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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第六十話 〜閉ざされた街〜

 なんでも無い街の酒場。


木造建築二階建て、アンテナのようなものが屋根に有り、光り輝く看板。


『美味しい発泡酒の金麦酒場』


ヒデヨシだけが、古い記憶の酒場を思い出して笑う。


それはまるで飲み屋街の、大衆酒場の装いだった。


「イリーナ、倉庫の片付けが終わったよ、休憩にしよう」


細身の長身、短い金髪でにこやかな笑顔。


耳の長いエルフの男性が、イリーナへと声をかけた。


「ナーシュ。ありがとう」


「今、アクアさんから頂いた紅茶を用意してるわ」


イリーナが答え、ナーシュが率いる男性陣を見回している。


「みんな適当に掛けてちょうだい、こっちで運ぶわ」


女性陣は、紅茶と焼菓子を用意で、それぞれの役割をはたしていた。


「皆さんお疲れ様でした、グリムウェル特産の紅茶です」


イリーナとナーシュ。ローズ、ヒデヨシ、アクアとリール。


カールとヴェーゼ。自由に座ると、その関係性は見えてくる。






 イリーナが紅茶を一口、ため息を漏らす。


「香りも良いけど、良い味ね、このクッキーとも合う」


「グリムウェルで最高の紅茶と、カナリスで有名なクッキーです」


ヒデヨシが、イリーナの疑問に答えた。


「どちらも、美味しいわね」


「ウチでカフェをやると、人気が出るかもね」


「お気に召して頂いたようで、何よりです」


「あんたは食料品を専門にしてるのかい」


「そういうわけではないのですが、手持ちの貴金属はこちらではあまり売れないかと思います」


「売れないって事は無いんじゃないかな、若い奴らは興味あると思うよ」


ヒデヨシが紅茶のカップを見つめて、手触りを確かめる。


「この街の高い技術力に比べると、見劣りしてしまうもので」


「それでも遠い国のものは珍しいものさ」


「そうだと良いのですが」


ヒデヨシが確信を持った言葉。これまで見てきたものとの大きな違い。


手にしたプラスチック製のコップ。この世界へ来て、一度として見た事が無いもの。


エルフセインへと入ってからというもの、妙に懐かしいものと出くわし続ける。


この街だけが異質、古代魔法文明時代の技術が残っているのだろうか。


そしてその古代技術は、今まで経験したこの世界の技術に比べ、千年は進んでいる。


千年前の骨董品を、古美術商として売りに来たのであれば良いだろう。


しかし、同じ時代で千年遅れを売る事など出来るのだろうか。


ヒデヨシは家族が談笑する間も、この異質な街の事を考えていた。






 紅茶で一息、休憩も終わり、手持ち無沙汰。


「家に洗い場があるとは、便利ですね」


ローズがイリーナを手伝いながら話した。


「この街では一般的なものよ」


「ヒデヨシ様が、高い技術力とおっしゃる意味がわかりました」


「彼はよく見てるわね」


洗い場、台所の入り口にリールがひょっこり顔を出す。


「ローズ様、夜までは街を見てまわりませんか」


「あらリール、そうね、酒場にもお客さん来ないし」


「姉さまとヒデヨシ様も一緒です」


「イリーナ様、少しお出かけして来てもよろしいですか」


「ああ良いよ、行ってらっしゃい」


洗ったコップを片付け、イリーナがローズを促す。


リールがローズの手を引き、その場を去っていく。


「イリーナ、彼らに伝えなくて良かったのかい」


ナーシュが、酒場の奥へ続くもう一つの入口に寄りかかっていた。


「良いさ、多分彼が気づく」


「口で説明するより、きっと見た方が早いさ」


カールは荷車と犬達の世話へ、ヴェーゼはいつの間にか出かけている。


ヒデヨシ達は、酒場が盛り上がる夜になるまでは、街の散策へと出かける事とした。






 街を歩く一家、それぞれに手をつなぎ、リールが走り出して、ローズが追いかける。


「すごいです。勝手に開きます」


白壁の建物前、自動扉を見てリールがはしゃぐ。


開いた扉の先では、きれいな姿勢で立つ女性がリールに反応していた。


「いらっしゃいませ、どのようなご要件でしょうか」


「あっ、その申し訳ございません」


ローズが、リールを捕まえてその動きを静止する。


「こちらは何をする施設ですか」


ローズの更に後ろから、ヒデヨシは無表情な女性に話しかけた。


「こちらは注文所です、ご注文はございますか」


「注文・・・、失礼、最初から説明してくれないか」


ヒデヨシは、建物の中へと入り、女性に説明を求めた。


「始めての方でしょうか、住民IDを確認させていただきます」


しばらく間があく、アクアも建物へと入り、自動扉は閉じるふりをしてまた開く。


「住民IDの確認が出来ません」


「申し訳ございません、注文所は住民のみが利用可能です」


女性が深い謝罪をする。


「住民IDですか、それはどうすれば良いのですか」


ヒデヨシが女性にたずねる。


「権限者に申請をお願いします」


「権限者・・・、どういう事でしょうか、ヒデヨシ様」


ローズの不安が辺りに伝わる。


「とにかく、今は利用できないらしい」


「申し訳ございません、ゲスト様」


女性は無駄一つ無い所作で、機械的な対応を見せている。


「みんな、とりあえずここを出よう」


家族を引き連れ、ヒデヨシは建物の外へ出る。


無表情な女性は、それをただ見送っていた。







 まばらに人が座る、午後のカフェ。


ヒデヨシ一家も、このカフェでテーブルを囲んでいた。


「注文所の女性の、ご家族の方でしょうか」


アクアが、率直な感想を一言漏らす。


「住民IDをお持ちで無い方は、ご注文頂くことが出来ません」


無表情な女性、注文所の女性と瓜二つなウエイトレスも、住民IDを求めている。


「ここでもIDが必要になるのか」


「すまない、注文はしないが、ここで休憩しても良いだろうか」


「問題ありません、ゲスト様」


ウエイトレスは、一礼してヒデヨシ一家の元を去る。


「ゲスト様・・・、か」


「なんだか不思議な方ですわね」


「この街では、住民IDが無ければ何も出来ないようだな」


「住民IDってなんなんでしょう」


「僕、シュタイゼルの名簿を見たことあります。名簿番号が振られてました」


「でも、彼女はわたくしたちを見ただけで、住民ではないとおっしゃいますわ」


アクアが、不可思議な事を指摘した。


「ああ、その事は住民IDの魔道具か何かだろう」


「持っていれば、彼女達はそれを感知出来る魔道具という事でしょうか」


「そんなところだろう」


「この街は、本当に見たこともないものが多いですね」


ローズは、形容詞する方法が思いつかなかった。


「ひとまずイリーナさんのところへ戻ろうか、聞きたいこ事も出来た」


「そうですわね、この街では買い物も出来そうにありませんし」


カフェでは、まばらな客が飲み物を手に話し込んでいた。


住民として登録された者達だけが、それを楽しむ。


ここは、エルフセイン。登録された住民の為だけの街。

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