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Phase.113 『レベル上昇 その2』



 ――成田さん曰く。


「僕はちょっと解らないな。因みに僕はレベル3だけど、たまに確認したりはしていて……あっ! 3になってる! って気づく程度だ。レベルアップで何かできる事が増えたとか、力が増えたみたいな事は感じないかな」


 ――小貫さん。


「俺はレベル4だったよ。今はスマホをあの怪物みたいなブルボアに破壊されて、確認する事もできないけどね。佐竹達も同じくらいだったかな」

「レベル4って凄いな」

「ああ、俺達のクラン『竜殺旅団(りゅうさつりょだん)』は、この世界をあちらこちら冒険しまくっていたし、勿論勝てそうな奴ばかりに挑んでいたけど、魔物を倒しまくっていたから。だからそれで経験値を稼いでいたのかもしれない」


 ――大井さん曰く。


「私達もレベルが上がるとどういう事になるのかっていうのは、全ては解っていない」

「全て?」


 全てって言うって事は、少しなら解るって事か?


「私と美幸のいたクラン、『幻想旅団(げんそうりょだん)』じゃ銃を持っていた人がいたわ」


 鈴森の表情がピクリと動く。ミリオタだもんな。しかし銃と言えば、この『異世界(アストリア)』で最初の頃に出会った長野さんが所持していたハンドガンと散弾銃――それを思い出した。


「『異世界(アストリア)』には、知っての通り危険な魔物がその辺に徘徊しているわ。そんな場所で銃を所持しているっていうのは、物凄く心強い。だから以前に銃を持っている人に、それを何処で手に入れたのか聞いてみたの。誰かから購入しているのなら、私と美幸も購入したいし銃の所持に関してもこの『異世界(アストリア)』じゃ法律もないから」


 確かに銃が手に入れば、かなり安全に身を守れる。ブルボアが襲ってきても対抗できそうだ。だから皆、大井さんの話に耳を傾けていた。


「端的に言ってしまうと、どうやらレベルを5まであげると銃が手に入るとその人は言っていたわ」


 翔太が「どういう事だ? もっと解りやすくいってくれ」と困惑している。


「何処かで銃などが売られている場所があって、レベル5になればそこで銃を売ってもらえる。そういう話をその人はしていたわ」

「何処か? 何処かって?」

「それは私には解らない。それ以上は、教えてくれなったから。普通にネトゲとかそういうノリで考えれば、運営からとかかしら」


 ふむ。そう言えば長野さんがそういう意味深な事を言っていたっけ。


 どちらにしてもレベル2の俺が5になるまでは、まだ暫くはかかりそうだ。運が良ければ、それまでにまた長野さんがここの拠点に寄ってくれるかもしれないし、待ってみるのもいいだろう。勿論、情報収集は続けながら。


 アプリに表記されているレベルと銃の入手に関しての話が、一旦終わるとそれを待っていたかのように坪井さんが立ち上がって言った。


「それで!! 明日は、その佐竹さんって人達の遺体や荷物を回収しに出かけるんだろ? 誰が行くんだ?」


 そうだった。それも考えないといけなかった。まずは小貫さんだろう。小貫さんに案内してもらわないとその場所が解らない。


「荷物の回収はするけど、遺体の回収はしない。できれば拠点まで連れ帰って、きちっと埋葬してあげたいけれど、それにはリスクが大きすぎる。だからこうする。折り畳みの式のスコップを持っていく。そして佐竹さん達を見つける事ができて、尚且つ周辺の安全が確認できればその場で埋葬して戻る」


 翔太は、小貫さんをチラリと見た。


「えっと、それじゃ小貫さんは必須だろ? 小貫さんがいなとその場所は解らない訳だし」


 翔太にそう言われると、小貫さんは身体を震わせはじめた。小貫さんが言うには、佐竹さん達を襲ったブルボアは軽自動車程の大きさだったという。その時の悪夢を思い出して、震えているのだ。


 しかも小貫さんは、そのブルボアの子供を食ったと言っていた。だからその殺して食ったブルボアのニオイを母親のブルボアが嗅いで、追ってきているのだと。


 ここは異世界だし、常識では測れない。実際に、佐竹さん達が襲われて殺されているのだから、その話も真実味を帯びてくる。


 俺は、できるだけ穏やかな口調で小貫さんに言った。


「小貫さん。仲間が殺され、小貫さん自身もとても怖い目にあったのは重々承知している。だけど俺はこの拠点周辺からろくに移動もしていないし、まず佐竹さん達を見つけるなんて無理だ。できれば案内を小貫さんに……」

「任せてくれ」

「え?」

「当然だ! 俺は【喪失者(ロストパーソン)】だ。仲間も失い、もうもといた世界にも戻れない。スマホも無い、仲間もいないんじゃ……これからの『異世界(アストリア)』での生活は地獄と化していたかもしれない。だけど椎名さん達が救ってくれた。仲間に入れてくれた。拠点に迎え入れてくれた。だからブルボアが恐ろしくても俺は、協力できる事は協力する」

「小貫さん……ありがとう。でも俺も行くから……ブルボアが出てもお互いに協力し連携して上手く乗り切ろう」


 小貫さんの目を見つめてそう言うと、小貫さんは手を差し出してきた。俺はその手を握り返し握手を交わす。すると俺と小貫さんの握手する手を、更にその上から大きな手が包み込んできた。本気でもないのに、手が痛くなるほどの握力。


「とうぜん、俺もその冒険ツアーに参加できるんだよな!! 心配すんなよ。ブルボアってバケモンが出たら、この俺がぶん殴って倒してやるぜ!!」


 坪井友将(つぼいともまさ)さん!! この人は現役プロレスラーだと言っていたけど、これはかなり心強い。この人と喧嘩なんてしたら、俺と翔太と鈴森の3人がかりでも一瞬でやられてしまうだろう。


 俺は坪井さんに向かって「是非、頼むよ」と言ってちゃんと握手をしなおした。

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