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Phase.114 『調査メンツ』



 ――――土曜日。早朝、4時。


 こんな朝っぱらから、翔太や坪井さんが拠点近くで倒したブルボアの解体した肉を焼いて調理し始めた。なんでも、肉を喰らって気合を入れるらしい。


 ブルボアの肉は、物凄く弾力がありジューシーで美味しかった。でも脂身が多く、とびきり美味しいって言えばそうなんだけど、年齢30を超えて朝っぱらから食べるものじゃないと思った。


 できれば、パンがいい。サンドイッチとかトーストとかそういうのがいい。それとサラダとゆで卵と珈琲。ブルボアの肉は確かに美味しいけど、夜に食べるのがいいと思った。もしくは、昼か。それに肉とかガッツリと食べてしまったら、その後に何かするとしても、きっと動くのがつらくなってしまいそうだ。


 翔太と未玖が口の周りを、テラッテラに光り輝かせてこちらに歩いてくる。


「いやーー、喰ったなー! もう駄目だ。これから冒険の旅に出発だっていうのに、これは失敗したかもしれん」

「当たり前だろ。坪井さんと一緒に調子に乗って、朝っぱらからこんな脂っこい肉で、焼き肉なんてして食べるから……って、翔太! ひょっとして、お前もついてくるつもりだったのか?」


 きょとんとする翔太。


「え? そりゃそうだろ。めっちゃ面白そうなのによ。まさか、置いていくつもりだったのか?」

「いや……」


 置いていくつもりだった。


 でもそれは別に意地悪でもなんでもない。よく考えての事だった。俺は行くつもりだったので、翔太には留守を任せようと考えていた。


 拠点の外は危険だし、途中その小貫さん達を襲ったブルボアに遭遇する確率もある。そう考えると未玖は間違っても連れていけない。


 もしも留守中にこの拠点が襲われるような事があっても、翔太なら未玖を第一に守ってくれる。柵だってあるし、強固な丸太小屋だってある。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺も行く俺も行く俺も行く俺も行く!!」

「うっさいうっさい、解った解った!! 連れて行くから、もうちょいボリュームを落とせ!!」

 

 とりあえず、食後の珈琲を頂きながらも外に出るチームを調査隊と名付けた。調査隊には、俺と小貫さん、翔太と鈴森。それに自分から行きたいと志願してくれたし、心強さが半端ないので坪井さんをエントリーした。


 それぞれにそれを伝えると、皆自分のテントなどで準備を始める。坪井さんは平気そうだけど、鈴森はちょっと顔色があまり良くない。やっぱり、朝っぱらからのブルボアの肉が祟っているんだろうな。


「椎名さん、私もついて行こうと思っているんだけど」

「北上さん! でも翔太も鈴森も一緒にいくからな、北上さん達には拠点に残って欲しい。未玖が心配だし、北上さんと大井さんなら、もう100パーセント信用しているし安心なんだ」


 信頼しているという言葉に北上さんも大井さんも、嬉しそうに笑みを見せた。


「それなら海が残るわ。ねえ、海。いいでしょ?」

「私はそれでもかまわないわ。拠点に残っていても、やる事は結構あるみたいだし」


 風呂の改良、男女別トイレ、新しい住居にできる小屋、テントの設営、畑仕事、柵の補修と強化、有刺鉄線を女神像のある草原地帯にまで広げる。調理場等の設備を設置、拠点の見張りと防衛。確かにやる事は沢山ある。


「危険なんだよ」

「知っているよ。その点については、椎名さんよりも私の方が理解していると思う。あともう一つ。坪井さん、とても強そうだけど、このクラン内で今一番の攻撃力を誇っているのは、私と海だよ」


 コンパウンドボウ。北上さんの言った事は確かに一理あった。ブルボアに襲われた時に、北上さんが放ってくれたコンパウンドボウの一矢。ブルボアの身体に命中し、簡単にその身体を貫いて向こうに抜けた。あれだけの貫通力があるこの武器なら、軽自動車位の大きさのブルボアが出ても有効なダメージが与えられるだろう。


「って事でついて行っていいでしょ?」


 少し甘える目で俺を見て、そう言う北上さん。誘惑されまいと、俺は咄嗟に目線を外すも……結局押しに負ける。北上さんを連れていってもいいと言ってしまった。その事で北上さん本人よりも喜んだのは、翔太だった。


「やったーー!! 美幸ちゃんも一緒に来てくれるんだね。まあ俺がいるからには、美幸ちゃんを絶対に守ってあげるからねー、安心してよ」

「はーーい、それじゃ期待しているから」

「まっかせなさーーい!」


 翔太も翔太だけど、北上さんも北上さんだなと思った。だけど何にしても皆仲良くやってくれている事が何よりの事だと思った。


「ぼ、僕も行きたいな!!」


 調査隊を編成し、準備を終えると皆で集まった。そこで河北君も調査隊に名乗り出てきた。これは……ちょっと予想外だった。


 河北君はメガネっ子で、如何にもインドア派な感じ。身体も小さく、細い。本当に連れて行ってもいいのだろうかと思う。それに河北君を連れて行けば、調査隊は全部で7人か。流石にぞろぞろとして多いんじゃないか。


「駄目ですか? 僕、もっとこの『異世界(アストリア)』について知りたいんです。多くの魔物や動植物、世界を見て研究したいんです。それがきっと、この先役に立つとも思っています」

「うーーん。まあ、そこまで言うなら……だけど守ってもらうつもりなら、連れていけない。佐竹さん達の遺体を埋葬するっていう目的もあるから、それも手伝ってもらう事になる。魔物とだって戦闘になったら戦わなくてはならないし、自分だけ逃げるとかそういうのもできない」

「解っています! ちゃんとできるかはわかりませんが、連れて行ってくれるなら努力します! お願いですリーダー、僕も……」

「ちょ、ちょちょ、ちょっとリーダーっていうのはやめて。なんか変な感じがする。解ったから、それじゃ覚悟はできているって事でいいね」

「はい!」

「じゃあ河北君も直ぐに準備を終えて、ここに集合してくれ。何があるか解らないし、余裕をもって行動する為にもう出発する。だから急いで」

「はい! ありがとうございます!」


 俺に翔太、鈴森に北上さん。小貫さんと坪井さん、最後に河北君。ついに調査隊のメンツが決まった。

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