Phase.107 『六人』
「椎名さん達はこの場所を拠点にしているし、仲間とクランも作っていると聞いたけど」
「ああ、そうだけど」
「クランの名前は?」
「『勇者連合』だ」
中二病爆発って感じで、ちょっと恥ずかしい。でも成田さん達は、この名前を聞いて笑い転げたり馬鹿にしたりする様子は一切見せなかった。そればかりか――
「椎名さん」
「え、あ、はい!」
「僕達6人を、その椎名さん達の『勇者連合』のメンバーに入れて欲しい」
この急展開には勿論驚いたけど、成田さん達は真剣な感じだった。この『異世界』ではもとの世界のような法律もルールも無い。なんの罪を犯しても、犯罪者にはならない。
だからこそ、用心深い俺や鈴森は警戒していた。例えばだけど、成田さん達にもしも悪意があれば、俺が到着する前に6人もいるんだから、何かアクションを起こしていたに違いない。坪井さんが本気になったら、俺や翔太なんて簡単に捻って投げ飛ばされて終わりだろうし……だけど、そんな気配も素振りも一切ない。
それにそもそも、俺や翔太の目的はこの『異世界』の冒険だ。拠点を大きく発展させるという最初に立てた目標もあるし、その為には仲間も増やしたいとも言っていた。
信用できそうな人が、自ら俺達の仲間になりたいと現れたら、断る理由なんてないのではないだろうか。佐竹さん達だって、いい人達だった。
「だ、駄目かな? 僕達を仲間にしてくればきっと役に立つと思うけど」
「…………」
鈴森や北上さんは、なんともと言った顔をしている。二人は俺達の仲間になったばかりだし、あえてそうしているというか……弁えているのかもしれない。
二人が判断できないとなると、翔太だ……
しかし翔太の顔を見ると、もう成田さんの仲間にいる女の子に情熱の視線を送っていた。
……はあ、駄目だこりゃ。
「解りました。それじゃ成田さん達6人を俺達の仲間に加えましょう」
『うおーーー、やったああ!!』
坪井さんを筆頭に、6人全員が喜んでいる様子だった。俺は続けて伝えるべき事を伝えた。
「一応まだここには簡単なルールしかないけど、それからまずは従ってください。そうすれば皆さんを俺達のクラン、『勇者連合』のメンバーとして歓迎します」
成田さんが言った。
「解った、従おう。それでそのルールというのは?」
「これから順に作っていこうとは考えているけれど、まずは単純な事だ。何かする時や何かあった時は、必ず俺かここにいる秋山翔太に報告してくれ」
「え? 俺?」
「そうだな、お前だけじゃ確かに不安だから……うん、北上さんにしよう。俺か翔太か北上さんに了解をとってくれ」
6人全員が頷く。
「あとは当たり前の事だ。仲間同士でいがみ合ったり喧嘩をしない。困っている者がいたら、できるだけ協力し合う事。長く一緒にやっていく事になったら、喧嘩の一つや二つもするかもしれない。だけど大人として分別をもって行動して、いつまでも険悪なムードを続けない事。思い付くのは、とりあえずその位かな」
「ウフフフ、ずいぶんと可愛らしいルールなのね。でもそれなら問題はないわ」
ん? 先ほどから翔太が視線を送っている女の子。さらっとした黒く長い髪、そしてなんとなく暗い感じがするけれど、綺麗な人だと思った。その子を見ていると、成田さんがはっとして言った。
「そうだ、そうだ! それならちゃんと自己紹介、名前くらいは名乗っておかないとな。僕と坪井君はもう名乗ったと思うけど」
「北上美幸です。向こうにいるのは、大井海と菅野未玖ちゃん。それにテントの中で休んでいるのが、小貫さん?」
「小貫久志さんだったかな」
「おいおいおい、俺も紹介してくれよ! 除け者みたいじゃねーかよ。俺の名前は秋山翔太。そしてそっちの不愛想なのが鈴森孫一だ。俺とユキーと美幸ちゃんと海ちゃんは、同じ職場の仲間なんだー」
オンラインゲームだったら、完全に言わなくていい情報。だけど、ここはリアルか。
翔太達が自己紹介すると、成田さんも仲間に名を名乗るように目配せをする。実はもう一人気になっていた子いた。眼鏡をかけた、如何にも勉強のできそうな男の子。その子が立ち上がって言った。
「ぼぼ、僕の名前は河北和希。ここ、これから皆さんの仲間に入れていただけるなんて興奮しています。よ、よろしくお願いします」
「ああ……こちらこそ」
握手をする。翔太、それに北上さんも握手を……と思ったら、新しく仲間になった人達と自己紹介をしているという事で、北上さんが大井さんと未玖もここへ呼んでいた。今、この場には小貫さん以外全員が集まっている。
俺はどうしても気になったので、河北和希という子に気になっている事を聞いてみた。
「一つ聞きたいんだけど、河北君。君はもしかして小学生かな?」
「い、いえ。中学生です」
「ちゅ、中学生!?」
これ見よがしに翔太が驚いて見せた。
「ででで、でも僕ゲームオタクでファンタジーゲームとか凄く詳しくて……それに興味があるからきっとこの『異世界』でも役に立てると思うんです」
「あはは、そうなんだ。でも実は俺も河北君と一緒なんだ」
「え、それって?」
「俺もゲームやアニメが大好きで、ファンタジー世界に憧れていた」
そう言って笑いかけると、河北君も笑顔で俺の手を握って握手してくれた。




