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Phase.100 『何かいる その3』



 俺は翔太と鈴森と一緒に、小貫さんが倒れていた森の方へと駆けた。しかし、森には入らない。拠点からも出ない。柵の内側から、森の様子を伺っている。


 念のため剣を抜いた。翔太も剣を手にしていて、鈴森は改造エアガンを森に向けて向けて警戒している。


 俺達は全員、小貫さんが何か恐ろしい魔物に襲われてここまで逃げてきたと予想していた。きっとそれで間違いないだろう。


 小貫さんの身体の傷は、そういう傷だった。満身創痍な感じも気になる。小貫さんのあの様子から言って、佐竹さんや戸村さんに須田さんはもうその魔物に殺されてしまっているかもしれないとも思った。考えたくはないけど、最悪の事態は考えておかなくてはならない。でないと、対処ができないから。


 翔太が、森の方を眺めながら言った。


「こ、小貫さんは何かに襲われたんだよな」

「ああ、間違いないと俺は思う」

「佐竹さんや戸村さん、須田さんはどうなったと思う?」

「…………」


 死んでいるのではないか。言葉にできずにいると、代わりに鈴森が言った。


「残念だが、この世界で出会ったお前らの友達は、死んじまっているのかもしれないな」


 鈴森の言葉に翔太が怒る。


「孫いっちゃん、あのなー!! 悪気がないのは解るけど、悪いぞそれ! もっと言い方があるだろ?」

「はーん、そうだな。そしてやっぱり翔太もそうやって怒るって事は、その友達が全滅しちまってると思っているんだよな。いや、小貫って人はなんとかここまで逃げてこれたんだから、全滅ではないのか」


 鈴森は自分の思った事の裏付けをしたくて、わざとそういう言い方を翔太にしてみせたようだった。


 なるほど、性格に難ありね。でも信頼もできるとも言っていた。俺だってそうだけど、完璧な人間なんていない。


 翔太が更に柵に近づいた。闇が広がる森の中を、懐中電灯であちらこちら照らし出す。


「……何か潜んでいる気配はするな」

「そりゃするだろう。なんて言っても森だからな。夜行性の魔物だっているだろうし……」


 翔太がごくりと唾を呑み込む。


「もしかして小貫さんや佐竹さん達を襲った奴、この森の何処かに潜んでいて、今もそこから俺達を見ているのかな?」

「解らない。小貫さんに聞けば、何に襲われたかは解るかもしてないけれど……兎に角、小貫さんはここまで命からがら逃げてきたって感じだった。襲ったなにかが、その後を追いかけてきている可能性も否定できないからな。用心に越したことはないよ」


 小貫さん達を襲った何かが、逃げる小貫さんの後を追いかけて……それを聞いた翔太がまた唾をごくりと呑み込む。


 俺も心の中では、恐怖を感じていた。だけどどうしようもなくとか、錯乱してしまう程は怖くはないかもしれない。


 俺はここで何度か死ぬかもしれないというような命のやり取りをしている。だからそのお陰で多少は、肝が太くなったのだろうと納得した。


「翔太」

「なんだよ?」

「やっぱり『異世界(アストリア)』に来てしまった事、後悔してきたんじゃないのか?」

「こ、後悔なんてしてねーし! 命のやりとりなんてした事ねーからな。興奮してんのか、恐怖してんのかなんだか解らなくなっちまっているんだよ。でもこれだけは言える。この世界に来たのは俺の意思で、後悔もしてねー!」

「フフフ。もう駄目だと思ったら、今日で最後にしていいんだぞ」

「そんな事言って、お前だけで美幸ちゃんや海ちゃんや未玖ちゃんを独り占めする気だな!! ぜってーさせねえから!!」

「なんだよ、それ」


 ガサガサガサッ!!


 翔太とアホな話に花を咲かせて強がっていると、森の中――先程まで小貫さんが倒れていた草場の辺りで音がした。何かがいる!! 翔太と顔を見合わせる。


 確かめに行くか行かまいか迷っていると、鈴森が先に動いた。エアガンを構えて柵に近づいていく。俺は草むらに潜む何かをできるだけ刺激しないようにしようと、小声で鈴森に呼びかけた。


「おい、柵を越えるな。柵の外に出るのは、危険極まりないぞ」

「そう言ったって見てみねーと先に進ねえだろがよー。このまま得体の知れない危険な何かを放置した状態で眠れるのか? それにあんたら明日また仕事で出勤しに行くんだろーよ? 会社という奴隷労働施設によ」


 そうだった。確かめられるうちに、安全を確かめておかないと今日は気になって眠れないかもしれない。


 それに明日の朝も、もとの世界へ転移する為にこの拠点を出て草原地帯の女神像まで行かなければならないんだ。解決できるなら、早いに越したことはない。


 でも、もしも小貫さんを襲った魔物……俺は絶対に魔物にやられたんだと思っているが、そいつが実は知能の高い奴で、俺達がこの柵から出てくるのを待ち構えているのだとしたら……


 佐竹さん達4人を襲って皆殺しにしようとするような奴だとしたら……女神像のある草原地帯なんかで、もしも襲われたら俺達も皆殺しにされかねない。


 しかしだからと言って、ずっと拠点から出ない訳にもいかない。朝になればもとの世界へ一旦戻らなければ……無断欠勤になってしまう。


 そんな事を考えてグルグルと考えてまごまごしていると、鈴森は柵を抜けて拠点の外へ出てしまった。


「お、おい!! 鈴森!! 戻れ、危ないぞ!!」

「孫いっちゃん!! ユキーの言う通りにしろって!!」


 鈴森を柵の内側へ戻らせようと必死になる俺と翔太。だけど鈴森は、エアガンを先程音がした草場に向けて構えると、少しずつ少しずつ近づいていく。


「お、おい!! 鈴森!! いい加減に!!」

「まあ待て。ちょっと確認するだけだ。それに直ぐ近くだ。危ないと思ったら、すぐに柵の内側へ飛び込めばいい。さっき絶対ここで音がした。何かいるのは間違いがない」


 鈴森を放ってはおけない。俺と翔太は、柵にぴったりと張り付くと鈴森に何かあっても対応できるように身構えた。


 よし! こうなったら、やるしかない。鈴森に危険が迫ったら、彼を柵の内側へ引き込むことも、俺達が敵に向かって飛びだす事もできるように翔太と共に配置についた。

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