Phase.103 『ブルボア その2』
少しの間で色々な事があった。
とりあえず仕留めたブルボアと、その前に鈴森が間違えて仕留めた兎は拠点の中へと運んだ。
そこは大きな岩がある場所で、そこにタープを張って屋根を作り、その下を解体作業場とする事にした。
柱になる木を立てて、そこに屋根になるようにタープを結んで設置しただけ。物凄く簡易的。今はその程度だけど、そのうちもっと設備を増やしていきたい。幸い、長方形の大きな石があったので、それを作業台にした。
作業場の近くには以前、アルミラージの角の粉末の効果を試す為に生やしたレッドベリーの木があったので、それを上手い事利用してブルボアを吊るした。
勿論、ブルボアはかなり重量があってとてもじゃないけど簡単には持ち上がらない。なので少しでもその重量を減らせればと、吊るして皮剥ぎや血抜きをする前に、まずは腹を裂いて内臓を取り除いた。
作業は俺と翔太と北上さんの三人で行った。鈴森は、幸い特に大きな怪我をしたりはしていなかった。宙に放られた時に、咄嗟に受け身を取ったので頭を打ち付けたりもしていないとの事だったので、拠点内の巡回を頼んだ。少し休めばとも言ったけど、本人は落ち着かないようだったのでそうしてもらった。
俺達の仕留めたブルボアは、かなりの強敵だったし小貫さんのいた所にいたから、小貫さんを追ってきた奴だという可能性は大きいと思う。
だけど佐竹さん達4人が、ブルボア一匹に全滅させられたっていうのは、どうも解せない。それについては、翔太を始め皆同意見だった。
因みに未玖と大井さんには、ブルボアが拠点近くにいた事と、既に俺達がそいつを仕留めた事を報告すると、当然だけど驚いていた。そして二人には、そのまま小貫さんの看病を頼んだ。
そういえば、ボルボアの気配を感じて危険が迫っていると思ったのか、未玖のいる近くにコケトリスの姿があった。すっかり懐いているな。
一応今は、卵を産ませる為に飼育しているが、もしもの時の非常食にもできると考えている。だからあまり、コケトリスと気持ちを通わせるのはどうかと思うが……まあ、未玖がいいならいいかと思った。必要ならまた別のコケトリスを捕獲するまでだ。
「よし、それじゃこのブルボアだけど……このままにして置いても、どんどん腐っていくだろうから、一気に解体してしまおうと思う。翔太と北上さん、手伝ってくれ。3人なら、あっという間に終わらせれるだろう」
「4人よ」
振り返ると大井さんがいた。あれ、大井さんと未玖には小貫さんの看病を頼んだはず。
「大井さん!」
「とりあえず、今は小貫さんは安定しているわ。もう手当も済んだし、あとはゆっくりと休んでもらって目を覚ますのを待てばいいと思う。一応、未玖ちゃんがついててくれるって言ってくれたから、私もこっちの救援に来たの」
大井さんの登場と言葉に、翔太と北上さんが跳ねて喜んだ。
「やったー!! 海ちゃんもかー。これってあれだよねー、愛の共同作業って奴だよね。こんなすげえ猪の魔物を解体するなんて、俺達皆初体験だもんな。そんなドキドキの場に美幸ちゃんと海ちゃん、二人の可愛い女の子との共同作業……ああ、俺はどっちの子と作業をすればいいんだ。いや、むしろ3人で……」
「おい! 俺は、何処にいったんだよ!」
翔太に突っ込みをいれる。すると北上さんも、大井さんにお礼を言った。
「海、ありがとう!! 海がいればかなり心強いよ。それじゃ、早速このナイフでブルボアのお腹を切り開くから手伝って」
「うん、それじゃそのナイフ貸してくれる? 私の方がそういうのは得意だから」
「そんな、私だって得意だよ。そりゃ海の方が上手だけど」
「解った。それじゃ、美幸がやってみて。お腹を切り開く時に内臓を傷つけちゃ駄目だよ。そしたらお肉も一緒に駄目になっちゃう」
「解ってる、解ってるよー」
可愛い女の子二人が、率先して大型犬よりも大きな猪の魔物を解体している。俺と翔太の男二人は、その後ろでまごまごと活躍の場を窺っていた。
それにしても北上さんも大井さんも、会社でいる時とはまるで違う。契約社員で働いてくれているけど……何て言うのか、いつもなんかラフなんだけどビシっとしているっていうのか、仕事のできる感じの印象。
うちの会社はデータ入力が主な仕事だから、こういうジビエっていうのかアウトドアな感じの北上さんと大井さんを見るのは、普段とまったく違うくてドキッとした。
好きとかそういう恋愛感情って言う訳ではなくて、かっこいいって言うのか……もしくは、素敵っていうのか……上手く言葉が出てこないけど、兎に角憧れる感じかな。
北上さん達は『幻想旅団』という別のクランにいたみたいだけど、そこが嫌になって、抜け出して俺達の仲間になってくれた。
こんな頼りになる二人がクランを抜けて、はたしてその『幻想旅団』の人達は二人を放っておくのだろうか?
あれこれまた考える癖。兎に角、その件に関して考えるのは後にして、今はこのブルボアの解体に集中しようと思い直した。
2人は以前のクランにいた時にも、もっと獲物は小さかったらしいけど、解体をやった事があるらしく北上さんと大井さんに任せていると、あっという間にブルボアの解体が終わってしまった。俺や翔太も手伝ったが、邪魔になってはいけないと結構気を遣って頑張った。
翔太が自分の顎をさすりながらに言った。
「そう言えば内臓も食えるんだよな。肝臓とか心臓とかさ」
するとそれもちゃんと、切り分けて別に分けていた。北上さんは、それを指でさして言った。
「生では食べない方がいいと思う。それに冷蔵庫がないから、食べるなら今から食べようよ。こういうのはできるだけ新鮮な方がいいからね」
腕時計を見ると、日付が変わっていた。
「い、今からかあ……3人とも明日、仕事なの解っているよね?」
「イヤーーーッホイーー!! ブルボアを見事に仕留めたんだからな!! 酒盛りだあああ!! よし! 美幸ちゃん、海ちゃん、ユキー! そのホルモンで色々とこの件についてお喋りしながら飲みなおそうぜ」
「まったく……二人は……」
北上さんと大井さんに目を向けると、意外な事に翔太同様にはしゃいでいた。それを見て、俺は可愛い女の子だし、会社の同僚だから守らないとって思っていたけど、実際は俺や翔太なんかよりも遥かにこの世界に馴染んでいるなと感じた。




