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マスカレード・スクール  作者: 猫土偶
5/8

第5話 久利生先輩




 紙袋を被った金髪ツインテに余りにも難解な哲学的社会の様相を聞かされた後から俺の脳みそはパンクしかけていた。


 そんな脳みそに栄養を与えてリフレッシュさせようと校内にある自販機を訪れたのだが、お目当ての安い炭酸ジュースのスイッチには売り切れの四文字が並んでいた。


 仕方なくどれにしようか悩んでいると横から「ようっ!」と声がかかったので俺はドキッとしてそちらに振り向いた。


 見るとそこに居たのは先日初めて会った久利生先輩だった。よく見ると俺よりも背が高く、顔を見るためには少しだけ見上げる形になった。


「どうしたんだ大谷、買わねえのか?」


「欲しかったヤツが売り切れなんで今迷ってます。」


「そうか…。」


 そう言いながら先輩は俺より先に自販機にお金を入れて缶ジュースを二つ買って「ほら、コレやるよ。」と俺に一本渡してくれた。


「良いんですか?」


「良いんだよ、後輩に奢るのも先輩の務めだ。」


「ありがとうございます!」


 俺は嬉しくなって受け取った缶をマジマジと見つめると、そこにはプリンシェイクと描かれていた。説明文を読むと振ってから飲むらしかった。


「先輩こういうの好きなんですか?」


「まぁな。疲れた時には甘いものが一番良い。」


 俺は缶を適当に振ってから蓋を開けて飲むと、トロッとしたプリンが口の中に入って来て卵の風味と少し苦いカラメルの味がして美味しかった。


 プリンの優しさに和んでいると、先輩が飲みながら俺に話しかけてきた。


「で、昼間の女はコレか?」


 そう言って俺に小指を立ててきた。

見た瞬間に俺は盛大にプリンを噴き出しかけるのを頑張って呑み込んだ。はいいけど、喉に引っかかって咳をした。


「ごほっごほっ、ち、違いますよ!」


「なんだつまらん。せっかく皐月のやつが気にかけてた後輩が実は数日で女を作るとんだヤリちん野郎だとスクープ持って報告できると思ったのに。」


 何だこの人は!?とんでも無い勘違いをしてやがる!と言うか、ここで会ってなかったら酷すぎる誤解を招く所だった!


「俺は絡まれてただけです。知ってるなら見てたんでしょ?」


「でも仲良くお弁当食べてたじゃん。」


「しつこいですよ、本当に何でもないです!」


「そんで〜何話してたの?」


 そう言って先輩は俺を逃さない様に、俺の首に腕を回して肩を組んで来た。先輩の方が身長がある分ガッチリとホールドされている。あ、ダメだ。これは話さないと返して貰えないやつだ。でも話せば何とかなるか?後ろめたい事とか何も無いし。


「実はかくかくしかじかで…。」と俺は話したものの、一瞬先輩の方に顔を向けると先輩横顔が俺の前いっぱいに広がる。美人でもあり、可愛いくも有るけどその言葉を超越する様な…。


 凄い…イケメンだ。おっぱいの付いたイケメンだ!!


 長いまつ毛にキレのある目尻。焦茶色の瞳からは力を感じる。


 そして先輩からはほんのりと柔軟剤の良い匂いがして、背中には温かで柔らかい感触を感じる。


 多分大きいっ!


 俺はたまらず顔を正面に戻した。これで目が合おうもんなら恥ずかしさで死ねる!


 そしてバレたらイジられる!


 それだけは避けなければ!いいか俺よ、心を澄ませ!無我の境地に達するのだーーーっ!


 ち〜ん…。


 そうして俺は平静な自分を取り戻す事になんとか成功し、全てを先輩に話した。


「まるまるうまうまって訳か〜。なるほどね(コレは案外脈アリ案件だな)。」


 先輩は俺の話を聞くと満足そうにして俺を腕から解放した。


 ふぅ…。


 これで一安心…。


「話は聞いたんですけど、いまいち俺の頭じゃピンとこなくてですねぇ…。」


「そうか、そんじゃあまぁ説明してやるよ。

だいたいこの手の話をするのはだな、過去や現在進行形で人間関係が上手くいかない、または孤独気質で人との関わり合いが下手くそな中二病だけだ。

中二病患者は意外とプライドが高いから、単純な問題とか簡単な解決をより複雑に演出する事で、あたかも自分が高尚な人間で有る様な錯覚を得ようとする。

ただそれは問題を解決する為の行動をする勇気が無いに過ぎない。

そうして解決の糸口を外…つまりは他者に求める。だけどそれは悪循環の始まりに過ぎず、問題解決を先延ばしにした結果、成功体験が余りにも少なくなり行動の為の一歩が踏み出せず失敗をより恐れるようになる。

更には失敗を経験しないせいで簡単に心が折れるし、知恵も応用も付かない。

つまりは自分から歩み寄る気が全く無いのに私の事を分かって欲しいって言うのさ。」


「めんどくさいですね。」


「その通りだ。それに変な被り物して、人は他人に対して理想を押し付けるだなんて事を言うってことはだな…。」


「その心は?」


「ありのままの私を見てって言ってんだよ。」


それって…。


「それって結局どうすれば良いんですか?」


 先輩にはここまで説明してもらって悪いけど、俺がとりあえず分かったのは紙袋女が面倒臭い性格で中二病だという事だけだ。それならば紙袋がボッチなのも頷ける。誰だって一目見て面倒臭そうな人間となんて関わりたくない。それに加えて中身までアレとなれば。


「はぁ…。お前、アレだ。乙女心ってもんが分かって無いだろ。」


 そりゃあ、男ですから。


「しょうがねえ野郎だ。いいかよ〜く聞けよ。紙袋少女はどんな奴だ?」


「中二病でボッチです。」


「そうだ奴は間違いなく人付き合いが苦手だ。そんな奴がお前に話しかけた。それはどれくらい大変だと思う?」


「凄く勇気のいる事です…。」


「だろう?そんな奴が少しだけ身の上話をして更にはもっとお喋りしたいと言ってきたんだ。どうよ?」


「紙袋取ってから同じこと言って欲しいですね。」


「マジレスかよ!?」


「いや、でもですね。本当に仲良くなりたいんならせめてそれなりの礼儀が必要だと思うんですよ。親しき中にも礼儀有り。ましてやまだ親しくすらなってないのに、自分を偽ったままで仲良くなりたいですなんて信じられますか?それでいて私の中身を見て欲しいだなんて我儘にも程が有りますよ。」


「気持ちは分かるけどそれを彼女の前で言ったら多分泣くぞ。」


「俺にはその意味が分かりません。それじゃあまるで仲良くなりたいとは上部だけの理由で単に自分にとって都合の良い人間が欲しいだけじゃ無いですか?」


「確かにお前の言う通りだ。それでも人間ってのは正論で納得出るほど機械的じゃ無いんだ。論理なんてもんは後付けに過ぎない。全ては自分の感情を納得させる為の建前に過ぎないんだよ。」


「それじゃあ俺がどうすれば良いのか余計に分からなくなりますよ。」


「あのなぁ…。あたしの話ちゃんと聞いてたか?」


「理解はできます…でも…。」


「納得はできてないんだろう?つまりはそう言う事なんだよ。」


 あぁ…なるほど。俺は今先輩の言っている事がようやく飲み込めた様な気がする。


 口ではどれほど理解だと言ったとしても、自分の感情を飲み込まなければ、それは上辺だけの言葉になってしまう。


「久利生先輩。」


「何だ?」


「俺も同じだったんだですね。」


「そんなもんだよ。」


 それから俺と先輩は空っぽの缶をもう一度だけ煽ってからゴミ箱へ入れた。




 あたしは後輩である大谷を見送った後、教室に自分のカバンを取りに戻っていた。


 さっきあいつと話した事は中々興味深い。と言うか面白い。特にこの学園には何故か変な奴が余りにも多いし、実際そんな人間ばかりが集まってるんじゃないか?


 そもそもこの学園は私学のクセに校則が余りにも緩く、そもそも在って無い様なもんだ。それでも何故かある程度の学力に、ある程度の自主的な規律が存在している。


 だけども、皐月だったり紙袋だったりゴミ箱だったり他にもいるけど、飛び抜けて可笑しな奴と言うか、間違い無く頭のネジが一本以上外れている様な奴は居るには居るが一握りだ。


 そんなバケモンが転校してきたばかりの大谷に絡んでいる姿を見るとこっちもブッタマゲタ。あいつの悪運の高さは何なんだろう。それでいて哲学的な話をあの様相で話し始めるとかシュール極まりない。


 ただそれに対してテキトーに迎合するのでは無くあいつなりに考えている点は評価できる。きっと自分のことを真剣に見てくれる様な人間に、普段から周りにあしらわれている様な変人は惹かれるのかもしれないな。


 それにあの紙袋…あたしも非常に中身が気になる。上手いこと大谷をけしかけて素顔を見れないかな〜なんて色々と今後が楽しみだ。


「やぁ、久利生。まだ学校に残って居たのかい?」


「何だ、皐月か。さっきまで人と話してたんだ。」


「それは珍しいね。お相手は?」


「大谷君だよ。」


「彼か。それで、どんな話をしたんだい?」


「かくかくしかじかだよ。」


「まるまるうまうまかぁ〜なるほどね。それで久利生が悪い顔してたって訳か。」


「まぁな。ちなみに明日の昼と放課後は空いてるんだろうな?」


「確かスケジュールは空いてた筈だけど…まさか!?」


「そのまさかさ。」


「全く、君って奴は。」


「もちろん来るんだろう?」


「まぁね。」


「こんな面白そうなこと滅多にない!」

「こんな面白そうなこと滅多にない!」


 それからあたしと皐月は明日が楽しみになり2人で肩を組んで帰ったのだった。





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