八時三十分
「なあ小僧、俺なりに色々考えてみたんだけどなぁ?最初に動いたやつってのは無いか?」
「たしかに最初に動いたのはあいつだった、でも動いてすぐ撃たれたんじゃない、動いた後にあいつが喋って撃たれたはずだ」
「動いてから撃つまでの準備の時間が偶然喋った時に重なったとかはよぉ…」
「もういい、とにかく次で実践だ」
「まあそうだな」
「九時に部屋にいる時のルールを付けておきましょうか」
「時計からめっちゃ離れるとか!」
「逆に真下にいれば時計から見えないかも…」
「どっちもいいけれど、何かに隠れるってのはどうかしら」
「それだったら撃たれてもどうにかなるかも!」
「それが生のルールだったら楽だけど…」
「あとは何かあるかしら」
「どうせ他の部屋にいるなら、一人だけ時計からめっちゃ離れるとかどうでしょう!」
「あと…私の真下にいるってやつも…」
「それぞれ違うのもありかもしれないわね、じゃあ私は隠れる、あなたは離れる、あなたは真下でいきましょう」
「なあ、小僧は金をどこに入れてるんだぁ?」
「金?」
「あれだよ、参加料だ」
「参加料か、ズボンのポッケだ、おっさんはどこなんだ」
「俺もポッケだ、たしか説明のとこに胸元は避けろって書いてあったけど、あれなんでだぁ?」
「分かるだろ、さっきの男が撃たれた場所だよ」
「あ…金が回収出来ねぇからか」
「これが終わったあと死体から回収するって書いてあったが、変だよな」
「ん?どこがだぁ?」
「先に回収すればいいのに、汚れちまうかもしれないのにわざわざ後から回収するなんて」
「百万払って一千万も貰えるんだからそんな深く考えんなって小僧、生きりゃいいんだ」
「最後まで生きてたら回収されるのか?」
「うーん、全員の参加料からと、これを開いたあっち側から残りの分って感じだとは思うなぁ」
「だったら逃げ出したあいつは払うのか?」
「元々十人いたとしたら一千万は分かるが、逃げ出したやつもいるとなるとなんともなぁ」
「ってことは逃げたやつは殺されてそうだな」
「ならここに来なかったやつも…まあよく分かんねえがぁ、考えんな感じろだ」
「正直ポッケに百万が入ってること自体実感が湧かねえっていうか、なんだかよく分からねえ」
「まあ、ここに参加してるだけでよく分かんねぇ人生だから気にすんなって、なぁ?」
「ふっ…おっさんもよく言えるな」
「何笑ってんだよぉ!」
「私ね、彼氏に全部お金持ってかれちゃって参加したの、この百万も借りたやつ、生きてれば返せるし、死んじゃえばもうどうでもいいって感じね」
「急にどうしちゃったんですか!」
「なんか仲間意識持っちゃって、こんな出会って短時間なのにね」
「あの…私が参加した理由は…推しに貢ぐためで…」
「え?推しに?それだけの理由?」
「バカにするな!!…あ…」
「え、あの、ごめんなさい」
「いや…その…」
「二人とも聞いてくださいよ!私なんて友達作りに来たんですから」
「え?いや、あなた」
「友達って…みんな死んじゃう…」
「え?あ、ほんとだ、みんな死んじゃうから友達できないじゃん!お金貰えて友達できるなら一石二鳥って思って参加したのに」
「なんか、やばいわね」
「ちょっと…おかしい…」
「おかしいってなんです!でも、ここに入った時はさすがにちょっと怖かったんですからね」
「それでもちょっと…」
「まあ、今だけかもしれないですけど、仲良くしましょ!」
「お、あと九分かぁ」
「そろそろどうするか決めるか」
「どうするって?」
「時間になった時にどうするかだよ、さっき言っただろ」
「とりあえず喋らない、動かない、だろ?」
「そうだ、でも他に何か試してみよう、俺とおっさんで一つだけ別のことをするようにしてみよう」
「例えばぁ?」
「俺は座ってておっさんは立ってるとか、なんでもいい、何か違いがあればそこで試せる」
「まあそれでいくか、後は時計が鳴らないように祈るか?」
「あ、ちょっとあいつらのとこに話を聞きに行ってくる」
「お?おぉ」
「何よいきなり」
「九時になった後、情報交換しないか?」
「また騙すつもりでしょ」
「騙さない、お前らに聞いてほしいことがある」
「一応聞きましょうか」
「きっとお前らは同じ部屋にいると思うが、それぞれ何か違う行動を起こせ、その行動はなんでもいい」
「いや!私たちは一緒にいないんで!」
「ちょっと…それは言っちゃ…」
「なるほどな、三人で手分けして試すわけか、ならこっちもありがたい、九時になったらまた話そう」
「行かないで」
「ん?なんだ」
「あなたね、さっきから偉そうだけど、私達もあなたに情報は渡さないから、いい?三人で手分けするなんてバレてもこっちは全然痛くも痒くもないのよ」
「了解、じゃあな」
「ちょっ」
「行っちゃった…手分けするのバレちゃった…」
「私、やっちゃいました?ごめんなさい!」
「しょうがないわ、実際バレてもそこまで大丈夫だと思うから」
「いやほんとごめんなさい!」
「お、どうだったぁ?」
「ちょっと失敗した、脅せなかった」
「なんだとぉ?お前が頼りなのにどうしてくれるんだぁ!」
「まあ焦るな、二人と三人じゃできる範囲が変わってくるってことだ、あっちは三人だから部屋を三人で手分けして任せれるがこっちは二人だ、同じ部屋で別の行動の方がいい、良い方に考えろ」
「うーん、まあそれもそうだなぁ」
「おい、時間が来るぞ」
「やばいやばいぃ、俺が座ればいいんだっけかぁ?」
「そうだ、そして喋らず動くな、今からだ」
「今から?」
「もしかしたら最後に動いたやつの部屋をロックオンしてるのかもしれない」
「念には念をってやつだな、分かった、生きてまた喋ろうぜぇ」
「お、おう」
「じゃあ、私はこの部屋で、また生きて会いましょう」
「はい!」
「生きたい…」
「怖い…怖い…怖い…」
カチッ
クルッポー、クルッポー。
「いや…私なの…?いやだ…死にたくない……」
メガネの女は動揺したがすぐに決心した。
彼女は目を閉じた。
目を閉じた時、溜まっていた涙が溢れた。
「大好き…愛してる…今までありがとう…やっぱりかっこいいね……」
瞼の裏には推しがいた、彼女からはまるでそこにいるかのように思えた。
だが涙で推しがボヤけることもなく、彼女はそのまま命を落とした。
「おい、隣だ、行くぞ!」
「いや待て小僧、腰が抜けて動けねぇんだよぉ」
「なんでだよ、先行ってるからな」
「おうよぉ」
「いやぁぁぁぁ!!」
「死んだのはこいつか」
「こいつって!友達に向かってなんて言い方を!!」
「落ち着きなさい、今は落ち着くのよ」
「なあ、そっちは情報交換する気が無いだろうが聞いておく、お前らの部屋は時計が鳴ったのか?」
「…言わないわ」
「だろうな、こっちも何も言わねぇ」
「何か分かったの?」
「だから言わねぇって」
「言えよごらぁ!」
「なあ、前にこっちの男が死んだ時こんなだったか?」
「ちょっと友達意識が高まっちゃったみたいなの、だからあんまり死んだ子のこと触れないであげて」
「優しいんだな、まあ情報は聞かない、もうしばらくあいつとも近寄らない、そっとしておこう」
「ありがとう、あなたも優しいのね」
「余計だ、じゃあ」