Phase.115 『拠点から草原地帯へ』
「それじゃ、出発する!」
「行ってくるぜー、未玖ちゃん! いいもんあったら、お土産に持って帰ってくるからねー!」
「くれぐれも、気を付けてください!」
留守中の事は、大井さんと成田さんに任せた。他に、不死宮さん、松倉君、三条さんも残っている。
本当は翔太か鈴森も置いていきたい所なんだけど……まあ、大井さんや成田さんもいるし、いざとなったら未玖には丸太小屋に皆を連れて避難するようにって伝えているからまあ大丈夫だろう。
心配してもキリがないので、そう思う事にした。
拠点を出ると、俺達7人は森を抜けて女神像のある草原地帯にまで出た。一応、ウルフの群れやスライムもここで出現する事を確認しているので、それを皆に伝えて注意して進む。
先頭は俺と小貫さんと坪井さん。真ん中を北上さんと河北君。それで後ろを翔太と鈴森。そういう陣形で移動していた。
女神像の辺りまでくると、足を止める。周囲の草原地帯を見渡す、向こうの方には森や山が見えるけど、かなり草原は広範囲まで広がっていた。翔太が言った。
「たーのしみだなー」
「え? 何が?」
「ユキーはさあ、未玖ちゃんが寝泊りしていたっていう洞穴まで冒険した事あるんだろ?」
「ああ。でもそこへ行って帰ってきただけだぞ。ちゃんとした冒険はこれが初めてだ」
「でも行ったろ。俺は『異世界』に来てからは、この女神像から拠点までの往復しかしてねーからな。まあ、川には連れて行ってもらったけどよー、あれは近所じゃん」
川。そう言えばそうだった。今、思い出したけど、釣竿を持ってくるつもりだった。川には魚がいるし蟹や海老なんかもいた。釣竿があれば、結構遊べそうだし未玖もきっと喜ぶに違いない。今度はもとの世界へ戻った時に、忘れずにネット通販『jungle』で注文しておかないとな。
「そう言えば……」
北上さんだった。
「そう言えば、成田さんだけど椎名さんが言っていた事を考えていたみたいで、今日これから柵の設置は無理でも有刺鉄線をここまで引くって言ってたよね」
「ここまでか……確かに俺達の拠点からこの女神像まで、とりあえずは有刺鉄線だけでもバリケード代わりに張ることができれば、平日夜中に転移してくる時でも、ウルフやスライムとかの出現を恐れずに皆が待っている場所まで移動できるな。でも今日一日で、できるのかな」
「拠点には海と未玖ちゃんの他にも、松倉君とか三条さんに不死宮さんもいるから。皆で成田さんを手伝えば、可能なんじゃないかな」
ふむ。所々に支柱にする杭については、拠点内に森で伐り出した木材が大量にある。有刺鉄線も持ってこられるだけ持ってきてはいるし、足りなくなっても女神像が近いから成田さんか誰かがもとの世界へ転移して必要な分を調達しに走ればいい。
これから始まる『異世界』への第一歩も凄くワクワクするけど、戻ってきた時に成田さん達がどの程度まで俺達の拠点をまたパワーアップしてくれているかっていうのも、また楽しみだ。
鈴森がニヤリと笑った。
「つまりこの草原地帯までバリケードを広げるって事は、拠点からこの場所にいたるまでの森の中にも、バリケードを敷くって事だよな」
「まあ、そうなるな。当面の一番の目的は、女神像と拠点間を安全に移動できるようにする事だからな」
「すると……その間にある森の中も加えて、草原地帯も俺達の領土となるわけだ」
むっ! 確かに鈴森の言う通りだ。柵や有刺鉄線などバリケードで囲んだ内側、要はそれを俺達は自分たちの拠点と言って自分たちの領地としている。
「そうなるとあれだな。この草原地帯にも見張りはいるよな」
「そうなるな。でもそれなら、俺達のクランの仲間も増えた事だし、交代でやってもいいだろう」
「俺がやりたい」
「え? どういう事だ?」
「勿論、椎名や翔太がいない時……俺は未玖の安全を第一とする。約束だからな。それで最初に賭けた300万はチャラにしてほしいし。でもお前らが拠点にいる時は、俺は基本的に草原地帯の方にいてみたい」
「何か考えがあるのか?」
頷く鈴森。まあ、この草原地帯にもバリケードができればどっちにしても同じ拠点内にいる訳だし、別に問題はないだろう。むしろ、鈴森が自主的に警備してくれるというならありがたい事この上ない。
そんな会話を続けていると、坪井さんが「そろそろいいか」っと言って急かされた。俺は「ごめんごめん」と皆に謝ると、小貫さんの案内のもと再び草原地帯を歩き出した。
早朝の間に出発し、行動をしている。時間は十分にある。
小貫さんは佐竹さん達の遺体のある場所を覚えていると言っているし、これなら上手くいけば昼頃には戻ってこれるかもしれないなと思った。
だけど折角の冒険なんだ。できるだけ『異世界』を見て回り、持って帰れるものがあれば持って帰ろう。
俺にはスマホのアプリで【鑑定】も使えるし、新しい種類の薬草でも見つけて持って戻れば、きっと未玖や不死宮さんは喜ぶだろうな。




