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マスカレード・スクール  作者: 猫土偶
1/8

第1話 俺は動くゴミ箱を見た。



 俺は動くゴミ箱を見た。


 いや、別にタイトル回収とかそんな訳では無く、ほんまに動くゴミ箱を見たんや。


 動くって言っても風とか自然現象的なもんじゃなくて…。





 季節は春。5月と言う微妙な時期に俺は親の都合、つまりは転勤により関西から関東へと引っ越すことになった。


 せっかく仲良くなりかけた友達や古くからの縁とも離れて新しい場所で一からやり直さなければいけない。


 それはつまり、各人の友好関係が確立され始めてカオスを極めているこの時期に、その輪に飛び込まなきゃいけないと言うことだ。


 今から考えるだけでも相当に胃が痛い。

親からして見れば本社への栄転。

俺はその犠牲になったのだ。


 陰鬱な気持ちでスマホのナビで学校に向かいながら、知らない街…風景を見ながら歩いていると奇妙なものを発見した。


 同じように登校する学生の一団の中にゴミ箱が混ざっていた。青くて丸い蓋のよく見るゴミ箱が。


 ゴミ箱は不思議にも脚を生やしてチョコチョコとおぼつかない足取りで歩いている。


 その奇怪な姿に関東には頭のオカシイ奴がいるモンだと、そう思った。もちろん関西にもアホは沢山おったけど。


 きっと何かのコスプレに違いない。昼からコスプレして出歩くんは流石の関西でも滅多にエンカウントせえへんけど、それでもゴミ箱のコスプレって…ただの不審者やんか。


 そしてゴミ箱は歩きながら途中に何度か電柱にぶつかってイテッ!と言う可愛らしい声を漏らしていた。


 俺はそんなゴミ箱を見て、決して関わったらあかん。あんなんに声をかけたが最後絶対にろくな目に遭わへん。ここは維持でも避けるんや!!と鋼の意志を持って早脚で学校へと向かった。もちろんこの時、学校までの道を大きく迂回したのは言うまでもない。




 目的地に着きました音声案内を終了します。とスマホが言ったので俺はコレから職員室へと向かうことにした。


 実を言うと急な引っ越しで新しい制服が用意されておらず、前の高校の制服…ブレザーを着て来た。お陰で既に恥ずかしさで胸が張り裂けそうである。


 周りの視線を気にしつつ歩いていると、上級生の様な1人のボーイッシュなイケメン女生徒が周りに沢山の女の子を侍らせながら俺に近づいてきた。


「やぁやぁ君、見かけない顔だねぇ…それに見かけない制服だ。この学校に何用かな?」


「えぇっと、その、転校生です。職員室を探してまして…。」


「ふむ。」と彼女は言うと何故か俺のアゴをくいっと持ち上げてからキスをするような距離まで顔を近づけてから少しの間俺の顔をジッと見て、それからこう言った。


「良いだろう、僕が案内してあげよう。」


 彼女がそう言った瞬間取り巻きの女の子達から「きゃー!優しいぃ!」と黄色い歓声が上がる。


 いつの間にか俺の周りをぐるっと女生徒達が囲っていて何というか、黄色い声とは裏腹にとてつもないプレッシャーを放っている。


「それじゃあレディーズ、大勢だと彼が緊張しちゃうから僕一人で行くよ。」と彼女は俺に配慮するかの様なことを言ってくれたが、ハッキリ言って彼女に声をかけられた時点で俺の緊張は限界近かった。


 しかし彼女が申し出た時、どこぞの親衛隊の様な人が現れて俺の事をマイルドに罵倒した後、職員室への案内を買って出ようとしていた。


 どうやら俺と彼女を2人きりにしたくないらしかったが、彼女が諌めると大人しく引き下がって、俺のことをキッ!と睨み付けてから何処かへと行ってしまった。完全なとばっちりである。コレから後、変な因縁を付けられない様に祈る他無かった。




 それから少しばかり彼女の背後について歩いていると「いやぁ〜少年、さっきは巻き込んですまなかったね。」と彼女は唐突に謝って来た。


 彼女をよ〜く見ると整った顔立ちに中性的な少年の様な声、髪は茶色がかったショートだけど前髪は少し長めで、まんま王子様って感じやった。歩く後ろ姿からも何処となく気品がある様な気がする。


「いや、すみません此方こそ案内してもらって。」


「その…なんだ、最近の僕はあぁでもしないと中々1人になれなくてね。君のことを利用させて貰ったよ。案内はその侘びさ。」


「そうなんですね。いつもああなんですか?」


「最近はね。これも全部僕が美し過ぎるせいかな…。」


 凄いな…本当にそんなセリフを言う人がいるなんて、世界の広さを感じる。


「君はだいぶ訛ってるけど関西の方から来たのかい?」


「はい、そうです。」


「僕もこの学校じゃあ目立つ方だけど、君の関西弁もここじゃあ珍しい。僕の学年にも一個上の学年にも関西人は居ないからね。ここで会ったのも何かの縁。同じ目立つ者のよしみだ、困ったことがあったら相談してくれたまえ。」


「は、はい。ありがとうございます。」


「さて、そこが職員室だ。それじゃあ僕は行くよ。」


「あ、あの…。」


「ははっ、皆まで言うな。僕は名乗る程の者じゃないさ。君が僕を探す時、僕はここで燦然と輝いている。アディオス、アミーゴ!」


 そう言って彼女は去って行った。

俺はただ、きちんとお礼を言いたかっただけなんだけどな…。


 最初から最後まで嵐の様な人だった。




 俺は職員室の戸を叩いてクラスの担任に挨拶してから教室へと案内された。クラスの担任は女性で、教科は化学担当らしく白衣を身に纏っていた。丸い大きめの金色の縁の眼鏡とボサボサだけども腰近くまである三つ編み。目の下の大きなクマと半開きのダルそうな眼…俺は理解したよ、この人マッドサイエンティストに違いない!


 俺の妄想はあれとしても、ここに来るまでの出会いのようなモノを思いこして俺は漠然とした不安の様なモノを人間に対して抱いている。

きっとここにはマトモな奴なんか1人もいやしない…。


「今日からココが君の教室だ一年間よろしく頼むよ。私が呼んだら教室に入って自己紹介してくれ。」と先生は先に教室へ入っていった。


 緊張しながら戸の前で待っていると教室からの声が誰もいない廊下へと響き渡る。


「お前らぁ喜べ〜今日はびっくなニュースがある。何と転入生がうちクラスに来ることになった!」


 ざわざわ


「せ、せんせー!噂の謎の転校生ですか?」


「そうだぁ〜親の仕事の都合でこの微妙な時期に引っ越しして来た謎の転校生だ。皆んな仲良くするんだぞー。」


 先生…それ謎でも何でもないやん…。


「それじゃあ入れー。」


 そう言って先生はドアを開けて俺を中に入れてくれた。


「自己紹介どうぞ。」


「はっ、はい。あの…その…大谷千春って言います。よろしくお願いします。」


 俺は短く挨拶をしてペコリと頭を下げた。

するとクラスの皆んなは拍手をしてくれた。

その拍手の音を聴いてホッとして顔を上げると、少しだけ心に余裕を持って周りを見ることができた。


「それじゃあ大谷に対する質問とかはホームルームが終わってからじっくりとやってくれい。

大谷は後ろの空いている席に座ってくれ。」


 そう言われて後ろの方を見ると、ぱっと見2つほど空いている様に見えた。


「先生、どっちに座れば…。」


「何言ってんだ大谷。席は一つしか空いてないだろ。よく見てみろ。」


「わ、分かりました。」


 そう言って俺は空いている席の方に歩いて行くと、確かに席は1つしか無かった。


 が、もう一つの席と言うか机の前にはどこかで見た様なゴミ箱が鎮座していた…。


 間違い無い今朝見たやつにそっくりだ。

どうしてこんな所に…。

いや、ダメだ。考えるのはよそう。絶対にロクなことにならない、でも気になる。

これは一体なんなんだ…。


 俺はあまりにも隣のゴミ箱が気になり過ぎてホームルームが終わっていたことにさえ気がつかなかった。


 でもやっぱり目を離すことが出来なくてチラチラ見ているとゴミ箱が少しカタンと動いた。気がした。


 ジーッと見てもそれから動く気配はなく、俺は授業の用意をしなくてはとカバンから教科書やらなんやらを取り出していると、クラスメイトとの何人かが興味を持って俺のところに来てくれた。


 それからは「ねぇねぇどこから来たの〜」とかそれぞれの自己紹介とか当たり障りない会話劇が繰り広げられた。


 俺は隣のゴミ箱の事なんか頭から吹き飛んでしまい、新しいクラスメイトとの新しい良好な関係を構築すべく全神経を集中させて一問一答していく。


 会話が弾み青春の手応えを感じ始めた頃、安堵と共に集中力が切れホッとする。


 しかしこの時俺は何となく周りを見渡して右に顔を向けてしまった。


 するとさっきまで閉じられていたゴミ箱の蓋が僅かに開いており、その隙間から何やら視線の様なモノを感じる。


 ここからだとゴミ箱中は全く見えないが、それでも中に何かがいる事は分かる。


 いったいこの中には何が入ってるんだ…。


 気になる…凄く気になる…。


 俺は気がつけば手を伸ばしていた。


 俺は気がつけば蓋に手をかけていた。


 俺は気がつけば…。


「いやぁーーーーーーーっ!!」


 突然の女の子の悲鳴で我に帰る。


 な、なんだ?


 するとクラスメイト達がざわつき始めた。

そしてさっきまで笑顔で話していたクラスメイトの男子の1人が鬼の形相で俺に近づいて来てこう言った。


「お前なんて事してんだよ、可哀想だろ!その手を離せよ!」


 俺は突然の事に驚きながらも反射的に手を離し、ゴミ箱の蓋はあるべき所へと収まっていった。


 「えぇっと、すまん…。」とそいつ謝ったら「何言ってんだ、謝るのは俺じゃなくて彼女だろ?」と返された。


 彼女…?俺の頭は一瞬フリーズした後、再び動き出し、悲鳴を、女の子の悲鳴を思い出した。


 そしてゴミ箱を見てから、クラスメイトにもう一度確認した。


「彼女?」


「そうだよ、彼女だよ…ってそうか、そうだった。お前転校生だったな。でも、謝っとけ、取り敢えず謝っとけ。」と少しバツの悪そうな顔をして俺に言って来た。


 それを聞いた俺は慌てて、彼女?に対して謝った。


「その…ごめん。」


 するとか細い声で「気をつけて。」と返ってきた。それは今日の朝、確かに聞いた声だった。


 そして彼女が声を発したその瞬間クラス内が驚きに満ちた表情でざわめいた。


 きっと何か彼女には事情が有るのかもしれない。だけど俺は朝からずーっと気になって気になって気になってたことを遂に聞く事にした。


 なぁ、どうして…「なぁ、どうしてその中に入ってるんや?」


 俺が言葉を発した瞬間クラスメイト全員の目がこっちを向いたのを感じた。凄まじいプレッシャーや。分かってた。うっすらこうなる事は分かっとった。でもこの好奇心、そしてタイミングを逃す分けにはいかんかった。どうせもう皆んなと仲良くとか無理なん分かったもん。だからこれはヤケクソや!


 そして返ってきた返事は…。


「私はゴミみたいな人間だから。だから私は私を捨てたの。それでもやっぱり私はゴミだったわ…。だからそっと蓋をしておいて…。」


 俺は絶句し、全クラスメイトは涙を流した。

1時間目が始まるその時まで、クラス内は御通夜だった…。





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