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Phase.108 『ブルボアの大きさ』



「私の名前は、不死宮鬼灯(ふじみやほおずき)と言います。見ての通り腕力には自信はないですけど、色々とお役に立てると思います」

「おおおおお、なんてチャーミングな女の子なんだ! 俺、俺は秋山翔太――!! よろしくね、鬼灯ちゃん!!」


 まったくもう、翔太は!! 未玖と顔を合わせて溜息をつく。


 翔太がお気に入りのこの綺麗な黒く長い髪の女の子は、なんとなく不思議な感じがした。最初は暗いイメージだったけど、なんていうか影のある感じ。北上さんや大井さんとは、まったく別のタイプ。


松倉勝(まつくらまさる)だ。よろしく」

「こちらこそ、よろしく」


 次は、とっても普通な感じの青年。松倉さん。坪井さんや不死宮さんのように何か特徴があるような感じの人じゃないけど、それでもこれから仲間入りして付き合っていけば色々と見えてくるんだろうな。


 そして6人目、最後の人は女の子だった。


「わ、私は三条志乃(さんじょうしの)です。あまり運動などは得意ではないですけど、和希君と同じくゲームが好きです。そ、それにアニメとかラノベとかそういうのも好きなので、何かそういうので活躍できればって思っています。よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしく」


 握手を交わす。これで小貫さん以外、全員の自己紹介が終わった。


「それじゃ、悪いけど今日の所はこの場所を使ってくれ。拠点の周りは見ての通り、森で大量の木に囲まれているし、木材を手に入れようとすれば魔物だけ気を付ければ容易に伐りだしにいけるから、また君達の使う小屋を作ろう。もしもテントの方が良ければ、それはそれでいいし……とりあえず、今日はここで頼む。明日からは、拠点の中心辺りとか好きな場所に移ってもらってかまわないから」

「解った。早速僕達をクランの一員として迎え入れてくれて、感謝する。ありがとう、椎名さん」


 しかし成田さん達6人も新しい仲間ができるなんて、かなりこの拠点も活気がでてきたと言ってもいいだろう。


 佐竹さん達が拠点に寄った時には、宿泊させてもらうお礼にって柵の補強や増設、小屋作りなんかも手伝ってくれた。もしも佐竹さんと出会ってなくて、翔太と未玖と3人でなんとかやっていたらもっと圧倒的に時間がかかっただろう。


 そう思うと、一気に仲間が増えたことにより、これからはもっと色々な事ができるに違いないと思った。


「こ、小貫さん!!」


 大井さんの唐突な声に、一同振り向く。すると俺達の直ぐ目の前に、小貫さんが立っていた。もう歩けるようだけど、なんだか目が虚ろで様子が少しおかしい。


 未玖と大井さんが小貫さんに寄り添い、俺達のいる焚火の近くに座らせてくれた。


 俺も立ち上がって、小貫さんのもとへ駆け寄る。


「小貫さん! もう大丈夫なのか? いったい何があったんだ?」

「椎名さん、それに皆さん。助けてくださってありがとうございます。なんとかこの拠点を目指して、命からがら逃げてきたんだが……途中何度も襲われて、必死に逃げて……それで椎名さん達を巻き込みたくないという思いもあったんだけど、どうしても死にたくなくて……助かるにはそれしかなくて……うっ……うっ」


 いきなり嗚咽を漏らし始める小貫さん。そんな小貫さんを大井さんは優しく抱きしめて「大丈夫です、大丈夫ですよ」と何度も囁きかけていた。


 俺は小貫さんをここまで追い詰めた何かの正体も気になったけど、大井さんの慈愛精神というかそういう女性の持つ優しさに驚いていた。


「うっ……すまない。大井さんって言ったね。もう大丈夫。少し取り乱してしまったけれど、もう大丈夫。もう気持ちの整理も……多少はできたと思う」

「それで――それでいきなりなんだけど、何にやられたのか聞きたい。さっき、巻き込みたくないって言っていたけど、どういう訳なのか説明してほしい。それと他のクランの仲間、佐竹さんや戸村さん、須田さんは? 近くにいるのか?」


 鈴森が、いつになく落ち着いた冷静な声で呟く。小貫さんを、取り乱させないようにと思っての事だろう。


「仲間があんたと同じようになっているのなら、直ぐに助けにいかなければならないぞ。捜索隊を出さないと、魔物の餌になる。だから、仲間のいる場所を俺に教えろ。助けに行ってやる」


 本人の目の前で、魔物の餌って……でも鈴森の言葉に間違いない。一刻を争う事態なら、相手に気を遣うとかそんなのは後でいい事だ。まずはどうしなければならないのか? それが先決だし先に思った通り鈴森は鈴森なりに気を遣っている。


 しかし小貫さんは、項垂れるように顔を落とした。


「佐竹さん達は? 小貫さん、教えてくれ!! そうじゃないと、助けにもいけない!!」


 新しくできた仲間達のいる前で気は進まなかったけれど、大きな声を出して小貫さんに迫った。すると小貫さんは再び顔をあげた。


「……佐竹達……皆はもう殺された……」

「こ、殺された? 殺されたって何に!? 魔物か?」

「ブルボアだ。ブルボアが襲ってきて、皆を殺した。椎名さん達のこの拠点を出発した俺達は東へ向かった。それである程度進んだ所で休憩をとった。その時に襲われたんだ」

「え? でも」

「俺の見ている前で殺されたんだよ!! 殺されて喰われていた!!」


 ……3人も殺された。その事実に全員が息を呑んで押し黙った。暫くして、翔太が思い出したかのように言う。


「え? でもあれだよ!! ブルボアなら小貫さんを助けた後に遭遇したよな!!」

「え!? やっぱりブルボアが俺をつけてきていたのか!?」


 震えあがる小貫さん。しかし対照的に翔太は、笑って見せた。それはもう心配ないと小貫さんに伝える為でもあった。


「あはは、大丈夫だって。ブルボアなら、ちょっとヤバい相手だったけど俺とユキーと孫いっちゃん、そしてそこにいる我がクラン最強の攻撃力を誇る戦乙女、美幸ちゃんで倒したよ」


 翔太の調子の乗ったセリフに、フフフと笑う北上さん。ひょっとして、戦乙女って所が気に入ったのかもしれない。


「たたた、倒しただってええ!? う、嘘だ!! あいつを倒せるなんて……」


 翔太はにこりと笑う。


「ほんとだって、ちゃんと倒した。新しく作ったこの拠点の調理場に、そいつの肉とかあるから見てみればいい。本当にやっつけたんだって。このくらいの大きさのスゲー奴だったよな」

「ああ、確かに」


 翔太がこの位のブルボアだと、手を広げて小貫さんに伝えた。それは大型犬かそれ以上の大きさ。だけど小貫さんはそれを見て、溜息を吐いた。


「違う……そいつじゃない。俺達を襲ったのは、軽自動車位の大きさの奴だ」


 け、軽自動車位の大きさ!! 軽自動車位の大きさの猪の化物が小貫さん達を襲ったのか!? その事実を知って新メンバーを含める俺達は全員凍りついた。

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