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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第七十話 〜人造乗員エルフ〜

 宇宙船の一室、ヒデヨシがまだ地球で仕事をしていた頃が思い出される様子。


船内の情報とリンクした端末、いわゆるノートパソコンをヒデヨシが眺める。


「まだわからないことが多いが、古代超文明は召喚者により滅亡したようだ」


「この宇宙船・・・だっけ、魔王に撃墜されて乗員は全滅したって」


「ええ、墜落の衝撃で全滅、生産工場が稼働して乗員を補充したと」


ヴェーゼの疑問に、ヒデヨシが答える。


「つまりエルフは、その生産工場で作られた、と言う事だと思います」


「彼らは、貴方達人間とは違うということかしら」


「・・・人造の人種、と言う意味では違いますね」


「船内人口の調整要員であるエルフは、子孫を残す機能に制限をかけられています」


「ですが、それ以外に違いがありません」


「彼らも、同じ人間ですよ」


ヒデヨシは一人、この残酷な真実を告げるべきなのかを思い悩んでいた。


イリーナの願いが叶いそうも無い、この悲しい現実。


「ヒデヨシ船長」


レオが、表情もなくヒデヨシをよぶ。


「崩落した格納庫より侵入者です、映像出します」


言葉と同時に、ノートパソコンへと映像を出力する。


ライブ映像と書かれたその映像は、格納庫を飛ぶ車をカメラが追跡している様子だった。


車と同じく空を飛んでいると思われるカメラは、車へと接近していく。


「あれは長老のお三方と、アクアとローズまで」


なぜだか楽しそうな長老達、後部座席で話し込むアクアとローズ。


カメラに捉えられる事に感づき、フェイスタンロールがハンドルを切る。


車はそのまま格納庫の床へ着陸し、演技っぽく車内から飛び出す者たち。


「レオ。彼らは私の仲間です、この部屋まで案内出来ませんか」


「かしこまりました、ヒデヨシ船長」


ノートパソコンの画面を見直すヒデヨシ。


レオは一礼して部屋を後にした。







 武装したRE型、そして先導するレオに連れられて一行は歩く。


不服そうなフェイスと、にやにやしているカムラン。


困った様子のロカは、嬉しそうなアクアに話を振る。


姉さまと手を繋いで自慢げなリール、そしてローズもリールの手を取っていた。


そのまま、ヒデヨシの待つ一室へと入る。


「ヒデヨシ様、また居なくなってしまうかと思いました」


ヒデヨシを見るなり、発射するように飛び出すアクア。


「アクア、すぐに連絡が出来ずに心配をかけた」


アクアを受け止め、その胸の中へおさめるヒデヨシ。


「わたくしは、もう二度とあのような思いをしたく無いのです」


「ああ、すまなかったアクア」


ぐずり泣くアクアを慰めるヒデヨシは、アクアの頭を撫でる。


「ローズも・・・、心配をかけてしまったな」


「はい・・・、ヒデヨシ様。改めてご無事な姿を見て安心致しました」


涙ぐむローズ、少し強く握られた手を、リールは握り返していた。


「もうこれエンディングのシーンやな、残念やったなフェイス」


にやにやが止まらないカムラン、フェイスはそれで更に不機嫌な顔をした。


映画のような冒険を期待したフェイスは、何事も無かった事に落胆している。


主役まで他人に取られたとあっては、カムランと同じスズキの役どころなのだ。


「ラストはキスで締めんかい、スタッフロールも流せんやんけ」


抱き合う二人をからかうカムランは、いやらしい笑みへと変わっていた。


指摘されたヒデヨシは、アクアを座らせて襟を正す。


「からかわないでくださいよカムラン様」


「アクアもだ、あんまり調子に乗らない事」


期待して待ち受けていたアクアは、残念そうにヒデヨシから離れる。


「わたくしは今すぐでも構いませんのに・・・」


艶っぽく語るアクアに、ローズは一人モヤモヤしていた。


「ところでや、ヒデヨシはんが船長ってのは本当なんか」


カムランが急に顔を変え、真剣な眼差しをヒデヨシに向ける。


「ええ、先代船長より任命されました、今は私が船長です」


「船長は、うちらを新しい世界へと導く救世主なはずや」


「うちを育てた人から、そう聞いとったで」


カムランは、拳を握りしめて熱弁していた。


「カムラン様、この宇宙船ボイジャー号の目的をご存知ですか」


「ボイジャー号は、この崩壊しつつあった世界を脱出する為の船でした」


「ですが、撃墜され乗員は全滅」


「既に、本来の目的を達成出来る状況にありません」


「じゃあ、うちらはどうすればええんや」


カムランの動揺が、定まらない目線に現れる。


「新しい目的に向かいましょう」


「この船は今、危機的状況にあります」


「遅くとも十数年で動力が停止し、船の機能が停止します」


「船の魔導エンジン修復を目的といたしませんか」


「・・・約五十年前、船の機能が一部使えんくなった」


「オートマターの修繕や生産と、うちらエルフの生産や」


「うちらはもう、街と共に死にゆくだけやと思っとった」


「船長が、もう一度うちらを導いてくれるんか」


ヒデヨシが少し目を閉じ、改めて口を開いた。


「カムラン様、私はいずれ船長を辞任するつもりです」


「成り行きで船長を任されましたが、私は部外者です」


「船の修復後は、あなた方に委ねようと思います」


「この船の行く末は、当事者のあなた方が決めてください」


「そんなん言われても、どうすりゃええんや」


「これを機に世界を見て、世界との付き合い方を考えて見ても良いのではありませんか」


フェイスタンロールが、動揺し口ごもるカムランの肩に手をおいた。


「なあカムラン、俺たちはこの街に居る事が義務だと思っていた」


「でもそうじゃなかったんだ、俺たちの物語は始まってすらいなかった」


「俺たちが憧れて、語り合った冒険の物語が現実になるかも知れないんだぞ」


目的が失われ、止まっていたエルフの時間をヒデヨシが動かす。


古代の知識が詰まった宇宙船、このまま失われるのは世界の損失だろう。


だが、取り扱いを誤れば古代文明のように滅びへと進む。


まるでパンドラの箱、これは希望なのか絶望なのか。


ヒデヨシにはわからなかった。

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