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Phase.106 『折り入った話』



 アオオオオオーーーーーンン


 何匹ものウルフの遠吠えが聞こえた。昨日は拠点近くでブルボアを仕留め、おまけに兎も仕留めた。だからそれらの血のニオイが辺りに漂っていて、特別にウルフを引き寄せているのではと思った。


 俺は、決断をした。この突然俺達の拠点の前に現れた男女6人を、拠点内に入れてやる事にした。


 周囲はもう闇が広がっていて、話を続けるにしても柵の外側にいつまでもいたくなかったのだ。


「ありがとう、椎名さん」

「ああ、その代わり拠点内……柵の内側である俺達の敷地内では、勝手な事はしないでくれ。何かするなら、必ず許可をとってくれ」

「勿論だとも」


 教えていいのかどうか思ったけれど、この拠点に入れるより安全かもしれないと思って、草原地帯にある女神像のある場所を成田さん達に教えた。それなら俺達の拠点にわざわざ厄介にならなくても、もとの世界へ転移して戻ればいい。


 だけど成田さんや坪井さん、その他の仲間達はどうしても俺達の拠点に入れてほしいと言った。もちろんどうするべきか悩んだのだが、北上さん達も彼らを拠点にいれることに賛成したのでその直感を信じる事にした。


 北上さんと大井さんはこの『異世界(アストリア)』で、俺や翔太なんかよりも遥かに多くの転移者と出会っている。それに俺達よりも先に仲間と共にクランを作って活動していた位だから、人を見る目は少なくとも俺より上だと思った。


 敷地内のある一角へ成田さん達4人を誘導する。そこはまだ草が生い茂っている場所もある場所だったが、俺達の拠点の中核である丸太小屋からは離れていて、柵の内側でもあった。


 その場所でテントを設営したり、焚火をしたりしてもいいと言った。水も、井戸があるので自由に使っていいと。


 だけど……そう言えばトイレの問題があった。それについては仕方ないので、丸太小屋のトイレを使っていいと伝えた。勿論、小屋にあるものには何も触れないでくれと約束をしたうえでだ。成田さん達は、快く了解してくれた。


 そして話したい事があるとの事だったので、俺は翔太と鈴森と北上さんを連れて、成田さん達がいる場所へお邪魔した。


 未玖と大井さんには、念の為に丸太小屋の方へ残ってもらった。


 まあどちらにしても、未玖はあまり知らない人と会いたがらない。北上さんと大井さんには、ようやく笑顔を見せているようだけど……兎に角人見知りだ。


 成田さん達が自分達のテントを設営し終わると、焚火をし始めた。


 薪を森に集めに行くと行ったが、さっきウルフの遠吠えが聞こえたので危険だと言って俺達の大量に備蓄している薪を分けてあげた。ついでに酒も分けてあげると、成田さん達は焚火に網を置きウインナーやらトウモロコシやら色々なものを焼き始め、俺達にもお礼に食事をご馳走すると言ってくれた。


 ふむ。言われてみれば、晩飯をまだ皆食べていない。


 俺は大井さんと未玖にも声をかけて、焼いた肉やら野菜やらとりにおいでと伝えた。因みに小貫さんは、昼間にちょっと目覚めていたらしいけど、今はまた眠ってしまっているらしい。とりあえず、また目覚めるのを待つしかない。


 成田さんは、ビールを片手に持つとそれを掲げた。皆も掲げている。


「今日、椎名さん達と僕達を巡り合わせてくれたこの出会いと、これからの異世界ライフに乾杯!!」

『カンパーーイ!!』


 俺や翔太達も酒を飲み始める。すると早速成田さんは、自己紹介の続きと話を始めた。


「椎名さん」

「は、はい」

「椎名さん、それに皆さん。実は折り入ってお願いがあります。僕達をあなたの仲間に入れて欲しい」

「い、いきなりだな」

「ここは、異世界。ロールプレイングゲームならこういう展開だってあるでしょ?」

「そ、そりゃあまあ。でも、なんで……また。女神像だってこの近くにあるのに」


 俺の質問に成田さんは、微笑んだ。


「僕や坪井君、僕ら6人は椎名さん達のようにクランを作っている訳ではないんだ。皆とはそれぞれこの『異世界(アストリア)』で出会って知り合った仲間。お互いに気も合って仲良くなって、最近じゃこの世界を冒険する時は、いつも都合を合わせて一緒に行動している。つまり信用できる仲間達だ」


 皆、頷く。成田さんの話に耳を傾けながら、酒を飲み続けた。


「皆、普段は仕事をしていたり……坪井君が現役のプロレスラーだって話はもう聞いたと思うけれど、皆もとの世界ではそれぞれの生活があるんだ。でも気持ちはもう、こっちの世界へどっぷり浸かってしまっていると言っていいかもしれない」


 確かにそうだ。俺や翔太だってもう、こっちの世界にどっぷりと浸かってしまっている……会社なんて行かなくていいなら、俺はきっとずっと毎日この世界にいるだろう。


 この世界が非常に危険な場所だって事は理解しているけど、こんな幻想世界が現実にあるのだと知ってしまったら、気持ちを抑えてはいられない。ワクワクが止まらない。


「それで僕ら6人は、いつも一緒に冒険を重ねてきた。まあ偉そうには言ったけど、実際はまだ2カ月半ちょいの付き合いなんだけどね。それで……最近の事、僕達と同じようなグループにこの世界で出会ったんだよ」


 それは俺達もあった。佐竹さん達がそうだった。翔太が成田さんの話に食いつき始めたのか、続きを催促する。


「それで、それからなんなんだ? その人達とも友達になったのか? それで友達を増やそうと、俺達にも声をかけてきた訳か」

  

 翔太の言葉に成田さんは、顔を落とした。


「……違うんだ。そのグループとは挨拶程度のものを交わしただけだったんだけどな。そのグループと別れて暫くして……彼らの悲鳴が聞こえてきたんだよ」

「……悲鳴。悲鳴って」

「そのグループのものだと思ってね、慌てて助けに行ったんだ。すると見るも無残に皆殺されていた。魔物にね」

「ま、魔物……」

「衝撃的だった。人が殺されているなんて、見たこともなかったから……」


 成田さんの話しに俺たちも目線を落とす。


「その人達を殺した奴は魔物というよりは、正直化け物だと思ったよ。なんせ身体は白くて気持ちの悪い竜みたいなのだったから。顔は7つもあった。僕達はその人間の内臓が辺りに飛び散った中で、その血と肉を啜る化け物を目にして一目散に逃げたんだ。坪井ですら、震えていた位だった」


 白い7つの首の竜? 


 俺もワイバーンを見た。この『異世界(アストリア)』にも竜はいるんだろうけど……なんとも恐ろしい怪物がいるのか。


 成田さんは、俺の顔を見て続けて言った。

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