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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第五十話 〜取り戻すべき人〜

 「わたくしの弟を助けてくれた事、心から感謝致します」


ケイ・トレヴァー伯爵領。トレヴァーの街。


そこに立つ、一番豪華な邸の一室。トレヴァー邸。


アクアマリン・バーンシュタインは、ルーシェル・トレヴァーへ感謝を伝えた。


適切な医療行為により、リールは回復し、今はベッドで完全回復を待つのみ。


「とんでもございません、アクアマリン様の愛しい弟を見捨てる事など出来ません」


うざったい前髪を右手で後ろへ回し、演技立ててルーシェルはアクアに話す。


魔人系の血が入っているのか、青白い髪の人間種。


強烈な自負心を感じる目は、アクアマリン以外を映さない。


「それで、ルーシェル様、ヒデヨシ様はどちらにいらっしゃるのですか」


アクアは、穏やかな顔をやめ、睨みつけるようにルーシェルを見る。


「ああ、あの平民ですか、もちろん平民に相応しい場所ですよ」


アクアは後悔している、つい口にした軽率な言葉を。


『旦那様』。いつも浮かれてヒデヨシをそう呼んでいた。


自分を好いているであろう男の前で、自分が愛している男を呼び、そうして今がある。


「ルーシェル様、ヒデヨシ様はこの世界にとって重要な人です」


「傷つけるなど、あってはなりません」


「卑しい平民に価値などありません、貴女のような高貴な方に相応しくない」


僕こそが相応しい、続きは言わなくともわかる。


ルーシェルは、そう顔で言っていた。


話しは平行線、一人の男は、アクアにとって世界で最も必要で、ルーシェルにとっては世界で最も不要。


リールの治療を申し出て、自身の邸へと招待したこの優しい貴族は、目的を持って優しさを利用する。


アクアへの印象を良くするため、打算的で貴族特有で傲慢だった。


結局、ヒデヨシの居所は一切の情報が無く、秘匿されたまま。





 事実上の軟禁状態、アクアは、昨今の治安を理由に外出を禁止されていた。


アクアは、自身の過去を省みる。


興味を惹かれた殿方に愛を振りまき、この体を利用して誘惑した。


ヒデヨシ様に言われて、少し考えていたが、愛する殿方に対しては利用するべきだと今でも思う。


だから、わたくしの過去の行いは間違っていた。


本当にわたくしを愛して欲しい人にだけ、一番の愛とわたくしを利用しなければならなかった。


ルーシェルの美しい容姿に興味を惹かれ、誘惑して愛させてみたが、ありふれたつまらない傲慢な貴族。


頭も良いわけではなく、駆け引きにもならず、ただわたくしを所有したいだけの男。


遠い地の貴族で、もう二度と会うことも無く、手紙のやりとりだけで終わると思っていた。


過去の行いから生まれた結果、過去のわたくしによって、愛する弟が救われて、愛する旦那様は奪われた。


これは罰なの。それとも幸運。わたくしの愛がもたらしたものは・・・。


これで永遠にヒデヨシ様を失うのであれば、わたくしは贖罪の道を進む殉教者となる。


まだ失ったと決まったわけでは無い、わたくしの全てを利用し、必ず見つける。





 トレヴァー邸の一室、アクアの部屋となっていたここで、密会は行われていた。


アクア、ローズ、カール。


目的は同じ、ヒデヨシの居場所を見つけ、ヒデヨシを奪還する事。


「本当に、わたくしの浅はかさがこのような事になってしまい、ご迷惑をおかけしました」


アクアが深く謝罪する。心の底から沸き上がる謝罪だった。


「アクア様、ヒデヨシ様を探しましょう、まだ間に合います」


「そうですよ、俺もそんなに悪いことしたなんて考えてません」


「悪いのはあいつですよ、ヒデヨシ様だけを何処かへ連れて行ってしまって」


許す許さないではない、ローズとカールは罪だと思っていない。


アクアの心の中にだけある罪。


「ルーシェルは、厄介な男ですわ、ヒデヨシ様は恐らく牢獄か、奴隷として使われているでしょう」


「でも、どの牢獄なのか、どこで奴隷となっているのかが分かりません」


アクアの力無い言葉。


「何か利用できるものはありませんかね」


カールが尋ねる。


「少し、使えるものを整理してみましょうか」


アクアの提案。それに二人が答えていく。


「リールは既に全快しています、動けない振りだけしてもらって、監視が緩くなるようにしています」


「荷車の荷物は手を付けられていません、監視がありますので逃げる事は出来ませんが」


「皆が持っていたお金はどうかしら」


「わたくしはあまり持っていません」


「俺もあまり、一番持っていたのは多分ヒデヨシ様です」


「ヒデヨシ様のお金、もし荷車に残っているなら回収致しましょう」


「まずは荷車を確認するようにします」


「ローズ様、わたくしが動くと警戒が大きくなります、頼んでもよろしいかしら」


アクアの願い、ローズは当然の如く。


「はい、そのアクア様、上手く荷車を確認する知恵をお貸し願えますか」


「わかりました、一緒に考えましょう」


ルーシェルの目を盗み行われる密会。


全てはヒデヨシを取り戻すため。


ヒデヨシの優しさに救われ、導かれ、惹かれた三人。


ヒデヨシは、確かに打算的に行動して、自身に有用な者達を味方に引き入れた。


だからこそ、三人にとって有用なヒデヨシを取り戻したい。


全員の利害は一致している、絶対的な信頼や、友情や愛。


形だけは柔軟に変化し、全てを含む。複雑な心の模様。

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