Phase.101 『何かいる その4』
「ぜってーここに何かいやがるぜ! どんなナリをしているんだー? 正体を見せやがれ」
懐中電灯で草場を照らし出しながら、エアガンでしっかりと狙いを定めて近づいていく鈴森。俺はもう一度声をかけた。
「鈴森! 慎重にだ! 慎重に行動しろ!!」
「わーってるって」
その時だった。
草葉の陰から何かが飛び出して、鈴森の方に跳んだ。
「う、うおおお!!」
バシュバシュバシュバシュッ!!
「孫いっちゃん!!」
「鈴森!!」
その何かは鈴森の方へ跳ぶと、その手前で地に落ちた。
「大丈夫か!! 鈴森!!」
「ああ、大丈夫……」
鈴森が改造エアガンで撃ち落としたそれを、懐中電灯で照らし出す。兎!?
俺達が怯えていた草葉の陰にいた何かは、単なる兎だった。もうピクリとも動かない所を見ると、死んでしまっている。翔太が突っ込んだ。
「兎かよ!! まったく、散々俺達を驚かせやがって!!」
鈴森は仕留めた兎を掴み上げると、それを俺と翔太の方へ見せつけた。
「殺しちまった。可哀想だが、確か兎は食えるはずだ。間違ったとはいえ、命を奪っちまったからな。せめて狩りをしたと思って、この兎を食ってみようぜ」
「おおー! 兎肉か。しかし孫いっちゃんのその改造エアガン凄い威力だな」
俺もそう思った。改造してあると言っても、これ程の威力があるなんて……もとの世界でこんなもの持っていたら完全に危ない奴だし、捕まるだろう。
でもこの辺りはウルフやゴブリンも出るし、剣やナイフで戦うよりはよっぽど有効だ。
兎を狩って、はしゃぐ翔太と鈴森に呼びかける。
「とりあえず、そこに潜んでいた奴の正体は解っただろ! だから早くこっちに戻れ! 柵の内側へ!!」
解った解ったと溜息をつく鈴森。そしてこっちに戻ってこようとした。
――――刹那、森の中からまた音がした。ガサガサガサとさっきとは比べ物にならない物凄い音で何かが近づいてくる。
鈴森!! 叫ぼうとした。叫ぼうとした瞬間、鈴森の身体がふわっと浮き上がり宙に大きく飛んで地面に叩きつけられた。
何かが物凄い勢いで森から飛び出してくると、鈴森の身体に衝突したのだ。まるで交通事故を見ているような感覚だった。
「孫いっちゃん!!」
「鈴森いいい!!」
ブモオオオオオオオ!!
見ると目の前には、鼻息荒く息巻いている大きな猪がいた。いや、猪の魔物だ!! 目は血走って吹っ飛ばした鈴森の方を睨んでいる。そして頭を激しく振ると、倒れている鈴森の方を向いて前足で地面を蹴り始めた。
まずい!! 踏みつぶす気か、それともあのでかい牙で鈴森を……
「ユキーー!! 孫いっちゃんが!!」
翔太が俺に助けを求めた時には俺は、剣を掲げて柵を飛び出していた。勢いよく猪に向かっていき剣を猪の身体に突き立てる。
ブモオオオオオ!!
刺さった!! 刺さったけど、あまい!! しっかりと、押し込めない。剣の先っぽが少し入った程度だった。ダメージは無いし、ぜんぜん致命傷にならない。だが猪の化物を怒らせるのには十分な一撃だった。
猪の化物は、大きく身体を振ってこちらを振り向くと、体当たりをしてきた。慌てて横へ転がって回避する。
ブモオオオオオ!!
猪の化物は身体を反転させて、また俺の方へ突っ込んでこようとしていた。完全に鈴森から今度は俺に狙いを変えている。
ま、まずいぞ!! 鈴森から注意を俺の方へ向ける事はできたけど、果たしてこんな奴に勝てるのか⁉
「ユキーーーー!! うおおおおお!!」
今度は翔太が猪に突っ込んで行き、さっきの俺と同じように脇腹辺りを剣で突いた。猪の化物は、翔太の一撃で暴れた。
「ひ、ひいいい!!」
「しょ、翔太!! 翔太、逃げろ!!」
今度は翔太が襲われると思った俺は、剣をしっかりと握って猪の化物に向かってまた突っ込んだ。剣を振って攻撃しても、きっとこの猪の身体の肉厚じゃ大したダメージにもならない。だからと言って思い切り突いても、俺の力じゃそれ程刺さらない。
それでも――
翔太に襲い掛かろうとしている猪の背後を突いてまた攻撃をしかける。鈴森の声。
「椎名、翔太!! 猪の攻撃方法は突進だ!! サイドか後ろに回って剣で突きまくれ!! そして二人で挟撃しろ、挟撃!! 二人並んで対峙するとまとめてやられるぞ!!」
「鈴森!!」
「孫いっちゃん!!」
鈴森が無事だった事に対して、ホッとする。翔太の引きつっていた顔が一瞬笑顔に変わった。
バシュバシュバシュバシュ!!
ブモオオオオオ!!
鈴森が改造エアガンで猪の化物を狙って連射した。特殊な殺傷能力のある弾を使っている事は知っていたけど、その弾が猪の身体にめり込んだ。猪は、痛みを感じて身体を左右に振って更に暴れるが、やはりそれでも倒れない。倒れる気配がない。
俺と翔太は猪の正面を避けて、素早く回り込みながら剣で突いて突いて突きまくる。避けるを重視して動いているので、攻撃を繰り出す際に足をしっかりと踏み込んでおらず、やはりそんな攻撃では大したダメージを与えられなかった。
でも3人でこのまま猪の化物を翻弄しながらチクチクと攻撃をずっと続ければ、この猪の化物はやがて力尽きるだろう。もしくは、たまらず逃げ出すはず。
できれば、この拠点の安全も考えれば、ここでなんとか仕留めてしまいたいが――
ブオオオオオオオ!!
俺と翔太、鈴森の改造エアガンで攻撃を続けていたが刹那、猪の化物が大きな悲鳴をあげた。そして猪の化物の身体から血が吹き出すと、動きがかなり不自然な感じになってあきらかに遅くなった。
一本の矢が猪の脇腹の辺りに突き刺ささり、それが貫通して地面に突き立っていたのだ。
振り向くと柵の向こうで弓を構えている北上さんの姿があった。
こ、これが北上さんの使っているコンパウンドボウの威力――
いや、今はそんな事よりも!!
「翔太、鈴森!! 今だ、留めろおおおお!!」
「おおおおお!!」
俺と翔太は体勢を低くすると、思い切り地面を蹴って剣を猪の化物に向かって突き出した。後方から、鈴森もこちらに向かって駆けて近づいてくるのが解った。
これなら、いける!!




