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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第五十八話 〜エルフの街へ〜

 森の手前、かつての村で商人一家は出立の準備をしていた。


「そうか、状況は理解できた」


「ヴェーゼ様、私の家族を助けてくれてありがとうございます」


ヒデヨシは、綺麗な礼をヴェーゼに向ける。


ヒデヨシに抱きついていたリールは、それを見て同じ礼を見せる。


「まあ、その子に感謝するといいわ、私を見つけたのはリールちゃんだもの」


ヴェーゼは、一家からの度重なる感謝に照れを隠す。


「三人とも、そろそろ出発しますよ」


騎手、荷台から犬達を操るカールが、声をかけた。


「ヴェーゼ様、お隣良いですか」


リールは尻尾をフリフリ。輝く目はきっと武勇伝を求めている。


「ん・・・。良いわよ」


ヴェーゼは、リールをひとなでし、荷台へと持ち上げて乗り込む。


荷台に商人一家は乗り込み、犬達は歩み始めた。





 先の尖った槍のような木々。針葉樹とよばれる木がこの森の大半を占めていた。


道に沿い、森に入ってすぐに辺り一面は木々に囲まれる。


エルフの国へと続く道は、土道ながらも草木は取り除かれ、外界を拒んでいる様子はないだろう。


だが、商隊の犬車にすれ違うようなものはない。


カールは犬達の耳が動く様を見て、警戒を切らさぬように手綱を操る。


荷車の中からは、楽しそうな家族の声が漏れ聞こえている。


「旦那様、やはりわたくしはここが一番好きですわ」


猫のような美女は、ふわふわの尻尾を揺らし、ヒデヨシの左腕に押し付ける。


「ええ、なんだか懐かしいですね、その、アクア・・・様」


「もうっ、どうして呼び方が戻ってしまいますの」


アクアは、ヒデヨシを見上げて憤る。だが全く怒りを感じないのは、漏れ出した愛の故か。


「いえ・・・、アクア」


ヒデヨシは、奪い取られていた腕を取り返し、代わりにアクアの肩を抱き、引き寄せる。


「つい、以前の癖が出てしまっただけです」


「しばらく、こうして居ても、よろしいですか」


アクアは、引き寄せられた事に驚いたが、すぐに安らかな顔でヒデヨシに寄りかかる。


「ええ、もちろんですわ。ヒデヨシ様」


アクアは、そんな姿を羨ましそうに眺める一人の女性に気がつく。


「ローズ様。こちらにいらっしゃいな」


「えっ、アクア様・・・、その、わたくしは・・・」


「ヒデヨシ様に甘えるなら、きっと今が一番良いと思いますわ」


アクアは、ヒデヨシの空き席、右腕側に目線を飛ばして促していく。


ローズは黙ってヒデヨシの元へ進み、右腕側に座り込んだ。


みるみるうちに真っ赤になるローズの耳。


風邪でも無いのに熱を持ったローズは、そのままヒデヨシに寄りかかった。


ヒデヨシも、黙ったままローズの肩を取り引き寄せる。


「ローズ・・・」


「人はこうしている時が一番幸せだと思いますわ」


両手の華。その一輪アクアは、体中から溢れた幸せを言葉でも伝える。


「そうかもしれません」


「いや・・・。きっとそうなのでしょうね」


ヒデヨシは天を仰ぎ、目を閉じてこの時間をただ過ごしていた。





 ふわふわ獣人とつるつる竜人。


ふわふわのお気に入りは膝の上、つるつるお肌で抱きかかえられつつ、話は止まらない。


「ミドガルズオルム様はいつも寝てらっしゃるのですか」


「ええ、最後に起きていたのは四年くらい前だったかしらね」


「四年も寝ているのですか、そんなに寝ていたら、寝ぼけて椅子にぶつかってしまいそうです」


「母の時間感覚は、私でもついていけないわ、数万年は生きているらしいから」


「数万年ですか、僕は四年も寝てしまうと十三歳になってしまいます」


「仕事もしないで寝てばかりだと、お父様に怒られてしまいますね」


リールはニコニコ話す。


「母はもう、移動したりは出来ないから、寝てばかりなのよね」


「大きすぎて、身じろぎしただけで天変地異がおこっちゃうわ」


「ミドガルズオルム様は、大陸を背負っているほどの大きさですものね」


「お話してみたいなあ」


リールが、計り知れない大きさを夢想して、天を仰ぐ。


「カザルに着いたら、皆で会いに行ってみましょうか」


「本当ですかっ。是非お願いします」


「貴方が声をかけたら、母も目覚めるかもしれないわね」


ヴェーゼがリールをひと撫でする。


「僕は時々、お寝坊な母様を起こしにいってます」


自信満々のリール、でもその源泉はきっと、大陸龍とお話したい、だ。


「ふふ、それじゃあ母も起きざる得ないわね」


「はい。ミドガルズオルム様とのお話、楽しみだなあ・・・」


和気あいあいな家族、カールが荷車に充満する愛を確認しながら微笑む。


「皆さん、街が見えてきました」


森の中に開けた場所。人工的に切り開かれた広場に作られた街。


豊富にある木材を利用した街並みは、ほぼ茶色で統一されている。


街のところどころには巨木が残り、街の景観に交わる。





 エルフ族の衛兵が、街へと向かう商隊を見ては近寄っていく。


「商人の一団かい、何をしにエルフセインへ」


人と同じところにある耳、だがその耳は先が尖り、まるでうさぎのように長いものだった。


金髪に美しい青い瞳、エルフの男性は警戒しながらカールに声をかける。


「長く行商をしていましてね、こちらにも街があると聞いてやってきました」


「ふむ、何か証明するものはあるか」


「ヒデヨシ様、商人証ってすぐに出せますか」


カールが荷車の中へ声をかける。


「ああ、ちょっと待ってくれ」


「ローズ、商人証はどこにしまったかな」


「はい、ええとアクア様。この荷物に入れてましたっけ」


「どこだったかしらね、わたくしは見た覚えがありませんわ」


「僕わかります」


「そうか、中身の管理はいつもリールがやっていたな」


荷車の中は慌ただしく動き回る。


「ちょっと待ってくださいね、今探してるみたいです」


カールは、荷車から漏れ聞こえる内容を衛兵へと伝えた。


「はいっ、ありました商人証」


荷車から小さな手がニョキッと出る。


「ありがとう、リール」


カールが商人証を受け取り、その証書を確かめた。


「グリムウェルで発行された商人証です、こちらでいかがでしょうか」


カールは、商人証を衛兵にわたす。


「へえ、随分遠いところからいらっしゃいましたね」


衛兵は、商人証を確かめて答えた。


「エルフの街で、珍しいものを仕入れたいと思っています」


「後で僕も寄らせてもらいますね、遠い国の品も見てみたいので」


「おーい、問題無さそうだ。通して良いよ」


衛兵の男性は、仲間たちへ安全を伝えて警戒をとく。


「ありがとうございます」


「ようこそ、エルフセインへ」


商隊の犬車は、ゆっくりと街へと入っていく。


リールが荷車から顔を出し、衛兵へと手を振り、アクアが落ちないように抱える。


そんな微笑ましい姿を、衛兵は手を振り返して答えていた。

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