第六十六話 〜ゆっくりとした歩み〜
昼頃のカフェ。
穏やかな陽気の中、テーブルと椅子が並べられている。
まばらに席はうまり、飲み物を片手に話しこむ。
カムラン、細身の男性だが女性のような小柄さが特徴。
比較的に社交的で、会話の中心になる人物。
フェイスタンロール、長身で男らしい体つきをした男性。
カムランの話を聞く立場になる事が多く、あまり社交的ではない。
ロカ、こちらも長身の女性。
女性的な特徴に優れ、美人でスタイルが良い。
先の二人の中間のような存在で、仲を取り持つように努めている。
三人は頻繁にこのカフェで会い、昼食から夕食までを共にする。
今日は違う、来訪者による変化。
ヒデヨシ、アクア、ローズ、三人が長老達へ接触を試みていた。
「こんにちは、カムラン様」
「本日も良いお日頃でございますわね」
アクアが一礼し、最初の言葉を投げかける。
「アクア嬢、それにローズ殿も・・・そちらさんは」
「はじめましてカムラン様、フェイスタンロール様、ロカ様」
「私は彼女と共に旅をしている、ヒデヨシと申します」
「私も、ドラマというものを見させて頂きました」
「興味深い内容でしたので、お三方とお話が出来ればと思いまして」
「そうでしたか、どうぞおかけください」
カムランに促され、ヒデヨシ一家がそれぞれ席につく。
「私は冒険もののドラマに興味をひかれました」
「どちらの作品を見なさったんですか」
「スターオーシャンという宇宙冒険ですね」
「手に汗握る展開に、アクアやローズも夢中になっておりました」
「宇宙ものが好きなんやな、それでしたらスペースボイジャーなどもお勧めやで」
「テレビでしたか、あれは沢山のドラマが見れるのですね」
「せやで、ぎょうさんあるからな」
「例えばな・・・」
ドラマの話に華が咲く、それぞれに好きなドラマの話をし、思い出を語る。
紅茶を飲み進め、カムランの好意でヒデヨシ達も軽食をはさみながらの談笑の時間が流れていく。
歓談の時間が過ぎ、皆の話しが止まったおりにヒデヨシが口を開く。
「カムラン様は、カザルという国をご存知ですか」
「・・・ああ、確か西の方にある島国やったかな」
「実は、私はそのカザルに所属しております」
「今回、この街に来た目的は街の調査のためです」
「この街には古代技術が残っている」
「長老であるあなた方にも、協力をお願いできないでしょうか」
「なるほどなあ」
「うちらに接触してきたのは、そういうわけやったんか」
「ええ、一部の住民に協力を頂いております」
「この街に存在する便利な道具の数々」
「その失われた技術を復元することが、必ずや世界の発展へと繋がります」
カムランは、素早く言葉を遮るように動く。
「残念やけど、断らせてもらうわ」
「・・・そうですか、理由をお伺いしても」
「率先して、街の技術を外へ出す必要がない」
「うちらは静かに、平穏に暮らしたいだけや」
「外の面倒事に巻き込まれるのは、ごめんやで」
「私達の調査は、続けてもよろしいですか」
「まあええよ、止められそうもないしな」
「ありがとうございます」
「また、なにかの時にはお伺い致します」
「ドラマの感想なら、いつでも歓迎やで」
子供のような笑みを浮かべるカムラン、それを迎えたヒデヨシ。
一礼して席を立つヒデヨシ一家を、三長老はただ見送っていた。
「いいのカムラン」
ロカが不安な眼差しを向ける。
「うちらだけじゃ止められへんやろ」
「確かにそうなんだけど」
「・・・放っておけば良い」
「フェイス・・・」
「もう俺たちの時代は終わっている」
「うちらは余生を楽しむのみ、やな」
「協力する気はないが、邪魔する理由もない」
「そういう事や」
陽光の中、ヒデヨシ、ローズ、アクアが歩く。
街はいつもと変わらず、まばらな人通りと立ち尽くすオートマター。
エルフと思わしき人も、よく見れば引き連れているのはオートマターが多い。
「結局、協力は取り付けられませんでしたね」
ローズの残念そうな顔が見える。
「協力は得られないと思っていた」
「ひとまず調査している事を認知してもらい、了承も取った」
「それだけでも大収穫だよ」
「ただ、重要な情報が得られそうも無いのが困りましたわね」
アクアの言葉には、ため息が混じりこむ。
「長老とも引き続き交流を進める」
「交流も進めば、出てくる情報もあるだろう」
「そうですわね」
「趣味の話とともに、探って見ますわ」
「ああ、その辺りはアクアに任せる」
「情報の精査と記録はローズ」
「はい、おまかせください」
進むヒデヨシ一家、未だ手がかりすらない状況は変わらない。
そんな三人を見つけた男が一人。
青白い髪の美男子、前髪が目にかかり、その眼光がヒデヨシを捉える。
ルーシェル・トレヴァー。
強烈な不快感に心を支配され、それを憎しみへと転化する。
睨みつけるその目を見れば、彼の怒りと憎しみが伝わるほどの眼光。
随分さまよったのだろう、服は汚れ、美男子が陰る。
家を出た時と変わらないことは、右手に握られたナイフ。
「見つけた・・・、アクアマリン」
「許せない、なぜ僕を捨て、アレのそばに居る」
弾けるように走る、発射されたように真っ直ぐと標的へ向かう。
走り出したルーシェルは、この静かな街では特に目立つ。
だからこそ、ヒデヨシはいち早くその動きを捉える事が出来ていた。
「アクアっ」
ルーシェルの標的は、ヒデヨシではなかった。
その凶刃が捉えていたのは、アクアマリン。
アクアの反応が遅れていた、その様子を見てヒデヨシがかばう。
自分に引き寄せると言うより、ナイフの軌道から強引に引き抜く。
だが、それこそがルーシェルの狙い。
ルーシェルは、はじめからアクアを傷つけるつもりは無かった。
大げさな行動が、ヒデヨシの目に止まり対処をさせる。
本当の標的の動きが止まる。
ナイフは、真っ直ぐヒデヨシへと進む。
強引にアクアをかばい、体制を崩していたヒデヨシには避ける術が残されていなかった。
滑り込むように、ナイフはヒデヨシの胸に突き立てられて止まる。
それを見てルーシェルは笑い、ナイフは手を離れた。
「ヒデヨシ様っ」
ローズの叫びが響き、アクアがすぐさまにヒデヨシの体を支える。
「捕えろっ」
ルーシェルの耳に、その声だけがこだましていた。
だが、捕らえられたとしても、目的は達成している。
アクアから、あの男を引き剥がす。
そうすれば、彼女はこの僕のものだ。




