表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
66/71

第六十五話 〜仲間たち〜

 ヒデヨシ一家の仮拠点。


酒場の賑わいが少し漏れ聞こえる中、ヒデヨシとテーブルを囲む。


ローズ、カール、アクア、リール、それにイリーナとナーシュ、ノートリス。


「そうか街の外にも入り口はあったか・・・」


「ええ、既に崩壊していて、使えるものではありませんでしたが」


ヒデヨシの言葉に、カールが続けた。


「まだ存在する可能性もある、引き続き森の全捜索を進めてくれ」


「わかりました、ヒデヨシ様」


「こちらでは、長老カムラン様の動向を監視しておりました」


アクアが、次の話しを展開する。


「カムラン様、フェイスタンロール様、ロカ様は行動をともにする事が多いです」


「最年長の三人で、街の権力者と言うより気の合う友達という事だろうか」


「ええ、あまり話してはくださりませんでしたが」


「外部の人間を拒んでいるようではないようですわ」


「調査内容は、資料としてローズ様が作成致しました」


「ああ、ありがとうアクア、ローズ」


「カムラン様のお勧めするドラマというもの」


「非常に興味深い演劇でございましたわ」


アクアが、気恥ずかしそうなローズと共に笑う。


「・・・ドラマか」


「皆に伝えておきたい事がある」


ヒデヨシの顔つきが変わった事で、家族たちも緊張を見せ始める。


「私、ヒデヨシ・ハシバは召喚された異世界人だ」


人々が息を飲む音が聞こえ、ヒデヨシはそのまま話を続ける。


「そして、エルフセインには私が見慣れたものが多数ある」


「ここからは予想だが、古代文明には召喚された人間が多く関わっていると思う」


「私と同じ時代やもっと先の時代」


「私の時代では絵空事とされ、研究だけは行われていたような事も実現している」


「この世界にある、どんな技術よりも高い古代文明」


「古代文明には戦争の技術もあったはずだ」


「王が一人となるまで続きかねない戦争を、終わらせられる可能性がある」


「それは両方を殲滅出来るという事でしょうか」


ローズの不安が漏れる。


「その方法は、なるべく使いたくはない」


「停戦の交渉を行うために、必要な武力が手に入るかもしれない」


それぞれが、それぞれに思う中、ヒデヨシが口を開く。


「皆、交渉とはどうやって行うものだと思う」


「交渉・・・、ですか」


アクアもローズも、それぞれに首をかしげて唸る。


「例えば、まずは話しをして、互いの主張を聞くとかでしょうか・・・」


「双方の利益を探り、妥協点を見つけていく・・・とか」


「いわば腹の探り合い」


「だがその前に、交渉に至るには対等か優位にある必要がある」


「弱い側から交渉を始める事は、絶対に出来ない」


「単純に強いというのは、最も原始的で一番交渉に優位なものだ」


「弱者からの要求など、力で封じてしまえば良いのだから」


ヒデヨシが、皆の反応を確かめるように眺め見る。


「残念ながら、私は弱い」


「世界を相手に個人で戦えるジェロイ様、そしてエドガー様」


「召喚者にもかかわらず、私は蹂躙される一般人と違いは無い」


「私は、純粋な力や暴力以外で、平和的な解決を目指していた」


「だがこの戦争を終らせるには、ある程度私が振るえる戦闘力が必要になると再確認した」


「私は、私に賛同する者達を集めて、それを力にしたいと思っている」


「個人の力ではなく、集団の力で世界を変える」


「それが、私に出来る平和への道だ」


一息入れたヒデヨシ、まわりはさらなる言葉を待っていた。


「交渉とは何か」


「交渉は人間が知恵あるものである、何よりの証明である」


「力でねじ伏せ奪うだけなら、本能だけの動物と同じだ」


「権力者や力のあるものは、それだけで優位なのだ」


「そういうものほど、進んで譲歩するべきなのだと私は考えている」


「だが、残念ながら欲に駆り立てられ、動物に成り下がる者も多い」


「今のジェロニアは、そういった欲の権力者に支配されている」


「一個人の強大な力の威を借り、搾取を続ける権力者」


「搾取される側は、ずっと不満を溜め込んで居たのだろう」


「ジェロイ様の逝去は、ただのきっかけに過ぎない」


「この戦争は起こるべくして起こったものだが、終わらせる方法はある」


「私はその一つが、この街に眠っていると予想している」


「私が古代文明を求める理由は、そんなところだ」


「以上、何か質問はあるか」







 酒場の喧騒も聞こえなくなった中、ヴェーゼが手を上げ、その意志を示している。


「ヴェーゼ様、どうぞ」


「貴方は強大な力を得ても、ジェロイと同じように抑止力として使う」


「そう信じて良いのかしら」


ヴェーゼは、真っ直ぐヒデヨシを見ていた。


「今は言葉でしか伝えられません」


「私は戦争が嫌いで、最後の手段にしたいと思っている」


「あんたには非凡な魔法の素質がある、それでも心は変わらないと」


「ええ、変わりません」


しばらくの沈黙、その中で二人は真っ直ぐな目を交差させていた。


「良いわ、交渉成立」


「あたしは、古代魔法の知識を持ち帰ると、女王アザゼルへ約束したの」


「あんたを信じる、信用出来るかは集まる者達を見ればわかるわ」


「ありがとうございます、ヴェーゼ様」


ヒデヨシの礼を見て、ヴェーゼは笑った。


「女王も同じように、戦争を終らせる事を考えているわ」


「あんたを必ずカザルへ連れて行く」


「嫌とは言わせないわよ」


「私はジェロニアから追われる身です」


「カザルが歓迎してくださるのであれば、望むところです」


「カザル三柱爵、ヴェーゼ・ミドガルズオルムの名において」


「貴方の亡命を保証します」


「ありがとうございます、ヴェーゼ様」


「もう礼は良いさ」


穏やかとなった空気の中、一人の女性が前へ出る。


「貴方の知りたいものと関係は無いかも知れない」


「あたしが、遺跡の秘密を知りたい理由だ」


「イリーナ様・・・」


ヒデヨシの前へ、イリーナが進み出る。


「エルフにはもう六十三年もの間、子供が生まれていない」


「ここにいるノートリスが、街で生まれた最後の子だ」


「いくら長命で不老とはいえ、他の人間種を考えると異常だと思う」


「あたしにも・・・子供は生まれなかった」


「最初は自分のせいなのかと思っていたけど」


「これはエルフ全体の問題のようなんだ」


「確かに、子供が生まれない種族は滅びていくだけだ」


「子供が出来ない理由が、わかるかもしれない」


「こんな時間の止まったような街だけどさ、故郷なんだ」


「ゆっくりと滅んでいくのを黙って見てもいられない」


「それに街の外にいた頃、友人の子供を育てる機会があった」


「あたしも親になりたい」


「それが遺跡の秘密、エルフや街の秘密を知りたい理由さ」


ヒデヨシは、遺跡の古代技術に世界を変える可能性を見出している。


ヴェーゼは、古代魔法がアニーの助けになると考えている。


イリーナは、自分の子供が欲しいという感情の解決口が遺跡にあると考えた。


全員の目的は違う、だが古代文明の秘密を明かすという目標を同じにしていた。


目的は違えど、同じ目標を目指す。


ヒデヨシの仲間たちは、それぞれの思惑を明かし、信頼関係へと変えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ