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Phase.109 『沖縄料理』



 ――――金曜日。昼、高円寺の会社にて。


 時計の針がお昼を回るなり、俺は会社を飛び出した。


 翔太に続いて、北上さんと大井さんも俺の後を追ってきたので、4人でゆったりと食事できるところがいいなあと沖縄料理専門店に入った。


 このお店はご想像の通り、居酒屋である。会社帰りに何度か翔太と酒を飲みに来たこともある。だけど最近では、ランチもやっている事に気づいたのでいつか入ろうと決めていた。


「めんそーれ! 何名様ですか?」

「めんそーーっれ! 4人でーす」


 翔太が答えてくれた。店員は「それじゃご案内します」と言って、4人で丁度いいテーブル席に案内してくれた。さてと、何を注文しようかな。


「ユキー、海ブドウ好きだったよな。海ブドウ注文する?」

「嫌だよ、俺に真昼間から酒を飲めっていうのか? しかも仕事も後半戦あるんだし、無謀だろ。ってゆーか、怒られるわ」

「そうか、じゃあ俺はこのラフテー丼にしよーっと!! めっちゃ美味そうじゃねえか、ラフテー丼って! 角煮丼みたいな感じかな?」

「大きい声でやめろって、恥ずかしいだろー」

 

 翔太とのやり取りを見て北上さんと大井さんが笑う。俺もつられて笑った。


「それじゃ、決まった? 店員さん呼ぶよ」

「ああ、頼む」

「すいませーーん」


 北上さんはもずくと海老の天ぷら定食で、大井さんはゴーヤチャンプル定食を注文し、俺はソーキそばを注文した。実は、ソーキそばが大好きだったりするので新宿にまたそのソーキそばオンリーのお店があったたまにそっちまで出かける時に、食べにいったりするのだ。


「うおーーー!! 美味そうだな!! よっしゃー、食べるぞー!!」

「頂きまーーす」


 翔太の食べるぞって言葉で皆、箸を手に持ち食事を始めた。


 食べている時の会話は、やっぱりもっぱら『異世界(アストリア)』の話。そして未玖にもこの店にあるような沖縄料理を食べさせてやりたいって話から、新しく仲間になった成田さん達の話――そこから小貫さんの話題になった。


 小貫さんはあの日、俺達の拠点から旅立った後にかなりの大型のブルボアという猪の魔物に襲われた。それで佐竹さん、戸村さん、須田さんはそのブルボアに殺されてしまった。


 小貫さんは、いのちからがら何とか俺達の拠点にまで辿り着く事ができた。小貫さんは言っていた。俺達を巻き込むかもしれないけれど死にたくなかったと――


 それについては、その後話を聞いてどういう事なのか理解した。


 まず小貫さんは、なぜ女神像からもとの世界へ転移して逃げなかったのか。いくら俺達の拠点が柵や馬防柵、有刺鉄線を張って備えているからと言っても日本に戻った方がよっぽど安全だ。俺達の使っている草原地帯にある女神像の場所も、小貫さん達には既に出発前に教えていたはず。


 つまり小貫さんには、もとの世界へ戻れない理由があった。ブルボアに襲われた時に、転移アプリを使用できるスマホが壊れてしまったのだ。小貫さんは、だからもとの世界へ戻れず俺達の拠点を頼った。


 大井さんが言った。


「そういう人の事を【喪失者(ロストパーソン)】って呼んでるわ」


 俺も思ったけれど、翔太が先に聞いた。


「え? 誰が?」

「解らないけれど、いつからか今の小貫さんや未玖ちゃんのようにスマホを紛失したり、壊れてしまったりしてもとの世界に戻れなくなってしまった人達の事をそう呼んでいるの。私も美幸も『幻想旅団(げんそうりょだん)』で活動していた時に、そういう人に会ったことも何度かあるし、実際に呼ばれていたし名乗っている人もいたからそれで定着しているんだと思う」


 【喪失者(ロストパーソン)】か。なるほどな。


 とりあえず、その【喪失者(ロストパーソン)】である小貫さんには、昨日のうちに話して俺達のクランに入ってもらった。小貫さんにとっても、仲間もおらずもとの世界へ戻れず行く当てもない状態に陥っていたので、良い申し出だったと思う。


 俺達にとっても、小貫さんを仲間として迎え入れて戦力を増強できる訳だし、小貫さんも『異世界(アストリア)』で、身の落ち着ける場所ができる訳でウィンウィンの関係だと思った。


 だけど小貫さんは言っていた。


 その大型のブルボアは、小貫さん達を狙っていたと――いったいどういう事なんだろう。疑問に思い更に突っ込んで話を聞くと小貫さんは言った。


 最初に小貫さん達に会った時に、そう言えばブルボアを狩って食べたと言っていた。凄く美味しかったと――


 …………


 今回小貫さんを襲った軽自動車位のとても大きなブルボア、そいつは小貫さん達が殺して食べたブルボアの親だと小貫さんは言った。


「間違いない、アレは俺達が喰ったブルボアの母親だ。奴の子供を喰った俺達の身体からは、奴の子供のニオイがしているんだ。それできっと俺達を喰い殺す為にニオイを嗅いで追い掛けてきたんだ」


 そんな馬鹿な――昨日、小貫さんからその話を聞いた時はそう思ったけれど、『異世界(アストリア)』では不浄なものを浄化する力や、植物の成長を加速させるアルミラージの角なんてものもあった。


 ブルボアは、この俺達の生れた世界には存在しない魔物だ。もしもそういう子供を追跡できる能力があってもなんら不思議でない。


 仮りにそんな能力が本来のブルボアには無いと言われても、小貫さんを襲った個体はその力を備えていたのかもしれない。


 異世界なのだから、この世界の常識に当てはめて考えていても仕方がない。


 ……だとしたらそのブルボアは、小貫さんを追って俺達の拠点にやってくるかもしれないと小貫さん自身は言っていた。だから巻き込んでしまうと――


 どちらにしても――


 俺は小貫さんを放り出して見殺しにする気も無いし、その凶暴で恐ろしいブルボアをそのままにしておくつもりもなかった。

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