第2話 金髪ツインテの紙袋
転校初日、結局クラスメイトと仲良くなるどころか余所余所しくされ、青春の文字通り俺の顔面は蒼白だった。
虚なまま授業時間は過ぎていき、気がつけばお昼休みがやってきた。
さて、弁当でも食べようか…とカバンを開けた頃、教室のドアがバタンっ!!と勢いよく開く音がした。
なんだ⁉︎と思って顔を向けると、そこから長方形の紙袋を被った生徒が入って来た。おそらく目の位置にはマジックペンで黒く塗り潰した丸が書かれている。
嫌な予感しかしない。
そして予想は的中した。彼女はズケズケとクラスに入ってくるや俺の事を指で指して「あんたが噂の転校生ねっ!!」とドヤ顔?を決めて来た。
「ねぇ、あんた一体何者よ?こんな微妙な時期に転校してくるなんて!もしかして異世界人?未来人?超能力者?それとも地球外生命体かしら!?」
かしらもクソも何も…。こっちはただの人間、まだ右も左も分からん転校生やぞ。
それをいきなりエフワードの如く勢いで、厨二ワード並べ立てよってからに。
取り敢えず俺はありのまま、そうレット・イット・ゴー的な感じで事の成り行きを懇切丁寧に説明してやった。
すると紙袋越しにも伝わってくるガッカリオーラを全開で出しながら背中を丸めて自分の教室へと帰って行った。
「また来るんだからね!!」との捨て台詞を吐いて。
もう来んでよろしい。俺は心の中でため息をついた…。
次の日のお昼休み、「待たせたわねっ!!」との声と共にヤツが来た。チャイムが鳴って間もないと言うのに。
そして俺の前に来るなり開口1番「聴いたわよっ、あんたクラスでボッチなんですってね!!」と勢いよく叫んだ。
その声にクラスメイト全員が振り向き、俺を哀れな目で見ている。
いや、確かに昨日の事は俺が悪かったけど…でもなんや、反省したり改心したり仲直りする可能性もチャンスも有るわけで。
それをこの女、たった一言で未来の俺の可能性をバッサリ切りやがった!この後どうやってクラスメイトとに話しかければええねん!?
しかもドヤってやがる…袋越しからも伝わってくる。昨日のお返しよっ!みたいな感じで。ほんま腹立つわ!!
「で、なんの用や?わざわざそないな事を言いに来たってことは余程大事な事なんやろうなぁ?」
「や、ヤケに刺々しい言い方するじゃ無い。そんなの決まってるでしょ、昨日の仕返しよ仕返し!聞けばあんたそこのゴミ箱女に関わったせいでボッチ確定なんでしょ?ざまぁ無いわね!」
ガタッ…
一瞬ゴミ箱が揺れた気がした。ただそれ以上に恐ろしいのが、目の前の金髪ツインテ少女だ。そのツインテをどうやって紙袋越しに結んでるかは知らないが、彼女の言葉は俺の時以上にクラスメイトを騒つかせている。
幸か不幸か紙袋のおかげなのか彼女は俺のクラスメイト達の並々ならぬ殺気には気がついていない様だった。そして彼女はセリフを続ける。
「だからそんなボッチな貴方に…」
「大谷君はボッチじゃ無いわ。」
「え?」
少しだけ聞き覚えのある、可愛らしい静かな声が聞こえた。思いもよらなかった俺の右隣から彼女はゴミ箱の上蓋を少しだけずらして声を上げる。
「だって私もボッチだもの。」
まぁ…うん。俺は何となくことが飲み込めたけど紙袋の方は…。それにクラスメイト達はまたもや泣いている。その表情からは「君は1人じゃ無いよ」とでも言いたげだ。頼むからその憐れみを俺に1割でも分けて欲しい。
「だからこのクラスでボッチは二人。私と大谷君。独りだけど一人じゃないわ。」
「だから何よ。」
「あなたもクラスでボッチなんでしょ?」
「そ、そんな訳ないでしょ!何を根拠に!」
「だって紙袋被ってるなんて変だもの。ボッチに違いないわ。」
「何よ!?あんたにだけは言われたくないわっ!!」
紙袋を被った人とゴミ箱に入った人がお互いに変人と罵り合って、しまいにはボッチ認定を繰り広げている。壮絶なバトルだ。己の尊厳を賭けた壮絶なバトルが繰り広げれている。
間違い無く阿呆だ。
そう思って知らんフリで弁当箱を開けていると「ねぇあんた、大谷って言ったかしら。ちょっと聞きたい事があるんだけど。」と声がかかった。ほんの一瞬耳を離しただけで唐突な飛び火。俺には分かる、続く言葉はこうだ。「私とこの子どっちが変?」間違いなくこれだ。
はっきり言ってお前ら二人とも変じゃないわけがない。鏡見てからモノ言えや…とか絶対に言えない。ゴミ箱か紙袋かどちらかをヨイショしても必ず顰蹙を買い、どっちもヨイショしても結果は同じ…。行き先は地獄である。
「どう見てもゴミ箱被って歩いてるなんて変。あんたもそう思うでしょ?」
思う。心から思う。でも言えない。言えないからこそどう切り返せば良いんだ?間違いなくゴミ箱ディスった日にはクラスメイトに殺される!
そこに「変じゃ無い。これはファッション。」とゴミ箱の君。
なんやて!?
いやいやいやいや、それは余りにも苦し紛れ過ぎるて。しかも言った本人恥ずかしさの余りゴミ箱がカタカタ動くくらいモジモジしてるやん!?
「わ、私だってふぁっしょん?ナンダカラーっ!?」
なんでやー!?何でお前も張り合おうとすんねん!?普通に考えておかしいやろ!
やめろやーっ、お前まで紙袋越しにモジモジすんなぁ!!
こいつらアホや、同じレベルでアホや!そんなに恥ずかしいなら言わんかったらええやろ!観てるコッチが恥ずかしいわ!!
お前ら見てみーや!後ろでクラスメイトまでもモジモジし始めたやんけ!
「ねぇ、大谷君はどう思う?」
いや、だから俺に振るなって。初デートの為に一晩悩んで服選んできたけど可愛いか自信は無いくて、でも可愛いって言って欲しいなぁって感じのトーンで俺に振るのやめろ!
あぁもう…「俺には服のセンス無さ過ぎてオシャレはよう分からん。でもなぁ頑張って選んだんやったら胸張ればええやろ。」
どうや?上手いこと纏めたで!
もう話なんてコレで終いでええやろ。
「キモっ。」
「キモい。」
お前らは鬼かぁーっ!!
人がせっかくオチまで持ってったのに、綺麗に全部ひっくり返しよったわ!
もう嫌や…関西に帰りたい。そう思った。せやけど今のがウケたみたいでクラスメイトは腹抱えて笑っとる。こいつらどんだけ陰湿やねん。
それから紙袋は教室へと帰り、俺は弁当を食べた。
二人の掛け合いと俺の犠牲はクラスに少しだけ明るい雰囲気を最後にもたらして、有り難いことに俺はその後クラスメイト達と少しだけ打ち解けて話す事ができた。
災い転じて福と成す。そんな言葉通りになったけど、俺の福はこんな事で良いのだろうか。理想の学園生活はこうして泡沫に消えた…。