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The way to the kings  作者: 使徒澤さるふ
第二章 逃亡、行商編
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第四十七話 〜戦争の裏側、略奪と死〜

 街道を犬車が走る。重たい荷車を引き、大狼は逃げ続けている。


「くそっ、やはり逃げ切れない」


ヒデヨシが焦りを見せ、手綱を握りしめる。


ヒデヨシ一家の周り、そして後ろには騎竜や戦車を引いた狼が取り囲んでいた。


怒号と共に盗賊頭が荷車を襲い、カールが一人で対処を迫られる。


「カール、逃げながらでは対処が出来ない、止めて殲滅は出来ないのか」


「一気に全員をやらないと危険です、俺で全員はやれません」


二〜三十人からなる盗賊集団、統率が取れているようには見えないもの、目標は一つしかない。


止まれば集団がなだれ込み、全員での対処が必要だ。


カール以外はほとんど実戦経験がない、襲われれば抵抗できず、犠牲が出る可能性が拭えない。


結局、止まっての戦闘より、まだ各個撃破が可能な、走りながらを選択せざる得なかった。


数こそ少しづつ減るものの、カールの負担は大きく、難しい対応をしている事は間違い無い。


走っているからこそ投擲や弓は届かない、だが走っているからこそ、それ以外の対応も難しい。


「ヒデヨシ様、魔光石を使いましょう」


ローズが、既に魔力を込め始めた石を手に声をあげる。


「そうか、よし、カールっ、車を止める、合図したら全員目をつぶれ」


カールは察して、相手の陣形を確認して対処を考えている。


ヒデヨシが手綱を握り、犬達を急停車させ、荷車は勢いが止まらず車輪が滑る。


盗賊団は、止まった犬車を見て、周辺を取り囲み弓を引き絞り、物を投げる構えを見せた。


盗賊首領が先陣を切り、止まった犬車に近づく。


意識の外、不意に石ころが荷車から転がり落ち、少しの注目を集めた。


「今だっ」


ヒデヨシの叫びとともに、石ころは突然発光し、辺りは爆発のような光に包まれた。


目を奪われていたものも、見ていなかったものも、目を閉じなかった者達は閃光で視界を失った。


止まったように動かない時間、カールはその時間で殺戮の中を駆ける。


盗賊首領の首は飛び、周りにいた集団もちぎれ飛ぶ。


悲鳴で闇雲に弓は発射され、投げた斧が地面に落ちる。


あっという間に一方向が死に、残りへ向けてカールは動く。


強い殺意が一瞬で接近し、認識する間も無く盗賊は命を絶たれる。


生きている盗賊は三人となり、ようやく視界は戻り始めた。


戻った視界で生き残りは恐怖する、何故か仲間は死んでいて、何故か俺は死んでない。


鳥人は乗っていた戦車を捨て、空へと活路を見出した。


カールは素早く地面の手斧を拾い、鳥人に向けて投げ放つ。


手斧は鳥人の背に深く刺さり、飛行を続けられずに地面がとどめになる。


衝撃で首が折れ、既に絶命した鳥人が横たわった。



 「ヒデヨシ様」


逃げた盗賊を追撃しようとしたカール、女性の叫びがそれを止める。


「リールが、リールがっ」


涙を感じさせる叫び、そしてヒデヨシの声。


「リールっ」


荷車、幌にはいくつかの穴が空き、貫通しなかった矢が布に残る。


貫通した矢は、望まない結果を生み出していた。


リールの左肩から胸の間、その場所に矢が一本突き刺さっていた。


苦しみの表情をするリール、ヒデヨシは素早くリールの意識を確認し、次へ進む。


「すぐに綺麗な布を、リール、私の声が聞こえるかっ」


「ヒデ・・ヨ・・・シ様」


リールから弱々しい反応が返る。


ヒデヨシは矢の位置を確認し、心臓では無い事、危険ではあるものの、助かる傷だと考えた。


だが、リールは子供で、ここは街道。


対処を間違えれば、リールは死ぬ。


刺さった矢からは血が漏れるが、それを抜くことが正しいのかわからない。


「カール、ナイフを出してくれ」


ヒデヨシの指示に、カールは懐のナイフを取り出して渡す。


ヒデヨシは、素早く傷口付近の服を切り、それを確認する。


「ローズ、お湯を沸かせないか、アクア、荷物をベッドにしてリールを寝かせたい」


ヒデヨシが家族へ次々と指示を出す。


「カール、外の警戒を頼む」


それを受けて家族達は、それぞれ必死に動く。


リーリール・バーンシュタインの死など、望まれるはずが無いのだ。


ヒデヨシは考えた、矢は抜かなくてはならない、だが血が止まらなかったら。


慌ただしく動く時間、リールの為のベッドが用意され、ひとまずそこへ寝かせる。


「ヒデヨシ様、どうしましょう、どうすれば・・・」


アクアが揺れる、動じず常に真っ直ぐな瞳をしていたアクアが見る影もなく、恐怖に歪んでいた。


愛する弟が危機に貧している、何も出来ず失う事への恐怖。


ヒデヨシは、突如ナイフで指先を切り、その血を床へ滴らせた。


「えっ・・・」


アクアから漏れた声は、当然の反応。


だが、ヒデヨシは気にせず術の詠唱を始めている。


ローズは詠唱を聞き、構文や単語こそ覚えがあるものの、聞いたことの無い詠唱に驚く。


ヒデヨシ以外、誰一人やっていること、やりたいことがわからない。


次第にそれが明らかになる、ヒデヨシの指、傷が塞がりはじめ、血が止まる。


「そ・・んな・・・、治癒・・・魔法。でも聞いたことも無い詠唱」


「高位の神官様しか使えない術を、なぜ・・・」


ローズとアクアが、それぞれに漏らす。


「即興で治癒魔法を構築した、肉体の再生能力を活性化して傷を塞ぐ術」


ヒデヨシが、行った事の説明をする。


「効果はこれで検証出来た、他人にもかけてみたいところだが・・・」


ヒデヨシの言葉で、アクアが素早く動く、ナイフを自分の指に当て、傷を作った。


「わたくしの指でお試しください」


強い意志のアクアに戻り、そして術は試される。


「そうか、この構成だと他人を対象に取っていない」


必要な修正、即興の術は、当然ながら欠陥だらけだった。


「アクア、痛くないか」


「ええ、問題ありません」


アクアの指からは、まだ血が滴り落ちている。


しばらくの詠唱と停止、紆余曲折を経て、アクアの血は止まった。


さあ、次が本番だ。

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