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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第六十八話 〜動くものと帰る場所〜

 遺跡の内部、崩落した天井からは光が指す。


しかし、遺跡の中はその光を必要としないほどに明るかった。


「随分広いですね」


カールが辺りを見回しながら話す。


「そうだな、ここは恐らく飛行機の格納庫と言ったところか」


「飛行機の格納庫・・・、ですか」


ヒデヨシの見知らぬ言葉に、カールがそのまま復唱する。


「先日見たドラマにも似たようなシーンがあった」


「奥に見えるのは、飛行機かもしれない」


「人を乗せて空を飛ぶ、そういう機械だ」


「空をですか、そんなすごいものがあるんですね」


「それでヒデヨシ君、その飛行機は動かせるのかしら」


ヴェーゼからの疑問が飛ぶ。


「機体の状態は良さそうですが、遺跡も調べて見ないとわかりません」


「ですがその前に、上との連絡手段を確立したいですね」


「ヴェーゼ様、何か方法はありませんか」


「遠方と会話する魔法があるわ」


「酒場の位置はだいたいわかるから、そこと会話ができる」


ヴェーゼが、崩落した穴を見上げながら話す。


「まあ、普通は戦場で部隊間の連絡を取るための魔法なんだけどね」


「早急に無事を知らせたいので、すぐにでもお願いします」


「わかった、すぐに始めるわ」


手早い詠唱から、ヴェーゼが目を閉じる。


「良いわよ、でも酒場内全員に聞こえちゃうから、不用意な事は言わないように」


「では」


ヒデヨシが咳払いをして、通話の準備を整えた。


「ローズ、アクア、イリーナ様、誰か聞こえるか」


酒場の中へと響く、ヒデヨシの声。


その声に、いち早く反応した美しい声が一つ。


「ヒデヨシ様、どちらにいらっしゃるのですか」


「その声はローズか、すまない心配をかけた」


「今は、遺跡の中から魔法で話しかけている」


「いえ、ご無事なのでしたら問題ございません、何があったのですか」


ローズが酒場に響く声に応答し、落ち着きを取り戻して椅子へと腰掛ける。


「遺跡が崩落して、その場に居た全員が落下した」


「私とカールとヴェーゼ様は無事だが、ルーシェルは死んだ」


「そうでしたか、ルーシェル様は残念ですが、他の方が無事で良かったです」


「ああ、大きな地震もあったと思うが、そちらは怪我などしては居ないか」


「お気遣いありがとうございます、皆無事ですわ」


「ただ、そのアクア様が・・・」


ローズの困ったような声が遺跡に響く。


「アクアがどうした、何かあったのか」


「外の崩落を見て、青ざめて長老様のところへと行かれてしまいました」


「私も不安ではありましたが、ヒデヨシ様が戻られる事を考えて」


「酒場を留守にしないほうが良いと、判断致しました」


「そうか、連絡するのが遅かったな、申し訳ない」


「いえ、突然の事でしたので・・・」


「ヒデヨシ様達は、地上に戻ってこれそうでしょうか」


「現状ではわからないが、戻れそうなものは見つかった」


ヒデヨシは、遺跡の奥に見える飛行機のようなものを見ながら話す。


「それは何よりの報告です、わたくしにも手伝える事はございますでしょうか」


「そうだな、アクアにも私達の無事を伝えたいところだが・・・」


「そうですね、誰かがお伝え出来れば良いのですが」


「イリーナ様方は不在ですし、アクア様はリールを連れて長老様のところへ行ってしまいました」


「この魔法連絡は酒場にしかできそうもない、ローズまで外出するのは得策では無いな」


「アクア様が戻るのを、お待ちするしかありませんね」


「ヴェーゼ様、この魔法はローズから発信してもらう事は出来ないのですか」


「出来ないわね、教えてもないし」


「・・・ある程度目処が立ったら連絡する」


「遅くとも翌日には必ず連絡をするから、それまで待って居てくれないか」


「かしこまりました、わたくしがお待ちいたします」


「いつもすまないな、ローズ」


「とんでもございません、ヒデヨシ様」


「それでは、これで通信を終わる」


魔法は切れ、それぞれの場所では互いの声は聞こえなくなる。


遺跡の三人は調査に動きはじめ、ローズは落ち着かない気持ちを抑える為に紅茶の用意をし始めた。








 午後のゆったりとした時間の中、女性の大声が響き渡る。


それはこのエルフセインでは、数十年と見られなかった珍しい光景。


「まあまあアクアはん、ちょっとは落ち着いてくれや」


「落ち着いてなんて居られません」


カムランは、アクアの勢いに押されて椅子を下げる。


「先程もお伝えした通り、街の中で崩落がおきヒデヨシ様が行方不明なのです」


「いやまあそれはわかった」


「でも、なんでそれでウチらが手伝わなあかんねん」


「あなた方は、この街の領主でしょう」


「街で起こった事故は、領主が対処するものですわ」


「アクアちゃん、その、申し訳ないのだけれど」


怒りに身を任せたアクアに、ロカが弱々しく声を出す。


「私達は、この街を管理しているわけでは無いわ」


「エルフセインを管理しているのは、RE型と街のメインシステムなの」


「崩落の件は、そのシステムが修繕に動いているはずだわ」


「ですがロカ様、それではヒデヨシ様方は救出されるのですか」


アクアと同じ顔をした毛むくじゃら、リールが割り込んで口を出す。


「わからないわ・・・、でも住民登録された者が救出された例はあるから」


「街のシステムが救出をしてくれるかもしれない」


「つまり、ウチらがやれることは無い」


納得など起こり得なかった、アクアが腕を組んで憤る。


「救出されるかもわからない、そんな曖昧な状況を許すつもりはございません」


「こうしている間にも、ヒデヨシ様が助けを待っているかも知れないのですよ」


「そうだ、姉さま、カムラン様、配達の浮遊する車」


「あれなら崩落した穴から、遺跡の中へ入れるのでは無いですか」


リールがひらめき、満面の笑みでアクアを覗く。


「それだわリール」


「カムラン様、今すぐあの荷車を調達する方法を教えてくださいませ」


「ホバートラックか、だけどなアクアはん、あんた運転出来んのとちゃうか」


「カムラン、俺が運転していく」


長身のエルフ、ずっと黙って様子を見ていたフェイスタンロールが口を開く。


「フェイス・・・」


「スペースボイジャー第三十二話」


「仲間を助ける為に、隊長を説得する主人公アレックス」


「似ていると思わないか」


「そういやアレックスも、説得の末に危険領域へ仲間を助けにいったな」


「アレックスの熱意に惹かれ、同行したモリスが俺だ」


「はあっ、なんやそれ」


「それじゃあ私は、救出隊の紅一点ミランダをもらうわね」


フェイスの不敵な笑みに、ロカが続く。


「カムラン、お前はスズキだな」


「スズキて、ずっと後ろで皆に賛同してただけの脇役やんけ」


「やってられんわ、そんな役」


カムランが、空を仰いでうなだれる。


アクアの熱意は、奇しくも既視感と共に伝播した。


共通の趣味を持った、最年長の友達グループだった長老会。


憧れていたドラマの役どころを奪い合い、それぞれに理想の物語を夢想していた。

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