表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
68/71

第六十七話 〜あいまいな真実と嘘〜

 ルーシェルは、倒れ込む男の姿を目線に捕らえていた。


どこから来たかもわからぬ者達に取り押さえられ、地面に押さえつけられる。


だが、あれで生きているはずがない。


目的は達成した。


「ルーシェル、あんたまさかこんな暴挙に出るなんて・・・」


「用心をしておいて正解でした」


「ヒデヨシ様、彼をどういたしますか」


ルーシェルを押さえつけたカール、それは死んだはずの男へと問いかけている。


まるで夢の中に居るような、朧気な意識、余韻の中で聞こえる声。


「このまま酒場へ帰る、処分はそれからだ」


ヒデヨシが、まるで何事も無かったかのように立っていた。


「なっ、貴様はっ」


ありえない光景に、ルーシェルは声を荒らげて身動ぎする。


「ルーシェル・・・」


「幻術だよ」


ヒデヨシの、冷たい声で夢から覚める。


ルーシェルの意識は、起き抜けにまどろんでいた中、冷水をかけられたようだった。


「お前が街に入った事は、すでに報告を受けていた」


「何かするつもりだと思っていたが」


「幻術だとっ」


カールに抑え込まれながらも、顔を上げて睨むルーシェル。


「そんな高等魔法が使えるはずないだろう」


「あたしの幻術だよルーシェル」


「ヴェーゼ・ミドガルズオルム・・・様」


「カザルの貴族が、なぜ・・・」


ルーシェルの抗う力が弱まり、カールがそれを縛り、引き起こす。


「あんたのやった事は、全て彼らから聞いていた」


「この盗賊共に、何を吹き込まれたというのです」


「こいつらは、屋敷の物を盗んで逃走した犯罪者ですよ」


ルーシェルはなんとか抗う力を取り戻し、再度声を荒らげている。


だが、その力は全てカールに抑え込まれていた。


「あんたの言葉を信じることは出来ない」


「事実は確認させてもらった」


「グリムウェルの伯爵令嬢を、盗賊呼ばわりとはね・・・」


「幼稚な逆恨みで他者を害するなど、領地を治める貴族にあるまじき行動でしょう」


反論の出来ぬルーシェル、大人しくとは程遠いが、カールにより拘束され連行される。


もがいても、振りほどこうとしても、カールは顔色一つ変える事は無かった。








 酒場の裏手、新造の畑を通り過ぎ森へと入ったところ。


ひとけなど無く、静かな森で行われている裁判。


形式上は裁判、だが被害者が加害者を裁くという構図は、公平性を欠く。


「ルーシェル、お前には話し合うと言う選択肢は無かったのか」


ヒデヨシがルーシェルに詰め入り、ドスを聞かせてすごむ。


「お前の短絡的な行動が、この結果を生んだのだ」


「お前をここで処刑する」


ヴェーゼが一度だけルーシェルを見て、目をふせた。


「処刑だとっ、貴様、何の権限があって・・・」


「私は、私はトレヴァー領の伯爵子息だぞ」


「権力は力だが、今それをここで振りかざす意味など無い」


「権力は味方へ誇示する力だ、敵対するものには逆に、殺す理由になり得る」


「お前は一人でここへ来て、ここで敵に囲まれている」


「ここでお前が死に、埋められた事を公表する人間が居ると思うか」


「この悪魔め」


「ヴェーゼ様、ご覧になりましたか」


「この盗賊は伯爵令嬢を洗脳し、彼女を我がものとしているのです」


「僕はそれをいち早く知り、居ても立っても居られなかったのです」


悪魔じみた表情をしていたヒデヨシを、ルーシェルが指摘する。


だが、ここにはそれに賛同する味方などは無い。


「さっきはその伯爵令嬢に対しても盗賊と言っていたね」


「あんたの発言はコロコロ変わる」


ヴェーゼが顔を歪ませ、露骨な嫌悪感を示していた。


「ルーシェル、この結果は全てあんたが招いたものだ」


「もしもあんたがカザルの貴族なら、私の判断で処刑している」


「最後くらい貴族らしく、その責務をはたして見せなさい」


真実はたしかに含まれている。


全てにおいて、ルーシェルの言葉には裏付けがない。


だが、どれだけ息苦しくとも、ルーシェルは先に進む以外には無かった。


「この人間風情が、強力なる魔人の血を引く僕を裁くだと」


「貴様のように、冷酷に人を操るものに騙されはしないぞ」


薄っぺらい怒りの表情を作り、ヴェーゼへのアピールを始めるルーシェル。


その姿を見て、ヴェーゼは更に表情を歪ませていった。


刹那、ルーシェルの衣服、背中側が大きく破け開く。


中から飛び出したものは翼。


まるでコウモリのような皮膜の翼を、一息のうちに開ききる。


後ろ手で、ルーシェルを拘束していたカールは、翼に押されて振りほどかれた。


「ぐっ、ヒデヨシ様」


「人間ごときで、僕を止めておけるわけないだろう」


「そして僕の魔力であれば、こんな事も出来る」


大地が揺れ動き、その上に立つもの全てを揺さぶり倒す。


地震を起こす魔法、アースシェイク。


普通の大地であれば、揺れるだけで済んでいたのだろう。


だが、ここではそうはならなかった。


突然の崩壊、森の一部が大きく崩れ、穴が開く。


足元の支えを失った者達は、瓦礫と共に落ちていく。


この事態を引き起こした、ルーシェルさえも例外では無かった。


ヒデヨシ、カール、ヴェーゼにルーシェル。


それぞれが落下へ備える中、ルーシェルだけが翼を広げて落下から逃げていく。


カールがそれを確認し、瓦礫を蹴って空を走る。


空を逃げるルーシェルを、空を飛べぬカールが追いすがる。


想像もしていなかった追撃に、ルーシェルは気が付いてさえいなかった。


カールは、ルーシェルの翼を切り落とす。


崩落した穴は深い、だが底は照明により明るく照らされていた。


ヴェーゼが魔法を駆使して落下を制御していく。


ヒデヨシは、微力ながら魔法の補助へと力を注ぐ。


カールは、常人を凌ぐ身体能力で瓦礫を渡って地の底へ降りる。


頼みの翼を失ったルーシェルは、空を泳いでは虚しい抵抗を試みていた。


運命は決まり、四人が地の底へと降りる。


「ヒデヨシ様、ヴェーゼ様、ご無事ですか」


「ああ、私は大丈夫だ。ありがとうございますヴェーゼ様」


「浮遊魔石の応用だけど、なんとかなって良かったわ」


「随分落ちてしまいましたね」


「ええ、助かって良かったわ。ルーシェルは残念だったけど」


ヴェーゼが、既に動かなくなった一人を見る。


「逃走を試みていましたので、俺が落としました」


「最後まで貴族らしさが見れなくて残念だわ、ルーシェル」


遺跡の中の広い空間、大型の船のようなものが見える。


ヒデヨシの知識では、SF映画にあったような宇宙船のドック。


昔見た映画のそれを、そのまま再現したような光景。


ずっと予感していた召喚者の存在、それをより一層ヒデヨシに確信させていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ