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Phase.105 『出会いは唐突に』



 当たり前だけど、辺りはもう真っ暗になってきていた。しかもなんとなく、いつもよりも暗い気がする。


 空を見上げると星は無く、二つある月も陰っていた。つまり、曇っているからだった。


 いつもよりも暗闇の濃い世界に俺はなんだか無性に恐ろしくなって、転移するなり急いで自分の拠点へと足を急いだ。


 森を抜ける所で拠点の灯りが見えた。焚火やライト、ランタンなどの灯り。それが目に入ると、更に足取りが早くなった。早く皆のいる拠点に入りたい。


 柵の近くまでやってきた所で、少し離れた場所で何やら人影がいくつも見えた。


 誰だ? 柵の内側にいるのは、感じからして翔太と鈴森……それに北上さん? その更に後方、離れた場所にも影が二つ見える。一つは小さな影。それで未玖と大井さんだと解った。


 ……すると翔太達が今、柵越しに向かい合っている奴らは何者なんだ? 俺は懐中電灯でそちらを照らしながら翔太達のもとへ駆けた。


 懐中電灯の灯りで、まず鈴森が俺に気づいた。続いて翔太。


「おおーー!! ユキー!! 遅いぞ、もう皆拠点で待ってたんだぞ!」

「はあ、はあ、はあ。そ、そんな事言ったってしょうがないだろ。俺が一番会社から家が遠いんだからよ。帰宅してからだと、どうやったって俺が一番遅くなるんだよ。くそー!」


 翔太との会話で、柵の外で翔太達となにやら問答していた者達もこちらを向く。直接顔面に懐中電灯の光を当てるのは、まだ何者かも判明していないし失礼かと思って胸元から腹辺りに向かって照射した。それでもどんな顔をしているのかは、解る。


 柵の外には、6人の男女がいた。そのうちの一人が右腕を差し出してきた。


「初めまして、僕は成田長泰(なりたながやす)という者です。あなたがこの拠点のリーダーかい?」


 眼鏡を掛けたその翔太と向き合っていた男は、いきなり自己紹介をして握手を求めてきたのだ。俺は翔太の顔を見る。すると翔太は顔を左右へふるふるっと降る。鈴森が代わりに答えた。


「こいつらは急にここへやってきて、俺達の拠点へ入れろと言ってきやがったんだ」

「な、なんだと!?」


 俺は、その成田長泰と名乗った男とその仲間達のいる柵の外側に立っている事に気づいた。思わず持っていたお手製の槍を力を入れて握りこんだ。俺が恐れを見せて警戒した事に気づいた成田長泰という男は、両手を前に出して振ると慌てて見せた。


「待て待て待て、待ってくれ!! ちょっとそれは誤解を招く。僕らはあくまでも友好的に、君達と接したいと思っている。本当だ。だから包み隠さず本名を名乗ったんだよ!」

「なるほど。それで……友好的といのは?」

「僕ら6人はそれぞれ『アストリア』のアプリをスマホにダウンロードして、この異世界へやってきた者達なんだ。それで知り合った」

「て、敵……とかじゃないのか?」

「敵なものか!? っていうか、なぜ僕らが君達の敵になるんだ? 僕らはこの場所を見つけ、なんだろうと近づくと君たちがいた。それで……もう夜だし、今日は曇っていて普段よりも暗く思えるし危険だ。だから君達の拠点に入れてほしいとお願いしていたんだよ」

「…………」


 翔太と鈴森の表情を見る限り、話が食い違っているようには見えなかった。早とちり。北上さんも特に、相違ないようだ。


「頼む、入れてくれ。さっき、この辺でウルフの群れを見た。今からじゃ、安全な所を探している暇もない。僕らにできる事なら、お礼もするつもりだ」

「それはまあ解るけど……それはまあ解るが、いきなり人の住処にやってきて中へ入れてくれっていうのはどうかなって思うよ。さっき俺の仲間が言っている内容について、誤解を招くと言っていたけど……大して変わらないんじゃないのかな」


 そう言うと、成田という人は俯いた。そして代わりに、その仲間の一人が前に出てきた。ひときわ身体の大きな男。190センチ以上は身長があるか。


 それに上半身はタンクトップで、ズボンはバギーパンツのような感じの厳ついカーゴパンツ。はっきりと見える上腕二頭筋はムッキムキで腕も足も丸太のよう。胸板も大きくて厚い。俺や翔太なんて、こんな男につかまれでもしたら簡単に首の骨を折られそうだ。


 俺はお手製の槍をその男の方へ向けると、少し後ずさりした。翔太と鈴森、それに北上さんも武器を手に警戒を見せる。


「な、なんだ!?」

「俺の名は坪井友将(つぼいともまさ)。現役プロレスラーだ」


 翔太の方を見ると、目が点になっている。汗も凄い。鈴森も口をぱっくりと開けて固まってしまっていた。こんなの相手にする事になれば、ただじゃ済まない。ブルボアよりも遥かにヤバそうだ。俺はそれでも皆のリーダーとして答えた。


「そ、それが何か?」


 坪井という男は、ニッカリと笑う。


「見ての通り、俺はとんでもなく力持ちだ。腕力だけじゃないぞ。人類最強の格闘技、プロレスを習得している」

「いや、プロレスが最強格闘技かって言うのは俺には解らんけど……」

「あーーー!! いいんだよ、プロレスが最強なんだよ!! それで、何が言いたい」


 翔太が余計な事を言いそうになったので、止めて慌てて言った。


「プロレスが最強なのは、そんなの決まってるだろ。見た所、お前らの仲間にはパワー型もストロング型もいねーじゃねえか」


 パ、パワー型とストロング型の違いがわからない。


「つまり、力作業でもなんでも俺がこの自慢の腕力でもって手伝ってやるぜって言ってやるんだ? それならどうだ? 一晩の宿代わりにはならないか?」


 な、なるほど。そういう事だったのか。怪力でねじ伏せられるかもしれないと思っていたが、坪井という男は交渉をしているのだと解った。


 し、しかし、小貫さんや佐竹さん達の事もこれから話したりしなければならないのに……まさか仕事を終わらせ拠点に来てみればこんな事になっているとは……


 ……まあ、考えてみれば未玖や長野さん、佐竹さん達との出会いも唐突だっけか。


 それにしても来訪者があったのが、未玖と鈴森だけの時でなくて良かったと思った。

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