔太もハイエナに接近すると、剣を振った。しかしハイエナはすっと身軽にかわす。翔太が相手をしているハイエナは、翔太の持つ剣を避けた拍子に喰いついて離さない。その隙をついて、別のハイエナが翔太に襲い掛かった。
「翔太!!」
「う、うわあああ!!」
ビュンッ! ザシュッ!!
翔太に跳びかかろうとしたハイエナは、矢に打ち抜かれ転がった。北上さんのコンパウンドボウ。更に翔太の後方から、小貫さんと河北君が武器を手に援護についた。
よし、これならいける。
「大丈夫か、翔太!!」
「あああ、あ、あぶねーー!! もうちょっとで、喰らいつかれる所だったぜ!」
本当にそうだ、危なかった。頸動脈、もしくは喉に喰いつかれていたらと思うとゾっとする。翔太を失うなんて俺には考えられない。そう思うと、小貫さんの気持ちが俺にも解った気がした。
「どりゃあ、どりゃあ、どりゃああ!! ウワーーハッハッハッハ!! イヌコロの分際で、俺に喧嘩を売ってくるなんてな、いい度胸だぜ!! だがその代償は高くつくぞ!!」
トモマサが斧を思い切り振ると、襲い来るハイエナは真っ二つになった。肉片は飛び散り、トモマサの顔や身体には、ハイエナ共の飛び散った血が降りかかり赤く染まっていた。
それでもトモマサは気にしない。プロレスラーっていうのは、プロのレスラーだ。血にも慣れているし、怪我にも怯んだりしない。
それでも振り回す斧をかいくぐり、トモマサの腕に噛みつくハイエナをそのまま力任せに鷲掴みにし、地面に叩きつけて潰した。
何匹かやっつければ、怖気づいてにげる。そう思っていたけど、結局気が付くと逃げえたのはカラスだけで、ハイエナ共は俺達の前に全滅していた。




