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マスカレード・スクール  作者: 猫土偶
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第6話 円卓の食堂 その3




 大谷千春は決意した。かの珍妙奇天烈な紙袋を除かねばならぬと。大谷には事情が分からぬ。大谷は転校生の関西人である。


 大谷は中学生時代男女分け隔てなく仲良く過ごして来た。けれども乙女心に対しては人一倍鈍感であった。


 今日昼休み、大谷はクラスを出発して、校舎を越え、渡り廊下を越え、少し離れた食堂にやって来た。


 大谷には友も、彼女も無い。お金も無い。クラスでは同い年の、内気なゴミ箱少女と二人でぼっちだ。


 この少女は、クラスの狂信者達によって、菓子等を机の上に捧げられていた。どう見ても人気者なのである。


 大谷は、それゆえ孤独感、疎外感やらを埋めるために、はるばる食堂へやって来たのだ…。




 俺はいつもの席、いつもの円卓に腰を落ち着けようとした…所で、そこには思わぬわけではない先客がいた。紙袋を被った彼女は不敵なオーラを出しながら机の上で手を組んでいた。


「大谷、そこに座れ。でなければ帰れ。」


 急に謎の上から目線で話しかけられた。イラッとする。いつもの俺なら間違い無く帰っているが、今日は言いたい事も有ったが為、俺は黙って席についた。


「そうやなぁ、ちょうどええわ。俺もお前に言いたい事があるんや。」 


「聞いてしんぜよう。」


 いや、だから何で上から目線やねん。


「ほら俺、お前の名前知らんやろ?」


「私もよ。タイミングが悪くて中々出来なかったけど、挨拶は大切だって古事記にも書いてあるわ。」


 そう言えばそうだった。教室の一件で向こうは俺の名字を憶えていただけで、実際に名乗った事は俺も無かった…古事記?まぁスルーしよう。とは言え…。


「せっかく一緒にメシ食べようってのに、もう少し愛想良くできんのか?」


「そ、そうね、ごめんなさい(おかしいわね、私としては最大限の歓迎だったのに怒られたわ)。」


 ん?やけに素直やな。まぁそっちの方が話しやすいか。


「そんじゃあ改めて、大谷千春って言います。」


「私は東郷薫と申します。よろしくお願いします。」


「よ、よろしく…。」


 なんか一瞬雰囲気が変わった…と言うよりも喋り方が…。なんか一気に出端を挫かれて場を持って行かれた。


「なぁ、聞きたいんやけど、俺としゃべる時くらいはその紙袋…。」俺は言いかけた。言いたかった事を。でも彼女が先に、言葉を遮りこう言った。


「良いわよ。私の素顔見せてあげる。でもここじゃダメよ。ここじゃあ人目が多すぎる。ねぇ大谷君、放課後空いてる?」


「え、まぁ。」


「それじゃあ私とデートしましょうか?」


「え?」


 俺の脳はフリーズした。でーと?とはなんぞや。あれやろ?男女が二人っきりでイチャイチャラブラブするやつやろ?why?頭に紙袋を被った女と「アハハ〜」「ウフフ〜」と腕を組みながらスキップする絵がチラつく。


「ん?二人で行くんだからデートでしょ?」


「確かに、そうだな。デートだな。」


 なるほど、最近は二人で出かけることをデートと呼ぶのか。昔と違ってデートって言葉はずいぶんラフになったんやな。じゃあ、男女的なやつはアレか合挽か…そうそう牛と豚のな…ってそれは、「ハンバーグっ!!」


「え!?急にどうしたの?ハンバーグ食べたいの!?」


「え、いや、まぁ、うん。」


「それならこの後、美味しい店紹介しようか?」


「ははは…また今度な。」


 なんか気遣われた。めっちゃ恥ずかしいってほんま。こんなん俺も人のこと言えんくらいのやばい奴やん…。


 こうして俺はビシッとキメるどころか滑り散らかし、終始彼女のペースに飲まれて終わった。人生初のデート、それも学生の放課後デート。よく考えれば滅多に無い…ハズなのに、悲しいかな、俺は放課後になるまでそんな事も上の空だった。




 大谷と東郷がデートの約束をする中、その様子を影から見張る者がいた。


 彼女達はもうすぐで夏だというのに、制服の上からベージュのトレンチコートを羽織り、ベージュのハット、黒いサングラスとマスクを着けて、お昼を牛乳とあんパンで過ごしていた。どうやら形から入るらしい二人は食堂で目立たない訳がなく、それ故に彼女達の周りには誰も近づかなかった。


 本来なら大谷も東郷も気がついてもおかしくない距離感だが、そもそも紙袋を被っている東郷の視界はたかが知れてるし、大谷の心は宇宙を見つめていた。


「言ったろう、僕の完璧な変装のおかげだよ。誰からも気づかれて無い!」


 皐月は嬉しそうにしている。ただ久利生だけは暑さと恥ずかしさで後悔していた。自分から皐月を誘った手前、アホみたいな変装にノーとも言えず、冗談だと思ってたらマジで演劇部から衣装を借りてきやがった…という感じだ。


 もしかすると通報されてもおかしくない格好だが、もともと変な生徒が一定数認知されていることもあり、「またか…。」と皆んな慣れてしまっている。


「いやぁ、少年も頑張ってるねぇ。」


「そうだな。皐月はどうだ、紙袋を被った女は?」


「良いんじゃないかな、個性的で。僕も似たようなものだし。でも、もし僕が皆んなが言うところの普通だったら気後れするかも知れないね。」


「だろうなあ。」


 あたしもきっと彼女には気後れするだろう。


「彼は良い子だね。」


「そうだな。」


 あたし達がこうして見守っていると、耳に「デート」なる単語が飛び込んで来た。


「さぁ、面白くなってきたね。」


「全くだ。」


 あーあ、私たちは悪い先輩だ。そう思った。今から放課後が待ちきれない。

 




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